第407話 魔拳士
「あれは……赤毛熊ですの!?」
「しかも普通の大きさじゃないぞ!!」
「くそ、兄ちゃんを助けに……うわっ!?」
「大丈夫、問題ない。今のレナの邪魔をしてはいけない」
「邪魔って……」
「大丈夫、レナを信じて……あの程度の敵に負けるはずがない」
通常種よりも大きい赤毛熊の登場にコネコが咄嗟にレナの手助けに向かおうとしたが、それをシノが引き留める。どうして止めるのかと全員が彼女に視線を向けると、シノは何かを確信したかのように目元を細めて呟く。
シノの言葉に全員がレナに視線を向けると、確かに赤毛熊の登場を見てもレナは焦る様子すらなく、ゆっくりと赤毛熊に向けて歩み寄る。その行動にホブゴブリン達は驚き、スカーは嫌な予感を覚えて赤毛熊に鞭を叩きつけた。
「イケ、クイコロセッ!!」
「ウガァアアアッ!!」
鞭で叩きつけられた赤毛熊は血走った眼をレナに向け、そのままレナに目掛けて駆け込む。それを見たレナは腰に装着した魔銃に手を伸ばすと、瞬時に引き抜いて発砲した。
「邪魔」
「ガアッ――!?」
次の瞬間、赤毛熊の眼球に目掛けてミスリルの弾丸が発射され、そのまま貫通する。赤毛熊は自分の身に何が起きたのか理解すら出来ず、そのまま立ち止まってしまう。撃ちぬかれた左目から血液が迸り、赤毛熊の巨体が倒れ込む。
あまりにも一瞬の出来事でホブゴブリン達は何が起きたのか理解出来ず、こんなにも呆気なく赤毛熊が死亡した事が信じられなかった。スカーでさえも倒れた赤毛熊に信じられない表情を浮かべるが、すぐにレナが手にしている武器に気付き、あの得体の知れない道具を使って赤毛熊を殺した事を理解する。
「グッ……ゼンインデ、オソイカカレ!!」
「ギギィッ!?」
「グギィッ……」
スカーの命令を受けたホブゴブリン達は信じられない表情を浮かべ、赤毛熊を一瞬で殺した相手に何の策も無しに襲いかかれと言われて素直に従えるはずがない。だが、そんな彼等を見てスカーは鞭を手放すと、手斧を握り締めて挑もうとしないホブゴブリンの首を切り落とす。
「ドウシタ、イケ!!イカナケレバ、オレガオマエタチヲコロスゾ!!」
『ギギィッ……!?』
「カカレェッ!!」
『グギィイイッ!!』
ホブゴブリン達は仲間の首を切り落としたスカーの命令に対し、覚悟を決めたように各々が武器を構える。そんなホブゴブリン達の姿を見てレナは闘拳、籠手、ブーツに付与魔法を同時に施すと手招きを行う。
そのレナの行為を挑発だと理解したホブゴブリンの大群が一斉に押し寄せ、数の暴力でレナを押し潰そうとしてきた。だが、レナは両手を左手を伸ばすとまずは相手の体勢を崩すために衝撃波を放つ。
「反発!!」
『グギャアアアッ!?』
左手から離れた衝撃波によって正面方向のゴブリン達が吹き飛び、その隙を逃さずにレナは駆け出す。それを見た他のホブゴブリン達は慌てて後方からレナを追跡するが、それをも予測していたレナはブーツに付与させた魔力を開放させて一気に加速する。
ブーツに施された魔力が解放され、衝撃波を放つとレナは瞬間的に加速して距離を開く。十分な距離を取ると、後方から迫ってくるホブゴブリンの大群に顔を向けたレナは左手を地面に押し付け、付与魔法を発動させて大きな土壁を産み出す。
「
『ギギィッ!?』
地面に魔力を流し込む事によってレイナは前方に巨大な土壁を作り出すと、そのまま勢いを止めきれずに突っ込んできたホブゴブリンの集団が土壁に激突する。土と砂利を高密度に圧縮した事によって作り出された土壁は正にコンクリートのような強度を誇り、ボアが突進してきたとしても破壊される事はないだろう。
そんな土壁を作り出したレナは休まずに移動すると、そのまま右腕の闘拳を振り翳し、勢いよく踏み込みながら土壁に向けて殴りつけるのと同時に魔力を開放させた。
「
『グギャアアアアッ……!?』
至近距離から魔力を開放した事によって強烈な衝撃波が発生し、その影響で土壁が崩れるだけではなく、無数の土石の破片がホブゴブリンの大群へと襲いかかる。結果としては土壁の前に集まっていたホブゴブリン達は砲弾の如く放たれた土石によって押し潰されてしまう。
残されたホブゴブリンは半数程度しか満たず、指示を出したスカーでさえも冷や汗が止まらない。まさか昔、自分が追い詰めた小さな子供がここまでの力を身に着けているとは思わなかったのだろう。
だが、スカーはレナが装着している「魔銃」に視線を向け、先ほどの赤毛熊を殺した威力を思い出す。スカーは笑みを浮かべると、怖気づいているホブゴブリン達に命令を下す。
「ソイツニチカヨルナ!!トオクカラ、ヤリヲ、イシヲ、トニカクナンデモイイカラナゲロ!!」
『ギギィッ……!!』
スカーの命令を聞いたホブゴブリン達はレナに近付かなくていいと聞いて安心すると、地面に散らばった武器を拾い上げてレナの元へ投げ込む。
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