第424話 七影の動き

「始まりは七影のリッパーがレナ君を襲った事が関係する。お主達はリッパーの名前は聞いた事があるか?」

「リッパー?誰だよそれ……ああ、でもなんか聞いた事があるな。何処で聞いたんだっけ?」

「まさか、処刑人リッパーですか!?盗賊ギルドの中で最も恐ろしいというあの……!?」



リッパーの名前を口にした途端、レナとコネコ以外の全員が驚愕した。コネコの場合は名前だけは耳にした程度だが、他の者達はリッパーの名前を聞いただけで冷や汗を流す。


七影の中でゴエモンと同様に知名度も高く、その名前を口にするだけでも恐れられている。盗賊ギルドに害を為す存在を何百人も葬り、その中にはヒトノ国の将軍まで含まれている。死んだ今もリッパーが実は生きているのではないかと疑う人間も多い程の男だった。



「私も王都で暮らしている人間ですのでよく知っていますわ。曰く、盗賊ギルドの最古参の暗殺者にして数多くの人間を闇に葬ったとか……」

「僕も父から聞いた事があります、七影の中で最も恐ろしく、一度目を付けられたら逃れる事は出来ない殺人鬼だと……」

「うむ、その通りだ。奴はある意味ではイゾウよりも恐ろしい男じゃった……儂も奴を何十年も追い続けたが、結局は捕まえる事が出来なかった」

「でも、確かリッパーはアルト王子に殺されたんじゃ……」

「確かにアルト王子がリッパーを殺したのは紛れもない事実じゃ。だが、その前にリッパーに命を狙われ、交戦していた人間がここにおる」

「まさか……」

「レナ!?お前なのかっ!?」

「……そうだよ」



世間では七影のリッパーはアルトが討ったと伝えられており、実際に彼の命を絶ったのはアルトで間違いはない。だが、厳密に言えばアルトは止めを刺したのであって直前までリッパーと交戦していたのはレナである。


マドウの話を聞いてデブリが驚いてレナに振り返ると、もう隠し事は出来ないと判断してレナは頷く。その様子を見て他の者達は驚く中、マドウは説明を続けた。



「実はリッパーは直前までレナ君の命を狙っていたのだ。理由はカーネの奴がミスリル鉱石の件でレナ君に契約を迫ったが、それを断った事を逆恨みして盗賊ギルドに暗殺を依頼した。その後、儂はカーネの奴を説得して依頼を取り下げさせたが、リッパーが死ぬ前に命を狙っていたのはレナ君だった」

「そ、そうだったのか……」

「そういえば兄ちゃん、変な奴等に目を付けられてたよな……最近はそういう奴等も見かけなかったけど」

「でも、それでどうしてマドウ学園長はレナさんに七影の打倒に協力するという約束をしましたの?」



レナがリッパーに命を狙われていた事は分かったが、それでどうしてマドウが彼に目を付け、協力関係を築いたのかをドリスが質問すると、マドウはレナを引き入れた理由を話す。



「リッパーを殺したのはアルト王子だと世間には報告されておるが、盗賊ギルドの幹部であるジャックはリッパーが最後に命を狙ったレナ君を怪しむと儂は考えた。実際に儂の読み通り、カーネが依頼を取り下げたにも関わらずにジャックは部下に命じてレナ君の行動を逐一調べさせる素振りがあった。この事から儂はレナ君が盗賊ギルドから目を付けられたと思い、保護の目的もあって接触した……しかし、同時にあのリッパーを追い詰めた力に強く興味を抱いたのだ」

「どういう意味だよ爺ちゃん?」

「こ、こらコネコ……爺ちゃんと呼ぶのは止めろ。マドウさんか、マドウ学園長と呼べ……」

「はっはっはっ、構わん。お主らには色々と苦労を掛けたからのう、この程度の事で怒ったりはせんよ。好きに呼んでくれ」



コネコの態度にダリルは慌てるが、マドウ自体は特に呼び方など気にしておらず、むしろ孫娘を相手にする祖父のように朗らかな笑みを浮かべる。


魔法学園に通う生徒はマドウにとっては大切な教え子であり、同時にコネコのように外見が幼い子供を相手にいちいち本気で怒るほど器は小さくはない。話は戻り、どうしてマドウは当時のレナを協力関係を結んだのかを話す。



「レナ君を儂が誘ったのはミスリル鉱石の件で名前が知れ渡った時から目を付けていた。その後、アルト王子からレナ君がリッパーをあと一歩のところまで追い詰めたと聞いた時から儂は好機だと思った。リッパーを追い詰める実力、さらに盗賊ギルドから狙われる立場、彼を率いれれば今まで裏社会を牛耳っていた七影達に辿り着ける機会が訪れるのではないかと思った儂はレナ君と接触したのだ」

「そして、約束を結んでレナに協力してもらった?」

「うむ、正直に言えば盗賊ギルドの連中は儂の予想以上にここにいるレナ君の行動を気にかけているようだ。先のゴエモンの件は偶然かも知れんが、ゴマン伯爵が開いた競売の際にゴエモンだけではなく、イゾウを送り付けたのも気にかかる。奴の狙いはカーネだけではなく、もしかしたら参加者であるレナ君の命も狙っていたのかもしれん」

「ちょ、ちょっと待って下さいよ。それじゃあ、あの競売の時からレナは盗賊ギルドに命を狙われてたんですか!?」

「あくまでも儂の予想だが、可能性は高いと思う。それに盗賊ギルドはレナ君と関わった事で七影のリッパーとイゾウを失っておる。ここまできたら奴等も本気でレナ君の命を狙うだろう。そういう意味ではこの時期に王都へ戻るのはまずかったかもしれん」

「そ、そんな……」



レナが命を狙われているという言葉にダリルは顔色を真っ青に変え、よりにもよってイチノを救った後に今度は盗賊ギルドに狙われるかもしれないという事実に頭を抱える。




※ちなみにマドウがレナを君付けするのは保護者(ダリル)がいるからです。


カタナヅキ「学校では呼び捨てにするけど、家庭訪問の時は君付けする先生を思い出す(・ω・)」

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