第431話 勘当されたミナ

――王城を出た後、一先ずは解散してそれぞれの家へと戻る事になった。マドウが配慮して全員分の馬車を用意してくれたため、レナはコネコとダリルと共に屋敷へと向かう。



「ふうっ……なんか、家に戻るのは久しぶりな気がするな。別にそんなに長い間、離れていたわけでもないのに」

「そうだな。だけどコネコ、忘れているかも知れないがあの屋敷とはもうすぐお別れになるんだぞ?」

「え?あ、そうか……おっちゃん、確か新しい屋敷を建ててたんだよな。じゃあ、あたしたちもそこに引っ越すのか?」

「まあな、今度の屋敷はちゃんとお前等の部屋も用意してあるからな。まあ、今の屋敷も悪くないが、やっぱり商人としてはもっとちゃんとした屋敷に住みたいからな!!」

「新しい屋敷か……どうなるんだろう」



現在のレナ達が暮らしている屋敷は元々は宿屋だったのだが、廃屋になっていた所をダリルが買い取って屋敷に改築した物である。しかし、ミスリル鉱石を取り扱うようになってからダリル商会は一気に経営が好転したため、兼ねてからダリルは新しい屋敷を建てる事にした。


最も今現在の屋敷は別になくなるわけではなく、今後はムクチに管理を任せて彼専用の工房として残しておく事になった。最も屋敷が完成するのはまだ先の事であるため、もうしばらくはレナ達は今の屋敷に住む事になるが。



「まあ、まずは戻ったらとりあえずは身体を休めないとな……流石にお前等も疲れただろう」

「そうか?あたしは元気満々だぞ!!」

「俺も特に平気ですけど……」

「ぐうっ……これが若さか。あれ?そういえばシノの奴はどうした?さっきまでいただろ?」

「用事があるから先に帰っててと言ってましたけど……あれ?もう着いたのかな?」



長旅で疲れただろうとダリルは二人に配慮するが、コネコもレナも特に疲労は感じられず、そんな二人を見てダリルはため息を吐く。だが、ここで急に馬車が止まり、慌てた様子の御者が馬車の3人に声を掛ける。



「だ、ダリル様!!屋敷の前に到着したのですが……」

「おお、すいませんね。お前等、下りるぞ」

「いえ、それが……屋敷の前に何故か大荷物を抱えた少女が三角座りをして待ち構えているのですが……」

『は?』



御者の言葉にレナ達は呆気に取られて馬車の窓から外の様子を伺うと、御者の言う通りに屋敷の出入口の前に大きな荷物を背中に抱えた少女が三角座りで待ち構えていた。しかもレナ達に見覚えのある顔であり、何故か王城で別れたはずのミナの姿があった。


いつもはコネコにも負けないほどに明るく元気な彼女だが、レナもコネコも今までに見た事がない程に彼女は落ち込んでおり、虚ろな瞳をしていた。その様子を見たレナとコネコは心配して彼女の元に駆けつける。



「み、ミナ!?」

「ミナの姉ちゃん!?どうしたんだよこんな場所で!?」

「あっ……れ、レナくぅ~んっ!!コネコちゃ~んっ!!」



ミナは二人に気付くと涙目で荷物を下ろして駆け出し、二人に向けて抱き着く。戦闘職である彼女は全力で抱き締められたレナとコネコはあまりの力に苦しい表情を浮かべるが、尋常ではないミナの様子に心配する。



「ね、姉ちゃん痛いって……!?」

「ど、どうしたの……?」

「ううっ……うわぁあああんっ!!」

「ちょ、本当にどうしたんだミナのお嬢ちゃん!?ほら、とにかく中に入ろう!!ここで泣くのは止めてくれ!!」



まるで子供の用に泣きじゃくって抱き着いてくるミナにレナ達は慌てふためき、近所の人々に気付かれる前に彼女と荷物を屋敷の中に運び込む――





――しばらくすると大分落ち着いたのかミナも泣き止むのを止めたが、結局レナとコネコから離れる事はなく、二人の手を繋いだ状態でソファに座り込む。仕方なくダリルがココアを用意してやると、彼女がどうして大荷物を抱えた状態でダリルの屋敷の前に待ち構えていた理由を話す。



「はあっ!?家から追い出された!?」

「うん、そうなの……」

「それって……まさか、勘当?」

「そうなるかな……ううっ」

「また、どうしてそんな事に……」



ミナの話によると、王城にて彼女は父親のカインの元に呼び出され、彼から勘当を言い渡されたという。しかもミナが世話になっている叔父のジオの屋敷の部屋の荷物も既にまとめた状態で追い出されたらしく、彼女は仕方なくレナ達に頼ってここへやって来たという。


どうして急に勘当を言い渡されたかというと、それは先日にミナが連れ出した飛竜が関わっているらしく、ミナはどうやら嘘を吐いてレナ達に同行した事を告げた。



「実は私、レナ君たちを追いかける時に父様と叔父さんの許可を取ったと言ったでしょ?あれ、嘘だったんだ……本当は城の中に居たヒリューを見つけて無理やり連れ出したんだ……」

「ええっ!?マジかよ姉ちゃん……」

「じゃあ、城に忍び込んで飛竜を連れて来たの?

「私、こう見えても城の人達に顔を知られているから入るのは簡単だったけど……勝手にヒリューを連れ出して、しかも嘘を吐いてレナ君たちに同行した事で怒られたんだ。それで、父様と喧嘩になって勘当を言い渡されて……」

「そ、そうだったのか……」



話を聞いたダリルは困った表情を浮かべ、コネコも何とも言えない表情を抱く。しかし、レナの方は自分を助けるために飛竜を連れ出したミナが勘当されたと聞いて顔を青ざめた。

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