第432話 居候の追加

「そ、そんな……なら、今すぐに城に戻って謝ってくるよ!!俺のせいでミナが追い出されるなんて……」

「ううん、レナ君のせいじゃないよ……元々、僕は父様とそんなに仲は良くなかったんだ。だから、今回の事がなくてもいつかは家を出るつもりだったし……」

「え?そうなのか?」



ミナの言葉にレナ達は意外に思うが、ミナ曰く父親とはそれほど仲が良かったという訳ではないらしい。ミナは幼い頃から父親とはあまり良い関係とは言えず、その理由はいくつかあるのだが彼女の夢に関係あるという。



「実は僕、女騎士になるのが夢だったんだ」

「騎士?そういえば前にもそんな事を言ってたよな……たしか、母ちゃんが騎士だったから憧れてたんだっけ?」

「そうだよ。僕の母様はワルキューレ騎士団の騎士団長を勤めていたのは前にも話した事があるよね?」

「ワルキューレ騎士団!?あの伝説の騎士団の事か!!」



ワルキューレ騎士団の名前を口にするとダリルは驚いた表情を浮かべ、この国に住む人間ならば一度は名前を耳にした事がある有名な騎士団らしい。


辺境地方に暮らしていたレナでさえも聞き覚えがあり、それどころかヒトノ国の騎士団の中でも最も有名な存在かもしれない。騎士団が結成されたのもヒトノ国の建国と同時期のはずであり、歴史も長い。



「ワルキューレ騎士団は全員が女性で構成されていて、父様の竜騎士隊にも負けないぐらいの功績を上げている凄い人達なんだ。僕も母様が騎士団長を勤めていた時は何度か顔合わせしてたけど、母様が死んじゃってからは気軽に会えなくなって……」

「そうだったのか……じゃあ、姉ちゃんはその騎士団に入るために頑張ってたんだな?」

「うん、でも父様は僕がワルキューレ騎士団に入るのは大反対してたんだ。そもそも、僕が女騎士になる事もずっと反対してるんだ。僕が魔法学園に入る事を決めたのもワルキューレ騎士団に入るためだったのに、勝手に卒業後は僕を自分の配下の人と結婚させようと考えてたんだよ!?信じられないよね!!」

「えっ!?結婚って……それ、もしかして政略結婚!?」

「ミナの姉ちゃん、結婚しちゃうのか!?」

「しないよ!!だって、僕の倍ぐらいの年齢のおじさんだよ!?いくら父様が信頼している人だからって、僕は絶対に結婚なんかしないもん!!」



父親の強引なやり方を思い出して苛立ちが募って来たのか、先ほどまで泣きじゃくっていたはずのミナはだんだんと怒りを思い出して身体を震わせる。その様子を見ていたレナ達は今回の件が切っ掛けでミナとカインが仲違いをしたわけではない事を知る。


ミナとしては勝手に飛竜を連れ出した事は悪いと思っているが、だからといって勝手に自分の人生を決めようとする父親には付いていけず、勘当された時点でもう父親の元には戻るつもりはなかった。だが、世話になっていた叔父の元にも戻れず、荷物を抱えた状態で途方に暮れていた時にレナ達の屋敷に通りかかって皆を待っていたという。


何か覚悟を決めたようにミナは立ち上がるとダリルに視線を向け、唐突に鋭い視線を向けられたダリルは戸惑うが、そんな彼にミナは土下座を行う。



「というわけでダリルさん!!僕を雇ってください!!用心棒でも、荷物運びでも、コネコちゃんの面倒役でも、レナ君の助手でも、何でもいいので僕に仕事を下さい!!」

「えええっ!?」

「ちょ、なんでさり気無くあたしの世話を見ようとしてんだよ!!それは兄ちゃんの役目だ!!」

「いや、コネコ……突っ込むところはそこじゃないよ」

「それに用心棒に関しても間に合ってる」

「わあっ!?びっくりした!!」



土下座を行うミナにダリルは仰天し、自分の所で働きたいと言い出してきたミナにレナ達は混乱する中、何時の間にか戻って来たシノが姿を現す。彼女は黒装束を身に纏った状態で戻って来た事にレナ達は驚くが、シノは土下座するミナを立ち上がらせて伝える。



「この商会の用心棒は私、だからミナの仕事はない」

「ええっ!?で、でも僕、働きたいよ!!働いて一人でも暮らしていける事を父様に叔父様にも証明しないといけないのに……」

「そういう事ならミナはこれを受ければいい」

「これって……あ、前に貰った推薦状?」



シノは魔法学園で金色の隼の副団長であるイルミナが訪れた時、彼女から渡された推薦状を見せつける。それを見てミナは思い出したように慌てて荷物の中から自分の推薦状を取り出す。こちらの推薦状には期限は存在せず、イルミナ本人からも学園の卒業後でも受け付けるという言質は取っていた。


この推薦状はレナ以外の全員が受け取っており、推薦状には金色の隼への加入、及び白銀級冒険者の資格を与えられる旨が記されていた。推薦状の事を思い出したミナはこの手があったかと思い出し、そんな彼女にシノは親指を突き立てる。



「しばらくの間はここで暮らしてもいい。ミナが望むならここに住みながら働いてもいい」

「ほ、本当に!?あ、でも僕は冒険者じゃなくてワルキューレ騎士団に入りたいんだけど……」

「どの道、今の状況だとミナは騎士団に入れない。騎士団に加入するには最低でも18才以上じゃないと駄目」

「え、そんな規定があるの?」

「ある。特にワルキューレ騎士団は実績もない人間は加入させないという噂もある」

「そ、そうだったんだ……知らなかった」

「ミナの姉ちゃん……どうしてシノの姉ちゃんより何も知らないんだよ」



シノの言葉にミナは唖然とするが、現在の状況では自分がワルキューレ騎士団には入れないと知った彼女は思い悩む。

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