第434話 推薦状

――翌日、ダリルの屋敷の元にいつもの面子が集まる。昨日の内にミナが勘当され、ダリルの屋敷で世話になっている事は皆にも話しており、彼女の今後の事も含めて話し合いが行われた。



「魔法学園の方は残念ながら、一時休校になりましたわ。教員の多くは現役の将軍や魔導士も含まれているので指導をする時間も割くことが出来ないみたいですわ」

「じゃあ、しばらくは学校が休みか」

「いえ、休みというよりいは自宅待機といった方がいいですわね。一般の方々も用事がなければ外出は控えるように徹底しているようです」

「そのせいで色々な店もお客さんが減ったせいで、ミナを雇ってくれる所もなかった」

「ううっ……シノちゃんが色々な店を紹介してくれたんだけど、結局駄目だったよ」

「まあ、この状況では仕方ありませんよ……」

「じゃあ、やっぱりミナは金色の隼に入るしかないのか?それなら僕もついでに一緒に入ってもいいぞ!!ちゃんと推薦状は言われた通りに持ってきたからな!!」



机の上にはレナを除く全員分の推薦状が並べられ、レナの場合は金色の隼から渡された黄金級冒険者の昇格試験の推薦状を取り出す。こちらの推薦状はあくまでも黄金級冒険者の試験を受けるためだけなので別に金色の隼に入らなければならない決まりはないが、金色の隼も何の見返りも無しにレナの黄金級冒険者の昇格を促したわけではないだろう。


この推薦状を金色の隼が拠点としている「クランハウス」に持ち込めばミナ達は晴れて白銀級冒険者の資格と、金色の隼の仲間入りを果たす。元々は黄金級冒険者で構成されていた金色の隼だが、最近に難って黄金級以下の者達も加わり、徐々に勢力を伸ばしているという噂はレナ達の耳にも入っていた。



「けどさ、こんな状況で冒険者になりたいなんて言っても受け入れてくれるのかな?金色の隼も火竜の討伐の件で色々と協力してるんだろ?」

「こんな時だからこそ歓迎してくれるかもしれない。金色の隼としても火竜と戦う場合は戦力を必要としているはず。そして既に私達はゴブリンキングを倒したという実績を残している……きっと、受け入れてくれる」

「でも、別に皆も僕に無理に付き合う必要はないんだよ?僕の場合は感動されちゃったから、働かないと食べていけないという理由もあるし……」

「別にミナさんに気を遣っているわけでありませんわ。そもそも、私達も学園を卒業してから金色の隼に入ろうと思っていましたから、気にしなくて結構ですわ」

「火竜の問題を解決しない限り、学園の再開の目途も立たないしね……僕も金色の隼に入る事は賛成です」

「あたしは別に金色の隼なんてどうでもいいけど、大迷宮に入れなくなって兄ちゃんの仕事も手伝えないからな。このままおっちゃんに世話になりっぱなしなのもなんか嫌だし、そろそろどっかで働かないとな」

「私も兼業の許可は貰っているから問題ない」

「そ、そっか……皆、ありがとう!!」



理由はどうであれ、皆が自分と共に金色の隼に加入する事を決意した事にミナは嬉しがるが、レナの方は黄金級冒険者の推薦状を見て思い悩む。



「う~んっ……これ、どうしよう」

「何だよ兄ちゃん、まだ迷ってるのか?大丈夫だって、兄ちゃんならどんな試験だって一発で合格するに決まってるだろ!!」

「確かにゴブリンキングを倒したレナなら黄金級冒険者に昇格してもおかしくはないよな……」

「歴代の黄金級冒険者の記録の中で最年少は12才ですが、実の所は最年少で合格した冒険者は女性だと聞いてますわ。男性の方の場合は最年少でも18才、もしもレナさんが合格すれば男性の中では最も若い年齢で合格を果たした冒険者として名前を記録されるかもしれません!!」

「え、そうなんだ……知らなかった」



ドリスの言葉にレナは少し驚き、自分がもしも黄金級冒険者に昇格する事が出来たら男性の中では最年少の黄金級冒険者になれる事を知る。最も別に最年少には拘っておらず、レナとしては黄金級冒険者の試験の内容が気になった。


冒険者ギルドの規約によって黄金級冒険者はどのような試験を受けるのかは公表されず、仮に他の黄金級冒険者に試験の話を聞く事も許されない。黄金級冒険者は自分が受けた試験の内容は口外してはならず、また試験の関係者も内容は話してはならない決まりだった。


もしもレナが金色の隼に入る場合、必然的にこの推薦状を冒険者ギルドに持ち込んで試験を受けるように促されるだろう。推薦状に記された団長と副団長、金色の隼に所属する黄金級冒険者、更にはレナが所属していたイチノの冒険者ギルドのギルドマスターであるキデルの名前が署名されている。これを提出すればレナは黄金級冒険者の昇格試験を受けられる。



(あ、でもマドウ学園長の話だと今は火竜のせいで冒険者ギルドも対応が出来ないとか言ってたな……でも、前に何度か勧誘を受けているし、一応は話だけでも聞いてくれるかな?)



レナは過去に何度か金色の隼から勧誘を受けており、推薦状を持たずとも話がしたい事を伝えれば問題ないかと思い、皆に付いていく事にした。

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