第417話 復讐の終わり
――その後、レナ達がイチノに戻った時には既に他の城壁での戦闘も終わっていた。マドウが用意した魔術師2名、サブ魔導士が送り込んだ6名、そして黄金級冒険者である3人の冒険者達の活躍によって他の城壁での防衛も成功に終わった。
ホブゴブリンの軍勢は壊滅状態に陥り、生き残ったホブゴブリンも散り散りになって逃げ去った。無論、逃げたところで軍勢を管理していたゴブリンキングはレナ達によって討伐された以上、もうホブゴブリンが軍勢を結成して襲う可能性は皆無だろう。
逃走したホブゴブリンは正確な数は分からないが、少なくとも死体の数は900を超えていた。同行していたゴブリンと他の魔獣に至っては全滅し、残りの100体近くのホブゴブリンに関しては各地の村や街で警備を高めれば対応できる可能性が高い。
都合が良い事はホブゴブリンの場合は子供が生まれたとしてもそれはただのゴブリンであり、ホブゴブリンの数が増える事はあり得ない。そもそも普通のゴブリンがホブゴブリンに進化する事が稀な事態であるため、後はイチノ地方の冒険者達だけでも対応できると判断された。
こうしてイチノは危機を救われ、大勢の被害を産み出しながらも街の民衆は生き延びる事が出来た。また、今まではホブゴブリンの軍勢によって阻まれていた補給物資も他の街から届き、イチノの人間達は完全にホブゴブリンの恐怖から解放され、平穏の時を過ごす――
――その一方でレナは討伐を終えた翌日に皆と共に自分の村へと向かう。飛竜が皆を乗せた馬車を運び込み、レナはスケボを利用して空を移動しながら村へと向かうと、やがて変わり果てた村の風景が視界に映し出される。
「こ、ここがレナ君の村なの?」
「村っていうか……もう、砦じゃないのかこれ?」
「……降りよう」
レナが暮らしていた村はゴブリンキングとその手勢によって見る影もなく、最早村ではなく「砦」へと変化していた。なまじ頭が良すぎるだけにホブゴブリン達は人間達に攻め寄せられる事を考えて村の周囲に城壁や柵を作り出したらしく、レナが暮らしていた頃の村の面影は殆どの残っていなかった。
だが、運が良い事に村の端の方に存在したレナの家に関しては未だに残っていたらしく、随分と長い間を放置されていたが、それでも原型は辛うじて残っていた。レナは寂れてしまった自分の家に戻ると、数年ぶりに玄関の扉を開く。
「ただいま……じーじ、ばーば」
声を掛ければ二人が出迎えてくれるのではないかという淡い期待を抱くが、当然だがそんな事はなかった。家の中は酷く荒らされ、家具の類も壊れていた。その様子を見てレナは酷く寂しい気持ちに襲われるが、不意に床に自分がよく読んでいた絵本が落ちている事に気付く。
「これは……」
絵本の表紙は「重力の勇者」と記され、レナが知る限り初めてこの世界に誕生した「付与魔術師」の人物が題材になった絵本である。異世界から「勇者」として召喚されたが、他の勇者と違って最も目立たず、存在すら忘れられた勇者の物語だった。
この絵本を見てレナは自分の力の正体に気付き、物語の主人公を調べるほどにレナは重力の存在を知る事が出来た。つまり、レナの今の強さの秘密はこの絵本のお陰とも言えるだろう。レナは絵本に手を伸ばそうとした時、コネコが声を掛ける。
「兄ちゃん!!危ないっ!!」
「え?」
「ギギィッ……!!」
壊れた家具の陰から何者かが飛び出し、床に落ちていた絵本を奪って壁際に移動する。それを見たレナは驚くと、そこに居たのは小さな「ゴブリン」だった。ゴブリンは絵本を抱き締めて怯えた表情を浮かべ、レナ達を睨みつけた。
どうやらまだ子供らしく、ホブゴブリンにも至っていない通常種のゴブリンだった。自分の家にゴブリンが住み着いていた事は驚きはしないが、レナはゴブリンが絵本を大切そうに抱えている事に驚く。
「お前……それが大切なのか?」
「レナ君!!上にもいるよ!!」
「ギギィッ!!」
「ギィアッ!!」
レナがゴブリンに近付こうとすると、ミナが警告を行い、天井に張り付いていた2匹のゴブリンが現れる。こちらもまだ子供のようだが、絵本を奪ったゴブリンよりは大きい。どうやら兄弟らしく、ゴブリン達はお互いを守るようにかばい合う。
絵本に興味を抱くゴブリン、それを守ろうとするゴブリンの姿を見てレナ達は驚き、大抵のゴブリンは家族であろうと自分の身に危険が迫れば逃げ出してしまう。だが、このゴブリン達は小さな弟を見捨てず、逆に助けようとレナ達と向かい合う。怯えているのか身体は震えているのに逃げようとしないゴブリン達に対してレナは過去を思い出す。
弟を守ろうとするゴブリン達を見てレナは自分を救うために最後まで戦ったカイの姿が被り、小さなゴブリンが大切に抱きしめる絵本を見てしまうと、もうレナの中のゴブリンに対する「復讐心」が消えてしまう。
「行こう、皆……」
「え?でも……」
「いいんだ、もういいんだ」
「ギギィッ……?」
折角家に戻る事が出来たレナだが、もうゴブリンを見てもなにも思わず、ここで自分の復讐がもう終わった事を悟る。ならば自分は先に進む必要があると判断し、最後にゴブリン達に振り返ると、レナは笑みを浮かべて立ち去った――
※これでレナの復讐は完全に終わりました。ここまでのご愛読、ありがとうござ……い、いや!!まだ続きますから!!
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