第420話 魔術師との組手

――イチノの奪還に成功してから数日後、やっと街の外に離れていた住民達と領主が派遣した兵士達が到着した。彼等は街に残った住民達と再会を果たし、遂に街の復興作業が始まる。


残念ながらイチノ地方に存在する村はホブゴブリンの軍勢に一つ残らず壊滅するが、村人たちの受け入れは行われ、イチノに大勢の人間が集まる。彼等のために金色の隼も天馬を利用し、ミナも引き連れていた飛竜を利用して他の街からの補給物資を運び込む。ちなみに荷物運びや資材を移送するときに一番活躍したのは重力を操作してどんな荷物も運べるレナであった。


レナ達がこちらに滞在する期間は今の所は未定だが、王都が火竜の脅威にさらされている事もあり、それほど長居は出来ない。その間にレナは何時でも出立できるように街の人間と別れを告げ、これからは王都で暮らす事を告げる。



「そうかい、あんたはやっぱり王都に残るんだね」

「はい、色々とあって王都も何だかんだで住み心地が良くなって……でも、必ずここへも顔を出します」

「それは嬉しいけどね、ここから王都までとんでもなく遠いんだよ?そんな頻繁に顔を出すなんて……」

「大丈夫です。もう俺は空だって飛べますから」

「……ああ、そうか。そういえばそうだね」



成長したレナの付与魔法は最早空を飛ぶまでに至り、しかも移動速度に関しては全速力で移動を行う天馬や飛竜にも匹敵した。スケボを利用して全力で移動を行えば本来は馬車で1か月はかかる距離も3、4日程度で辿り着ける。それもあるのでレナは学園が卒業した後は一旦帰ってくる事を伝えた。


また、冒険者達の必死の働きによって回収された大量の素材に関してはレナが運び出す事が決まった。念のために持ってきていたマドウから受け取った魔石を利用し、木箱に詰め込まれた荷物をしっかりと固定した後、レナの付与魔法と魔石を使用して浮上させる。この方法で王都まで運び込む事を説明すると、バル達は呆れてしまう。



「レナ君、どうやら僕達の知らない間に随分と成長したんだね」

「全くだよ。ボアを倒すのに苦戦していた頃が懐かしいね」

「ううっ……イリナお姉さんの事は忘れないでね」

「忘れませんよ……あ、今度はちゃんとお土産持ってきますね。王国印の饅頭でも買ってきます」

「あたしは酒にしてほしいね。王都の酒もどんなのか気になるし……」

「いえ、未成年だから買えません」

「世知辛いね……」



久々の再会だったのでレナは王都にいる間はバル達と共に行動する事が多くなり、その間にコネコ達の方は同行してきたブラン達と毎日のように組手を行っていた――





――イチノから少し離れた草原にて向かい合う10人の少年少女が存在し、その中には女性としか思えない程の美しい顔立ちでありながら、まるでキニクのように筋骨隆々の肉体を持つ「ヒリン」と力ならトロールにも匹敵するデブリが互いに殴り合っていた。



「おらぁっ!!」

「ぐふっ!?このっ……舐めるなっ!!」

「ぐはっ!?」



拳で顔面を殴りつけてきたヒリンに大してデブリも負けずに掌底を腹部に叩き込むと、胸元に跡が残る程に強く叩きつけられたヒリンは笑みを浮かべる。人間の中で自分と対等に戦える相手が久しい両者は互いに組合、力比べを行うように押し合う。



「うおおおっ!!」

「どす、こぉいっ!!」

「す、すげぇっ……どっちも一歩も引いてないぞ」

「正に漢の勝負」



ヒリンとデブリの互角の戦いを見てコネコとシノは感心する一方、ブランとドリスは10メートルほど離れた距離で魔法を撃ちあっていた。



「てめぇっ!!人の技をパクるんじゃねえっ!!」

「心外ですわ!!これは私が考えた魔法ですわ!!」



黒色の炎を繰り出すブランに対してドリスも負けずに火炎を放ち、互いに場所を移動しながら互角の攻防を行う。試合ではドリスが勝利したが、内容はブランが押していた。しかし、ドリスの方も日々成長しており、現在では互角に戦えるほどになっていた。



『余所見をするとは良い度胸だな、小娘!!』

「……年齢はそんなに変わらないと思う」



その一方で魔剣を構えたツルギがシノに襲いかかるが、彼女も両手の妖刀を引き抜いて刃を交わす。どちらも称号は剣士ではないにも関わらず、見事な剣筋で互角に渡り合う。シノはツルギと戦うのは初めてだが、試合で事前に彼の戦い方は学んでいたので一歩も引かずに冷静に対処を行う。



「やああっ!!」

「……くっ、しつこい!!」



ミナの方もシュリと向かい合い、彼女の生み出す結界魔法陣に槍を撃ち込む。物理攻撃は完全に防がれてしまうが、ミナは結界魔法陣を潜り抜けてシュリへと攻撃を当てようとする。そんな彼女にシュリは苛立ちながらも次々と新しい結界魔法陣を作り出して防ぐ。



「あ~あ、あたしだけのけ者か……つまんねえな」



その様子をコネコは観察し、彼女はつまらなそうに座り込んでしまう。そしてゴイルから渡された自分のバトルブーツを見てため息を吐き出す。

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