第418話 キデルとカイ

――村を立ち去ったレナ達はイチノへ戻ると、冒険者ギルドの方にてレナは赴き、バルやキニク、そして受付嬢のイリナと再会を果たす。イリナはレナの姿を見た瞬間、涙目で抱き着いてきた。



「れ、レナぐぅ~んっ!!」

「うわっ!?い、イリナさん……お久しぶりです」

「うん、久しぶり~……元気で良かったぁっ!!」



イリナは全力でレナを抱き締めると、レナは照れ臭そうに抱き返す。その光景を見てバルは呆れた表情を浮かべるが、キニクはハンカチで涙を拭う。



「うう、感動の再会だね」

「これを見てよく泣けるねあんた……それにしてもあんなに小さかったガキが、まさかまたこの街を救ってくれるなんてね」

「レナよ、よく帰ってきてくれた」

「あ、ギルドマスター!?」



キデルが姿を現すとレナはイリナを離し、彼の元へ向かう。キデルは久々に再会したレナの頭に手を伸ばし、褒め称える。



「よくやった……お前はこの街の英雄だ」

「いえ、俺一人だけじゃ何も出来ませんでした。ここに来れたのも、ここにいる皆のお陰です」

「そうか……彼等が今のお前の仲間達か」



キデルはレナの仲間達に顔を向けると、頭を下げる。そんなキデルに大してコネコ達も慌てて頭を下げると、同行していたイルミナが改めてキデルの元へ向かう。



「初めまして、我々は王都にて#冒険者組織__クラン__#を運営している「金色の隼」です。この度はこちらにいるレナ様の依頼を受けてこちらへ参りました」

「おお、金色の隼か……この辺境の地にいても名前が伝わっていますぞ」

『へえ、そいつは嬉しいね。俺達の組織も有名になったもんだ』

「そうだな」



黄金級冒険者の3名の登場に冒険者ギルドに存在した者達は圧倒され、同じ冒険者と言えどもこの3人は格の違いが嫌でも思い知らされる。この辺境の地に黄金級冒険者が訪れるなど滅多になく、流石のキデルも同様をっか失せない


だが、それはともかくとしてイルミナはキデルから今回のホブゴブリンの軍勢の誕生について詳しい話を聞く。ホブゴブリンが軍勢を率いて街を襲うなど前例がないため、いったい何が原因なのかを探って国に報告しなければならなかった。



「率直に訪ねますが、今回のゴブリンキングが率いていた軍勢に関していくつか質問させてください。このギルドでは何年も前からホブゴブリンの動向を調べていたと聞き及んでいます。我々にも具体的な内容を聞かせて貰えますか?」

「うむ、確かに君たちの言う通りだ。実は我々は前からゴブリン共が数を増やし、軍勢を築いていた事を知っていた」

「そうだったんですか!?」

「悪かったね、あんたにあいつらの事を知らせると一人で無茶をしそうだと思って黙ってたんだ……」

「バルを責めないでくれ、僕も知っていたのに黙っていたんだ。本当にすまない……」

「ご、ごめんねレナ君……」

「いえ、別にいいですよ。怒ってませんから……」



バル、キニク、イリナが謝罪を行うと慌ててレナは取り繕い、別に3人が黙っていた事を責めるつもりはなかった。自分のためを思っての行動なら仕方がない事だと納得し、話を続けさせる。



「我々としてもゴブリン共が勢力を伸ばすのを黙って見守る訳にいかなかった。定期的に他の街に連絡を取り、この地の領主にも報告は行っていた。しかし……ゴブリン達が拠点としているのはヒトノ国と獣人国の領地の境目に近い山村だった。そのために軍隊でも派遣しようものならば獣人国を警戒させてしまう恐れがあり、迂闊に動けなかったのだ」

「その話は知ってるぞ!!兄ちゃんがガキの頃に村を襲われた時も国の奴等は何もしなかったんだろ!?ひどい話だなおい!!」

「こ、コネコちゃん!!」



コネコが話に割り込むとキデルも何とも得ない表情を浮かべ、慌ててミナがコネコを抑えつける。しかし、コネコ以外の者たちもレナがどれだけ自分の村を失った事が辛かったことはよく知っていた。


キデルはコネコノの言葉に表情を歪め、彼女の言う通りにレナを気遣っての行動とはいえ、彼の故郷の異変を教えなかった事に関しては否を認める。



「そこの子供の言う通りだ。もしも村が襲われた時、早急に警備兵や冒険者を派遣してゴブリン共の対処を行っていれば今回のような事態には陥らなかったはず……ここまで犠牲が生まれるはずがなかった。全ての責任は当時、何も出来なかった私のせいだ」

「ギルドマスター……」

「すまない、レナ……カイの忘れ形見であるお前の頼みを聞き入れられなかった私を許してくれ」

「え?」



ここでカイの名前が出た事にレナは驚くと、キデルは懐から金色に光り輝くバッジを取り出す。それは冒険者の証であり、かつてキデルが冒険者時代に所持していたバッジだった。



「お前の父親のカイは実を言えば私の一番の親友だった。奴は小髭族だったが、鍛冶師としての才能がなく、狩人として生きてきた。奴と会った時は私もカイも10代だった。山に現れた赤毛熊を討伐するとき、奴が助けてくれたのが出会いだった」

「じーじがギルドマスターと……!?」

「このバッジは当時の私の冒険者バッジだが、赤毛熊との戦闘の際に壊されてな。それを奴が直してくれたのだ。最も鍛冶師になれなかった奴の技術ではこんな歪な形になってしまったがな……」



キデルはレナにカイから修理して貰った金級の冒険者バッジを渡す。確かに形は曲がっており、金箔が剥がれ落ちていた。ちなみに金級冒険者のバッジは銅製のメダルに金箔を貼り付けただけの物だが、黄金級冒険者のバッジは純金で構成されている。

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