第429話 ゴブリンキングの討伐の報酬

「……今回の件、実を言えば国王様はゴブリンキングを討伐した者達を後々に表彰したいと言っておる」

「表彰!?と、という事は……」

「うむ、国王様が直々にお主達の功績を認め、褒美を与えるという事になるのう。具体的な報酬は何を与えられるのかは儂にも分からんが、最低でも今回の費用に関してはヒトノ国が持つ事を約束しよう」

「という事は……」

「ダリル殿が用意した金色の隼の依頼料に関してはヒトノ国側が支払いを行う。また、持ち帰った魔物の素材に関してもこちら側が預かり、換金して引き渡す事を約束しよう。無論、それとは別に国王様はダリル殿にも報酬を渡されるだろう」

「マジかよ!?やったなおっちゃん!!」

「あ、ああ、ありがとうございます!!」



マドウの予想外の申し出にダリルは頭を下げ、これで一気に不安はなくなった。今回の依頼でダリルは殆どの財産を使い果たしたが、持ち帰った魔物の素材を売り払う事が出来ればどうにか商会は維持できると思われた。


しかし、ヒトノ国側が金色の隼へ支払った代金を請け負い、更に魔物の素材を買い取ってくれるのであればダリルは実質的に最初に金色の隼に支払った金額以上の利益を得られる。金色の隼を雇うのに費やした金額は「金貨1000枚(正確にはダリルとレナ達が用意した金貨数百枚、コネコが持ってきていたヒヒイロカネのネックレス)」更に魔物の素材に関してはイチノの鑑定士によると、恐らく値段にするならば「金貨500枚」はくだらないだろう。


単純に考えれば最初に支払った金貨の3倍近くを受け取れ、さらに国王から別の報酬を約束されたダリルは内心で歓喜した。しかし、喜んでばかりはいられず、マドウは淡々と告げる。



「最も、この王都が火竜に滅ぼされた場合は表彰式どころではなくなるがな……」

『…………』



マドウの言葉に全員が黙り込み、喜んでいたダリルも意気消沈する。冗談抜きで現在のヒトノ国は火竜1匹に対して国家存亡の危機に陥っており、決して安全とは言えない。



「あの……こんな時に言うのも何ですけど、実はマドウさんに聞きたい事があります」

「むっ?どうした?何か気になるのか?」

「いえ、過去に竜種を倒した勇者がいたという話をさっきしましたよね。それって、もしかして「重力の勇者」という題名の絵本の勇者の事ですか?」

「おお、お主も重力の勇者を見たことがあるのか。珍しいのう、あの本は儂も子供の頃に読んだ事はあるが、主人公の勇者が他の勇者と比べて知名度が低いせいか、あの絵本以外には登場しないからのう」

「重力の勇者?それはどんな絵本なんですの?」



レナの言葉を聞いてマドウが意外そうな表情を浮かべ、そもそも「重力の勇者」の存在を知っている人間はいない。同じ魔術師であるドリスも初めて聞いたらしく、不思議そうに首を傾げる。


重力の勇者に関する絵本は1冊しか存在せず、しかも発行されたのが大分昔の話なので現在では殆ど残っていない。レナが持っていた絵本も元々はダリルが子供のレナのために別の街で偶然にも購入した代物であり、しかも内容は絵本にしてはかなり複雑なので人気はあまりなかったという。



「うむ、簡単に言えば重力の勇者とはここにいるレナ君のように物体を操る力を持っていた。彼はその力を「重力」と呼び、恐らくだがこの勇者こそが付与魔術師の原点だと儂は推測する」

「え?付与魔術師という事は……」

「うむ、もしかしたらレナ君の先祖かもしれん」

「ええっ!?」



重力の勇者がレナの先祖と聞いて部屋の中の全員が驚くが、その反応を見てマドウは笑う。その態度を見て彼が半ば冗談で言っている事を皆は理解した。



「ははは、最も先祖と言ってもあくまでも可能性に過ぎんがな」

「な、何だ……冗談ですか」

「もう、驚かさないでくださいよ」

「だが、彼が付与魔術師である事は間違いない。もしかしたら本当にレナ君は重力の勇者の子孫かもしれぬ」

「マジかよ!!やっぱり兄ちゃんは凄いんだな!!」

「いや、あくまでも可能性の話だから……」

「ですが、少し気になりますわね。付与魔術師の勇者がいたという話は私も初めて聞きますわ」

「そうか。ならば簡単に重力の勇者の話をしよう。彼は勇者の中でも異端な存在として扱われているからな、だが他の勇者と同様にこの国の窮地を救った偉大な御方じゃ」





――マドウによると、重力の勇者はとある時代に呼び出された勇者の一人らしく、他の勇者たちが華々しい活躍をしている間、彼一人だけは勇者達とは行動を共にせずに一人で過ごしていたという。


他の勇者たちが他国の軍隊や大きな脅威と成り得る魔物を討伐を行っている時、重力の勇者だけは戦うこと以外の面で活躍していた。草木が育たない荒れ果てた大地に魔法の力で活性化させ、数年後には緑あふれる大地に変化させたり、大雨によって川が氾濫したときは土壁を作り上げ、人が暮らす領域に水が流れ込まないようにした。


重力の勇者のみが有名ではなかったのは他の勇者と比べて華々しい戦果を挙げていなかったからだが、それでも人々の間では慕われていた。派手に戦場で活躍をするのではなく、地道に人々のために暮らしやすい環境を整えたという。しかし、そんな重力の勇者が歴史から消えたのは先ほども話した竜種との戦闘が関係していた。

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