第433話 アリアの訪問

「でも、冒険者になったらそんな簡単に辞められないんじゃ……」

「そこも問題はない。騎士団に入る前に冒険者をやっていた人も結構いる、事前に相談しておけば辞める事はそれほど難しくはない」

「え、そうなの!?」

「だからなんでミナよりシノが詳しいの……というより、よく知ってるね」

「私も金欠だった時に色々な職業を調べまわったから」



まだシノが王都へ来たばかりの頃、彼女は自分に向いた職業を探すために王都の職業を調べまわった事があった。剣の腕にはそれなりに自信があったのでヒトノ国の騎士団に入ろうとした時期もあったらしいが、残念ながら年齢制限に引っ掛かり、実績がないと入れないと知って諦めたらしい。


シノの話を聞いたミナは当面の生活費を稼ぎ、更に実績を上げるという点では冒険者以上に都合がいい職業はない。ここで問題があるとすれば金色の隼の推薦状を使えば彼女は好待遇で迎え入れられるだろうが、将来的にはワルキューレ騎士団に入りたいという彼女の気持ちを金色の隼が汲み取ってくれるかどうかである。



「う~ん……どうしよう。金色の隼さんに頼んでみようかな」

「どうせ3年はミナは女騎士にはなれない、その間は何処かで働くとしたらミナの腕を考えても冒険者がいい。それとも他に何かやりたい職業がある?」

「えっと……お、お嫁さんとか?」

「……ていっ」

「あいてっ!?」



素でボケを返してきたミナの頭をシノは軽く叩き、世間の厳しさを思い知らせる一方で真面目に考えるように注意した。



「どっちにしろ、もう今のミナは親兄弟に頼らずに一人で生きていかないといけない。私達も友達だから助けたりはするけど、ミナがちゃんと働いて生きていかないと駄目」

「そうだよ、他の人の力を借りるのは悪い事だと言わないけど、やっぱりちゃんと独り立ちしないと駄目だよ」

「ううっ……そ、そうだよね。ごめんね、変なことを言って……」

「シノの姉ちゃんと兄ちゃんが言うと凄い説得力あるよな……」



シノもレナも一人で生きてきた経験があるだけに説得力があり、ミナは自分の甘い考えを捨てて推薦状を握り締める。将来はワルキューレ騎士団に入りたいという夢は捨てないが、まずは当面の生活費を稼ぐ必要もあり、彼女はしばらくの間はレナ達と共にダリルの屋敷の居候として過ごしながら働き口を探す事にした――






――その日の晩、ダリルの屋敷の元にジオの妻であるアリアが訪れた。今回はいつものメイド服ではなく、ちゃんとした格好で馬車に乗って訪れたので最初は誰が訪れたのかとレナ達は焦ったが、すぐにアリアだと知ると彼女を中に通す。


応対したのはダリルであり、ミナはシノと共にとりあえずは冒険者以外の職業を念のために探して見る事にした。冒険者がミナに向いている職業だとは分かっているが、一応は他の職業の中で彼女が興味を抱く仕事がないのかを探すため、シノが前に世話になっていた店を巡っていた。



「なるほど、そういう事でしたか……申し訳ありません、うちのミナが迷惑をかけてしまって……」

「いえいえ、お気になさらずに……あの、それでカイン大将軍がミナの嬢ちゃんを勘当したという話は本当なんですか?」

「はい、残念ながら……今までに何度か御二人が喧嘩する事はありましたが、今回は飛竜を連れ出した件でカイン様の逆鱗に触れ、ミナの方もこれまでの不満が爆発してしまい、このような結果に陥りました」

「そうですか……」



アリアによるとミナがカインから勘当されたというのは本当の事らしく、頭を冷やさせるための折檻ではないという。カインの方もミナの行為に怒りを抑えきれず、ジオの方も兄を宥められずにほとほと困っているという。



「夫の話によるとカイン様にミナの話題を出すだけでも機嫌を悪くして話を聞こうともしません。また、何があろうと私達にもミナの手助けをするなと釘を刺してきました」

「しかし、だからといって荷物と一緒に放り出すのはやりすぎなんじゃ……」

「いえ、今回の場合はミナの方にも問題があります。大将軍であるカイン様が管理を任されている飛竜を、しかもよりにもよってアルト王子が気に入られている「ヒリュー」を連れ出した事により、各方面から色々と責め立てられたそうです。最も結果的には飛竜を連れ出した件はゴブリンキングの討伐に貢献したという事で国王様はお許しになられたそうですが、カイン様にとっては自分の娘に面子を潰された事に変わりはありません」

「あ~……」

「カイン様は大将軍という立場上、国の頂点に立つ将軍としての威厳を保たなければなりません。なのでいくら娘といえど、勝手な行動をして自分の威厳を踏みにじった者をただで許すわけにはいきません。ですからしばらくの間は御二人が仲直りするのは難しいでしょう……なのでダリル様、当面の間はどうかミナの事を頼めますか?もちろん、ミナが世話になる分はこちら側で内密に支援しますから」

「まあ、そういう理由なら別にいいですよ。レナとコネコもシノもミナの嬢ちゃんが一緒に暮らすのなら嬉しがると思いますし……」

「本当にご迷惑をおかけします……何かありましたら、すぐに連絡をください。私も夫も出来る限りの協力をします」




アリアはミナの事をダリルに頼むと、当面の彼女の生活費を渡して自分の屋敷へと引き返す。その様子をダリルは見送った後、困った事になったため息を吐き出す――

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