第422話 暗黒時代
「あのレナ君が黄金級冒険者になんて……いや、確かにレナ君の力はもうこの街で暮らしていた頃とは比べ物にならない」
「確かに大分腕を上げたね。魔法の扱い方も段違いに上達しているし……だけど、いくらなんでもいきなり黄金級冒険者なんて無理があるんじゃないのかい?」
「うむ、そもそも今のレナはヒトノ国の方針によって冒険者の資格を剥奪されておる。だから魔法学園に向かわせたのだが……」
「その事は私達も重々承知しています。しかし、私達はヒトノ国にも冒険者ギルドの本部とも強い繋がりを持っています。団長が望まれるのであればレナ様をすぐにでも黄金級冒険者へ昇格させる事が出来るでしょう」
「噂には聞いていたが、金色の隼とはそれほどの組織だというのか……」
レナを黄金級冒険者へ昇格させるためにイルミナはキデルに許可を求めるが、キデルとしてはそう簡単には承諾は出来なかった。勿論、街を救ってくれたレナの事は彼は信頼しているし、街に居た頃よりも成長していた事は実感している。
実力に関してはゴブリンキングを打ち倒した時点で申し分ないかもしれないが、それでも冒険者の最高の階級である黄金級冒険者へと推薦するにはまだ年齢が若すぎるのではないかとキデルは指摘する。
「しかし、レナはまだ15才も満たない子供……そんな子供に黄金級冒険者に昇格させるのは重荷になるのでは?」
「その不安もあります。しかし、現在のヒトノ国は優秀な人材を何よりも欲しています。だからこそ魔法学園を創設し、将来有望な子供達を集めて優秀な人材育成に励んでいるのです」
「それが気になるんだよ、どうして急にヒトノ国は未成年の冒険者から刺客まで剥奪して魔法学園に通うようにさせたんだい?前々から気になってたんだけど、あたしはそこが腑に落ちなくてね」
「当然の疑問ですね、分かりました。では私の方から説明します。まず未成年冒険者に仕事を行わせる事は前々から問題がありました」
イルミナはヒトノ国がどうして未成年者が冒険者になる事を禁じた理由を話す。彼女によると今まで未成年者でも一定の年齢を迎えて居れば冒険者の資格を受けられた理由を最初に説明した。
「まず、今までの冒険者ギルドの規定では年齢が12才であれば冒険者の試験を受けられました。この理由はまだヒトノ国が建国されたばかりの頃、成人年齢が15才ではなく12才として定められていた時代に作り出された規則だからです」
「何!?そうだったのかい?」
「そういえば聞いた事があります。昔はヒトノ国が他の国々と激しく争っていた頃、12才を迎えた人間は成人と判断され、戦場に赴く兵士として徴収されていた時代があったと……」
「はい、現在では暗黒時代と呼ばれるヒトノ国の歴史の中で「暴君」と呼ばれた王が君臨していた時代です」
『今の国王のご先祖様だな』
ヒトノ国の歴代の国王の中で最も「悪名」が有名な国王であり、彼が王としてヒトノ国を治めていた時代は数々の暴虐非道を引き起こしたとして「暗黒時代」と呼ばれている。実際にクーデターが発生して国家が転覆しかけるという大事件も何度か起きており、次の国王の時代を迎えるまではヒトノ国の歴史の中でも最も人民が苦しめられた時代である。
幸いにも国王の死後は父親に似ずに善良な人格の王が国を治め、ヒトノ国は平和が訪れた。新たな王になってから成人年齢に関しても「12才」から「15才」に引き上げられたが、冒険者ギルドの規定に関しては改竄が行われないまま今の時代まで残っていたという。
「前々から未成年者を危険が多い冒険者として働く事は問題視されていました。しかし、時代が平和になってからは未成年者が冒険者を目指す事も少なくなっていき、実際に現在の国王様が国を統治するようになってから未成年の人間が冒険者になったのは10名もいません。なので今までは放置されていました」
「なるほどね、冒険者ギルドの規定の理由は分かったよ。でも、それならどうして急に制度を改定したんだい?」
「理由は一つ、現在のヒトノ国は窮地に陥っているからです。そのために国中の称号持ちの子供達を集め、育成に励んでいます」
「窮地に陥っている……?それはどういう意味ですか?」
『盗賊ギルドという厄介な奴等がいるんだよ。王都に潜んで悪事を働く最悪な組織だ。そいつらは国を転覆させようと画策しているんだよ』
「なんと……」
「厳密に言えばヒトノ国が内側に抱える問題が盗賊ギルド、そして外側に抱える問題があります」
「内側……?その盗賊ギルド以外にも何か問題があるのかい?」
「……今から話す事はヒトノ国にとっては重要機密なので、他の人間には決して話さないと約束してくれますか?」
「待てイルミナ、そこまで話す必要があるのか?」
「はい。事情を説明しない限り、皆さんも納得して貰えないでしょう」
イルミナの発言にダンゾウは驚いた声を上げるが、彼女はここまで来たら黙っているわけにはいかないと判断し、キデル達にヒトノ国が抱えている問題を話す。
「近い将来……ヒトノ国は――」
――イルミナが話を終えた後、キデル達はその衝撃的な内容に驚き、戸惑う。そして悩みに悩んだ末にキデルはイルミナの要望を受け容れ、国に対してレナを黄金級冒険者へと推薦する旨を記した書状を渡した。
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