第427話 火竜の発見

「とはいえ、別に今すぐにここで決めなくてもよい。それに今の時期に推薦状を持ち込んでも冒険者ギルドの方は対応が出来ない状態だろう」

「え?どうしてだよ?」

「お主達も知っての通り、この王都は現在火竜の脅威に陥っておる……これは本来は秘密なのだが、先日に火竜の姿が遂に確認された」

「な、何だって!?」



火竜が発見されたという言葉にダリルは立ち上がり、他の者達も動揺を示す。だが、マドウは落ち着いた態度で話を続けた。



「火竜が発見されたのは王都の北部の山岳地帯だが、発見された場所というのが実は大きな湖がある場所でな。どうやら火竜は湖の中心にある「島」で休んでいるらしい」

「島?湖に島があるんですか?」

「正確に言えば島のように大きな岩山が存在するという事じゃ。元々は岩山が連なる場所だったのだが、100年以上前に召喚された勇者がそこに住み着いた竜種と戦闘を繰り広げ、地形が大きく変化する程の激しい戦闘を繰り広げたと言われておる」

「地形が変形するって……どんな力を持ってたんだよ!?」

「うむ、その勇者というのは文献があまり残っておらず、どのような魔法を使っていたのかはよく知られていないのだが……なんでも地面の土砂を動作して戦う魔法を扱っていたらしい」

「え?それって……」



マドウの話を聞いてレナは真っ先に子供の頃に読んでいた「重力の勇者」の絵本を思い出す。この絵本に登場する勇者もレナと同様に地面の土砂を操作する力を持っていた。


重力の勇者はレナと同じく地属性の魔法の使い手にして付与魔術師である可能性が高く、その絵本を読んだお陰でレナは付与魔法を会得する事が出来たといっても過言ではない。今まで自分でも気づかなかった力がある事を知れたのはこの重力の勇者の絵本のお陰である。



「何しろ大分昔の出来事なので詳細な記録は残っていないのだが、どうやら勇者は竜種を倒す事には成功したが、その際に地面は大きく編こんでしまってのう。戦闘の場の中心部に存在した岩山だけは無事だったが、岩山の周囲は大きく凹んでしまい、やがて長い時が流れて何時の間にか湖に変化してしまったのだ」

「その話は本当ですか?」

「ううむ……正直に言って確証性は薄いな。確かに勇者という存在は強大な力を持つが、この話に限っては竜種と戦ったという勇者の記録が殆ど残っておらん。歴史書にも勇者との戦闘で大地が崩れ、地面が凹み、やがて湖と化した……としか記されておらん。専門家の間でもこの話が事実かどうか論議されておる」

「なんだ、じゃあ嘘かもしれないのか……」

「うむ、この話は勇者という存在がどれほど偉大な人物だったのかを知らしめるためだけに作られた御伽噺だと主張する専門家も多い。まあ、儂はこの話は嫌いではないがな」




湖が誕生した経緯に関しては、本当に勇者が地形が変形するほどに戦ったのかは不明である。だが、今は重要なのは火竜の存在がその湖で確認された事であり、最初に発見したのは湖で漁を行う漁師だった。



「火竜を発見したのはその湖の近くに存在する山村の漁師でな、いつも通りに彼は漁を行おうとした時、岩山に降り立つ火竜を発見したというのだ」

「え!?その人は大丈夫でしたの!?火竜は狂暴性が高く、縄張りを犯す者には容赦しない存在だと聞いてますけど……」

「うむ、漁師は舟を出して漁を行っている最中に火竜を見かけたそうだが、火竜は湖の中心部の岩山に降り立つと、岩山に存在する洞穴の中に身を隠して一向に姿を現さなくなったという。慌ててこの漁師は火竜が現れた事を村人に報告したが、最初は信じて貰えなかった……だが、この次の日に漁師はとんでもない事を仕出かしおった」




――マドウの話によると、最初に火竜を発見した漁師は村人にその存在を伝えたが信じて貰えなかった。しかし、どうしても火竜の存在を信じて欲しい漁師はあろう事か、舟を出して岩山に向かったという。




岩山の大きさは直径は高さは300メートルは存在し、普通の島と違って舟を泊められる場所はない。だが、どうしても火竜が存在するという証拠を見つけるために漁師は出来る限り舟を近づけようとした瞬間、岩山の洞穴から火竜が姿を現す。


火竜は漁師の姿を発見すると容赦なく口を開き、凄まじい火炎の吐息を放つ。その威力は岩を溶かし、湖の水を蒸発させるのではないかという程の威力を誇り、漁師は危うく死にかけたがどうにか水中に飛び込んで生き延びたという。


舟を焼き尽くした事で火竜は漁師を殺害したと判断したのか洞穴に引き返すが、どうにか水中に逃げ込んで生き延びた漁師は泳いで湖を渡り、半狂乱の状態で山村へと戻る。今度は尋常ではない状態で戻って来た漁師に対して村人たちは火竜が出現したという話を信じた。


この直後に運が良い事に大将軍のカインの配下である「竜騎士」で構成された部隊が山村へと訪れる。彼等はカインの命令を受けて探索の際中、山村に立ち寄って話を伺う。ここで漁師の話を聞いた部隊はすぐに王都へ引き返し、遂に火竜が本当ヒトノ国内に侵入していた事が発覚した。

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