第421話 黄金級冒険者への推薦

コネコが使用していた「バトルブーツ」は現在、風属性の魔石が壊れた事によって使用できない状態に陥っていた。理由としては単純に魔石の限界を迎えて壊れたに過ぎず、残念ながら新しい魔石を装着しなければ使用できない。


別にバトルブーツに頼らなくともコネコは自分の足には自信があったが、やはり風属性の魔石を使ったときの加速する感覚を覚えると、自分の足だけで走るよりも爽快感を覚えてしまった。なので訓練にも参加せずに見学を行うが、それさえも飽きてきた。


風属性の魔石を取り換えればバトルブーツも扱えるが、生憎と魔石は高級品でコネコの小遣いだけではどうしようもない。しかもイチノ地方には残念ながら魔石の素材と鉱石を発掘できる鉱山は少ない。しかも先のイチノの防衛戦で魔石の殆どは魔術師が消耗しているので風属性の魔石の予備すらない状況だった。



「兄ちゃんも最近は街の奴等とばっかいるし、つまんないな~」

「コネコさん、そういう事なら僕と魔物の素材の回収を手伝ったらどうですか?」

「うわっ!?びっくりした、居たのかナオの姉ちゃん……」

「あ、ごめん……実はさっきから居たんだけど、ちょっと気配を殺す練習をしていて……」



コネコは後ろから声を掛けられて驚いて振り返ると、そこには何時の間にか座禅の状態でナオが座っている事に気付く。彼女は先ほどからずっとここに居たのだが、気配を完全に殺していたために感覚が鋭いコネコですら気付かなかった。


暗殺者である自分にすら気配を察知できないほどに気配を完璧に殺していたナオにコネコは驚くが、単純に自分が気を抜きすぎていたのかと思い直す。先日の戦闘を最後にコネコは誰とも戦っておらず、訓練にも参加せずにぶらぶらとしていた。そのせいで気が抜けて警戒心が落ちていたのかもしれない。



(兄ちゃん達と会う前のあたしなら背後を取られる事なんてなかったのにな……ちょっと気が抜きすぎたかな)



レナと出会う前、孤児院を飛び出して冒険者を行っていた時のコネコは誰とも組まず、一人で仕事をこなしてきた。決して他の人間には油断せず、常日頃から警戒しながら生きてきた。しかし、最近は心が許せる友達が増えたことで心に余裕が出来たというか、昔よりも気が抜ける事が多くなった。


別にそれは悪い事ではないのだが、暗殺者でありながら背後を取られるという事にコネコは自分が思った以上に身体が訛っている事に気付く。それを自覚した瞬間にコネコはいてもたってもいられず、ナオに勝負を申し込む。



「よし、ナオの姉ちゃん!!こうなったらあたしも訓練するぞ!!この際だからナオの姉ちゃんの技も盗んでやる!!」

「え、僕の……?」

「姉ちゃんも足技が使えるんだろ?この際にもっと色々と教えてくれよ!!」

「うん、いいよ。じゃあ、かわりにコネコちゃんも僕と組手してくれるかな?正直に言えば僕もそっちが助かるよ。いつもデブリ君に頼るのも悪いし……」

「組手か……よし、いいぞ!!じゃあ、これからナオの姉ちゃんはあたしの師匠だから師匠と呼ぶぞ!!」

「し、師匠?別にそこまでかしこまらなくても……」

「いいからいいから、ほら行くぞ!!」



コネコから師匠と呼ばれたナオは戸惑うが、特に悪い気分はしないらしく、向かってきたコネコに対して慌てて構えを取る。意外な組み合わせだが、コネコは一番の年下という事もあって仲間達から妹のように可愛がられている。その一方でコネコを一番可愛がっているレナの方にも大きな転機が訪れようとしていた――






――同時刻、イチノの冒険者ギルドのギルド長室にはキデルと黄金級冒険者であるイルミナが向かい合っていた。二人の他にはバルとキニク、カツとダンゾウも同席しており、全員が神妙な表情を浮かべていた。



「……それは、本気でいっているのかいイルミナさん?」

「ええ、本気です。我々、金色の隼はレナ様を黄金級冒険者として推薦したいと思っています」

「レナ君を……黄金級冒険者?」



バルとキニクは冷や汗を流し、キデルも動揺を隠せないのか紅茶を持つ腕が僅かに震えていた。しかし、イルミナは至極真剣な表情を浮かべて答える。



「この度のレナ様の活躍を考えれば当然の事です。ホブゴブリンの一掃、ミノタウロスの討伐、果てには特級危険種に指定されているゴブリンキングの討伐……無論、レナ様一人の御力で成し遂げた事ではない事は承知していますが、それでもレナ様の御力は既に同世代の冒険者の中でも抜き出ています」

『そうだな、正直に言えば俺はまだあの坊主が黄金級冒険者になるのは早いと思うが……団長が何故か偉く気に入っているからな』

「俺は団長の指示に従う」



イルミナはこの度のレナの功績を考え、彼を黄金級冒険者に冒険者ギルドの本部に推薦する事を申し出る。そのためにレナが在籍しているイチノの冒険者ギルドのギルドマスターであるキデルに許可を得るため、交渉の場を用意したのだった。

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