第435話 クランハウスへ
――思い立ったが吉日、という諺はこの世界には存在しないのだが、全員の意見が一致したのでレナ達は徒歩で金色の隼のクランハウスへと向かう。いつもならばダリルの馬車を借りるのだが、ダリルの方もずっと仕事を離れていたので今日の所は屋敷に残って書類作業を行い、馬車の方も仕事で必要になるかもしれないので借りれなかった。
ドリスの家に向かって馬車で移動するという手もあったが、距離的にも彼女の家に向かうよりも歩いた方が早いとの事で徒歩で決まった。しかし、普段は賑やかな城下町も火竜のせいで街道には人気がなく、殆どの店も閉まっていた。
「なんか凄い光景だね……城下町がこんなに静かになってるの初めてな気がする」
「そうですわね、こんな昼間なのに人がいないなんて普通なら有り得ない光景ですわ」
「これだけ人気がないと盗賊ギルドの連中が悪さそうしそうだな……」
「そうですね、そこは気を付けた方が良いかもしれません」
火竜の件も問題なのだが、レナの場合は盗賊ギルドに狙われている立場でもあり、この機会に盗賊ギルドの連中が襲ってくるのではないかと警戒せずにはいられない。しかし、これだけの面子が集まっているのだから仮に七影が赴いたとしても戦える戦力は残っているだろう。
最も油断は禁物なので早急にクランハウスへと向かい、用事を済ませる必要があった。レナ達は中央街へと辿り着くと、前にも訪れた事がある金色の隼のクランハウスへと辿り着く。
「えっと……開いてるのかな?」
「門番はいないようですが……」
「とりあえず、ノックしてみるか」
デブリが巨人族でも通れる扉の前に移動すると、ノックを行おうとした時、内側から扉が開かれて彼よりも巨体の人間が姿を現す。
「ふああっ……ん?なんだお前等?」
「うおっ!?きょ、巨人族!?」
「ダンゾウさん……じゃない?」
姿を現したのは巨人族の男性だったが、レナ達が知っているダンゾウではなく、まだ年若い男性だった。男性は冒険者なのか胸元に大きな白銀のバッジを身に着けており、それを見たレナは彼も自分と同じ白銀級冒険者だと見抜く。
巨人族の青年はクランハウスの前に立つレナ達を見て訝し気な表情を浮かべ、用件を尋ねてきた。どう見ても相手は子供なので仕事の依頼とは思えず、乱雑に対応を行う。
「おい、ガキ共。こんな所で何をしてる?ここを何処だと思ってるんだ、金色の隼のクランハウスだぞ?」
「ええ、知ってますわ。私達はここへ入るために来たんですもの」
「何だと……推薦状はあるのか?」
「勿論、持ってますわ!!」
ドリスは堂々と自分が渡された推薦状を取り出すと、他の者達も推薦状を用意する。それを見て巨人族の青年は怪しく思いながらも推薦状を確認すると、中身を確認して驚く。
「こ、これは……まさか、お前等!!いや、君達はあの魔法学園の生徒なのか!?」
「ええ、そうですけど……」
「ちょ、ちょっと待ってろ!!すぐに上の方に話を通してくる!!」
巨人族の青年は推薦状を受け取って中に戻ると、しばらくした後にクランハウスからいかつい顔立ちの男性が現れる。年齢は30代前半だと思われ、人間ではないのか頭に犬耳のような獣耳を生やし、右足を引きずるように松葉杖を使ってぎこちなく歩いてきた。
この男性を見た時に戦闘職の称号を持つ人間は只者ではないと気づき、男性から独特の雰囲気を感じ取る。特にナオは男性を見て何処かで見覚えがあるような気がするが、それを確かめる前に男性は話しかけてきた。
「ようこそ、魔法学園の生徒の皆さん。俺はこの金色の隼に所属するロウガだ」
「ロウガ……もしかしてあの金級冒険者のロウガさんですか!?」
「え?有名な人なのか?」
「獣人族の冒険者でその足技はゴーレムをも打ち砕くと言われた冒険者だよ!!まさか、こんな所でお会いできるなんて……!!」
「……昔の話だ」
ナオはロウガの名前を聞いた途端に驚愕し、どうやら王都でも有名な冒険者らしく、前にナオも王都で発行されている新聞か何かで彼の似顔絵が記されていた事を思い出す。
だが、当のロウガはナオの言葉に眉を顰めた。足を引きずっている事からどうやら怪我を負っているらしく、彼はレナ達を見渡すと淡々と告げる。
「お前達の推薦状は確認した。推薦状を持ち込んだという事は、うちに入りたいという事だな?」
「は、はい!!よろしくお願いします!!」
「まあ、待て……確かに推薦状は本物のようだが、うちとしては生半可な実力者を入れるわけにはいかねえ。そこでお前等には試験を受けて貰うぞ」
「試験?でも、推薦状には……」
「あの推薦状はあくまでも試験を受ける権利を与えるだけだ。あんな紙切れ一枚で金色の隼に入れると思ってるのか?」
推薦状を提出すれば金色の隼に加入できると思っていたレナ達だが、ガイルの言葉を聞いて呆気に取られる。そんな彼等を見てロウガは鼻を鳴らすと、建物の中へと促す。
「安心しろ、試験といってもあくまでも通過儀礼のようなもんだ。団長と副団長から認められたお前達にとっては簡単に突破できるだろうよ。ほら、さっさと入りな……」
「はあ……分かりました」
「なんか変な展開になって来たな」
「この流れだと、碌な事にならなさそう」
ロウガの言葉を聞いてレナ達は完全には納得し切れなかったが、とりあえずは中に入ればイルミナとルイとも会えるかもしれず、仕方なくロウガに従ってレナ達は中に入る事にした。
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