第428話 火竜の対抗策
「火竜の存在が確認された後、現在ヒトノ国では火竜の対応策の件で連日のように会議が行われている。だが、相手は災害の象徴とされている竜種、その中でも気性が荒く縄張りを犯す存在は許さない火竜であるのが厄介でな……今尚も会議は続いているが、何の進展もない有様じゃ」
「その火竜というのは王都からどれくらい近さの場所にいるんですか?」
「具体的な距離は儂にも分からんが、飛竜に乗って移動したとしても1、2時間は掛かる距離らしい。人の足ならば数日、馬を利用したとしても恐らくは1日か2日はかかる距離じゃな。しかも場所が山岳地帯に存在する事を考えると飛竜以外の移動法となると相当な時間を要するはず……おまけに湖の中心の岩山に引きこもられては戦う術も限られておる」
「じゃあ、どうしようもないんですか?」
「いや、何故か火竜は発見されてから数日が経過しているが、未だに岩山から姿を現しておらん」
火竜を発見したのも襲われたのも山村に暮らす漁師だけだが、その存在自体は他の人間も確認しており、火竜は姿を現してはいないが時折咆哮を放ち、湖周辺に火竜の鳴き声が響く事から火竜が存在する事は間違いない。
ここで不可思議な点があるのは火竜は本来は火山地方に暮らす生物であり、火竜が住み着いた岩山は只の岩山で別に火山でも何でもない。それにも関わらずに火竜は岩山から離れる様子はなく、ずっと岩山の洞穴に引きこもっていた。その行動が不気味に感じた山村の村人たちは火竜をどうにかして欲しいとヒトノ国に泣きつく。
「火竜が何故、餌もろくにありつけない湖の岩山に住み着いたのかは分からん。だが、火竜の存在が確認された以上は放置は出来ん。しかし、現状では火竜による被害は火竜を発見した漁師が殺されかけたというだけで他に被害はないのも事実……現在、火竜を討伐する事を主張する人間と、このまま火竜を放置する事を主張する人間に分かれておる」
「え?放置するって……それって大丈夫なんですか?」
「現時点では火竜が湖に住み着いた理由が分からんからのう……もしかしたら、このまま火竜が岩山に引きこもり続ける可能性もある。最も、それは楽観視し過ぎだとは思うが……相手が相手だけに戦うにしても被害の大きさを考えると迂闊には動けん」
「災害の象徴と呼ばれる火竜……確かに危険過ぎる相手ですわね」
火竜を放置すれば今後どのような事態を引き起こすのか分からず、早急に始末するべきだと主張する人間も多い。しかし、現状では火竜がヒトノ国側に大きな被害を与えていない事も事実であり、このまま放置するべきだと主張する人間も多い。
マドウの見立てでは討伐を主張するのは将軍達であり、その意見に反対を示すのは文官達だった。マドウとしては火竜の件は放置出来ないため、討伐に参加しているが、彼の右腕であるサブ魔導士は反対を示す。
「儂と他の将軍達は討伐を主張しておるが、サブ魔導士は文官と共に反対を主張しておる」
「え?サブ魔導士は反対してるんですか?」
「でも、サブ魔導士はマドウ大魔導士のお弟子さんでは……」
「弟子だからといって、必ずしも師匠の儂の言葉を肯定するわけではない。それに反対するといってもサブの場合は不用意に戦闘を仕掛けるのを反対しているだけであり、別に火竜を放置する事に賛同しているわけではない」
「なるほど……確かに一理ありますね」
「だが、儂はどうもこの火竜を放置するのはまずいと思う。はっきり言ってただの勘でしかないが、このまま火竜を放置し続けると大きな災いが降りかかりそうな気がしてならん……こんな時だけ儂の勘はよく当たるからのう」
火竜の討伐に件に関してはマドウとサブの意見は割れ、マドウの場合は早急に対処する事を主張するが、サブは反対して時間をかけてでも確実に火竜を倒す方法を模索する事を主張していた。
どちらも火竜を討伐するという意見は一致しているので別に仲違いをしたわけではないが、結局は今日に至るまで結論は出ていない。
「儂はカイン大将軍の率いる竜騎士隊に協力してもらい、王都の魔術師を運び出して火竜との決戦を挑むべきだと思う。相手が竜種となると、いくら兵士を用意しようと地上戦では不利だからのう」
「そうですわね、火竜が空を飛べることを考えると常に一定の場所で戦い続けるとは考えにくい……そういう意味では戦闘職の方々の大半は対応出来ませんわね」
「何だよそれ……あたし達だと戦力にならないのか?」
「いえ、そういう意味ではなく相性が悪いというだけですわ。別に戦闘職の方々を批判したわけではなくて、空を飛べるような相手となるとやはり遠距離攻撃が行える魔術師が有利だと思います」
「戦闘職の人の中にも竜騎士の人達のように飛竜のように空を飛べる魔物に乗り込んだり、弓矢を扱う狩人のような職業なら戦う事も出来よう。だが、竜種との戦闘の場合は魔術師の扱う魔法が最も有効的な対抗策となる……そして王都に存在する魔術師は最悪の場合、全員が火竜との戦闘に参加する事になるかもしれん」
マドウの言葉に部屋の中で緊張が走り、部屋の中に存在する魔術師の職業のレナとドリスに視線が向かう。
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