第419話 素材回収

「お前の父親は良い奴だった。だが、同時に頑固な男でもあった。俺は何度も奴を冒険者に誘ったが、結局は聞き入れずに自分が生まれた村から離れる事はなかったがな……」

「そうだったんですか……」

「その冒険者バッジはもう私には必要のない物だ。お前に貰って欲しい……奴の形見の品というわけではないがな」



キデルから渡された冒険者バッジを見詰め、カイが昔修理を施したというバッジと聞いて有難く受取る。一方でキデルはレナの他に助けに来てくれた者達に頭を下げた。



「街の危機を救っていただき、誠にありがとうございます。この恩は一生忘れません」

「いえ、私達は依頼を受けて赴いただけです。礼を言うのであれば今回の依頼を申し出たレナ様とダリル様に感謝してください」

『この坊主とこっちの人な、自分の財産の殆どを費やして俺達に救援を求めたんだよ。感謝しているというのなら依頼分の報酬を返却しやったらどうだい?』

「何?そうだったのか……それで金額はいくらほどだ?」



イチノの人間達は救援に訪れたレナ達の事を国が派遣したとばかり思いこんでいたが、実は依頼を申し込んだのはレナとダリルだと知って驚く。


だキデルはイチノを救うためにどれだけの金額を費やしたのかを問うが、街の状態を見てとてもではないが今のキデルに支払える金額ではないと悟ったダリルが慌てて遠慮する。



「いやいや、気にする事はないって!!ここは俺の故郷でもあるんだ、故郷を救うためならなんだってするぞ俺は!!」

「しかし、ダリル殿は商人だと聞いておる。財産の殆どを費やしたのであれば今後の商売に大きな影響があるだろう。ここは我々の方で報酬は支払わせてもらうぞ」

「そうそう、あんたらは命の恩人なんだから遠慮する事はないよ」

「でも、街の復興にもお金が掛かるのに……」

「そうはいかないよレナ君!!命の恩人にこれ以上は迷惑を掛けられないからね!!さあ、遠慮なく金額を言ってくれたまえ!!」



バル達も命を助けてもらっただけではなく、報酬を支払ってまで助けに来てくれたと聞いて黙っていられるはずがなかった。そんな彼女達の言葉を聞いてイルミナが口を挟む。



「我々は今回の遠征のために現金で金貨数百枚、さらに希少価値の高い鉱石を受け取っています。その鉱石を換算した場合、そうですね……だいたい金貨1000枚ほどの報酬を受け取る約束をしています」

『…………』



イルミナの報酬金額を聞いた途端、キデル達は黙り込んでしまう。他の人間達も彼等の反応を見て当たり前だと思う。金貨1000枚など仮に黄金級冒険者でも簡単に稼げる金額ではない。


しかし、キデル達の方も支払うと言った以上は引くには引けず、とりあえずはイルミナを待たせてキデルはキニクとバルとイリナを引き寄せてひそひそと話し合う。



「おい、お前達……いくら持っている?」

「僕は金貨を30枚ぐらいなら用意出来ると思います。あとは店を売れば70枚ぐらいは……」

「あたしは金貨3枚も持ってないよ……こんな事ならちゃんと貯金しておけばよかったね」

「わ、私もお金にそれほど余裕は……」

「そうか……お前達はどうだ?」



駄目元でキデルはイチノの冒険者達に尋ねるが、全員が申し訳なさそうな表情を浮かべて顔を反らす。その態度を見て全員が金を出し合っても報酬は支払えないと判断したキデルは、他の者達と共にレナとダリルに土下座を行う。



「すまない!!それだけの金額は今は到底払う事が出来ん!!」

『ごめんなさい!!』

「いやいやいや、別に気にしないでいいですから!!」

「まあ、こんな状況なら仕方ないよな……」



冒険者達の土下座を受けてレナは慌てふためき、ダリルの方も期待はしていなかったのか街の様子を伺う。今回の報酬を支払えばダリル商会の方も金銭面に余裕が出来なくなるが、それでもイチノを救えたと考えれば仕方がない話だった。


だが、ここで意外な人物が手を上げて提案を行う。それはドリスであり、彼女はある方法を利用すれば報酬分の金額をイチノの人間にも用意出来るのではないかと提案を行う。



「あの……それでしたら冒険者の皆さんは倒した魔物の素材を回収し、それをレナさん達に渡されたらどうでしょうか?ホブゴブリンの素材など滅多に手に入りませんし、他にも魔物の死骸があるのですからそれらを回収すれば少しは足しになるのでは……」

『……そっ、それだぁっ!?』





――こうしてドリスの提案は受け入れられ、冒険者達は疲れている身体に鞭を打って外へと駆け込み、死骸が荒らされる前にホブゴブリンの軍勢の素材の回収を行う。




本来、魔物の死骸の素材回収の権利は魔物を倒した人間に与えられるのだが、今回の敵は大群で時間的に考えてもレナ達だけでは全ての素材を回収して持ち帰る事は出来ない程の量だった。金色の隼から派遣された3人の黄金級冒険者も素材の一部を渡してくれるというのであれば自分達の代わりに素材の回収を行ってくれる冒険者達に反対はせず、同行した魔術師組も特に素材には興味はなかったのであっさりと承諾した。


それから3日程の間は倒した魔物達の素材をかき集め、冒険者ギルドに大量の素材が運び込まれる。また、ゴブリン達が所持していた装備品も意外と品質が高い物が多く、それらも換金すれば相当な額の金額が用意出来ると思われた。こうしてダリル商会は潰れずに済みそうだと知ったダリルは感激する一方、レナ達は素材の回収が終わるまでの間はイチノに滞在する事になった。

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