第408話 まさかのミノタウロス

「レナ君、危ない!!」

「大丈夫、皆はそこに居て!!」



武器を投げつけてきたホブゴブリン達を見てミナは咄嗟にレナの救援に向かおうとしたが、それを制してレナは掌を地面に押し付けると付与魔法を発動させて地面を盛り上げる。


周囲を取り囲むように形成された土壁ホブゴブリン達の槍を弾くと、その光景を見た者達は攻撃を止めようとした。しかし、それに対してスカーは怒鳴りつけた。



「ナゲルノヲ、ヤメルナ!!カベノムコウガワニナゲロ!!」



スカーの命令を受けたホブゴブリン達は言われた通りに土壁の内側に向けて投擲を行う。弧を描きながら多数の武器が土壁の内部へと投げ込まれるが、特に内側にいるはずのレナに反応はない。スカーが疑問を抱いた時、唐突に土壁から少し離れた場所の地面が盛り上がる。



「だああっ!!」

『グギィイッ!?』



盛り上がった地面が爆発したかと思うと、地中の中からレナが姿を現す。その光景を見てホブゴブリン達は悲鳴を上げる中、レナはローブにこびり付いた土砂を振り払う。


土壁の内部に存在したはずのレナが地面から現れた事にスカーは驚くが、すぐに彼が地面の土砂を操作する事が出来る事を思い出す。その能力を利用して地面の土砂を掻き分けて地中を掘り進み、脱出した事を見抜く。



「クソッ、ニンゲンメッ!!」

「ふうっ……そろそろ、お前が来いよ」

「チィッ……「ヤツ」ヲカイホウシロ!!」



スカーが木造製の檻の中に閉じ込めていた最後の魔獣を解放させるように指示を出すと、先ほどの赤毛熊を閉じ込めていた檻よりも巨大な檻の中に閉じ込められた魔獣が解放される。それを見たレナは少々驚き、まさかこの外の世界で遭遇するとは思わなかった魔獣が出現した。




――ブモォオオオッ!!




草原内に牛のような鳴き声が響き渡り、檻の中から現れたのは煉瓦の大迷宮で遭遇した「ミノタウロス」が姿を現す。こちらのミノタウロスはレナ達が過去に相対した個体よりも身体は大きいが、どちらかというと体格が大きいというよりも肥え太っていた。


前回にレナ達が大迷宮で遭遇したミノタウロスが「闘牛」ならばホブゴブリンが解放したミノタウロスは「乳牛」を想像させ、まだら模様が目立つ。それでもミノタウロス特融の怪力を誇るらしく、檻の中に閉じ込められていたミノタウロスは自分が解放された瞬間、自分を閉じ込めていた檻に手を伸ばして片腕だけで持ち上げる。恐らくは1トン近くはあると思われる檻を軽々と持ち上げると、ミノタウロスは血走った目で放り投げる。



「ブモォオオオッ!!」

「危ない、兄ちゃん!?」

「いかん!!レナを助け……!?」



檻を放り投げてきたミノタウロスを見てコネコとデブリはレナを助けるために動こうとしたが、二人が駆けつける前にレナは何事もないように左手を伸ばす。



「反発」

「ブモォッ!?」



最初に左手から重力の衝撃波を生み出す事で投擲された檻の勢いを殺すと、続けて右腕を伸ばして檻を掴み、付与魔法を発動させて檻に魔力を流し込むと流れる動作で檻を逆に投げ返す。



「お返しだ!!」

「ブフゥウウッ!?」

「バカナッ!?」



自分が投げ込んだ檻を逆に投げ返されたミノタウロスは反応できず、そのまま檻に衝突して倒れ込む。その様子を見たスカーは目を見開き、獣人国から連れて来たミノタウロスさえもあっさりと返り討ちにしたレナに恐れを抱く。


だが、スカーはそれでも諦めずにレナの元へ駆けつけると、檻を投げた後に隙を見せたレナに目掛けて手斧を振り翳す。



「シネェエエエッ!!」

「ふんっ!!」



背後から迫ってきたスカーに気付いたレナは面倒そうに闘拳を装備した方の腕で裏拳を叩き込むと、スカーの顔面を捉えて吹き飛ばす。叩きつけられた衝撃でスカーは牙がへし折れ、手にしていた手斧を落とす。



「グギャアアッ!?」

「ギギィッ!?」

「グギギッ……!!」



情けない悲鳴を上げて吹き飛んだスカーの姿を見て他のホブゴブリン達は震えあがり、戦意を失ってしまう。それは後方で木造製の車椅子に座り込んでいた老齢のホブゴブリンも同じであり、自分達の中で最も勇猛な戦士であるスカーが敗れた事に動揺を隠せられない。


何の策も無しに自分に突っ込んできたスカーに対してレナは冷めた目で見るが、不意に腰の方に違和感を覚えて視線を向ける。すると、先ほどまで確かにホルスターに装着していたはずの魔銃が消えている事にレナは気付くと、スカーの笑い声が響く。



「グッ……ギギィッ!!」

「お前っ……!?」

「レナ君!?そいつに近付いちゃ駄目っ!!」




――殴りつけられた際にスカーはレナから魔銃を盗み出し、近寄ろうとしたレナに向けて銃口を構える。それを見たミナは声を上げるが、次の瞬間にスカーは魔銃の引き金に指をかけた。




「シネ、ニンゲンガァッ!!」

「…………」



構えられた銃口に対してレナは視線を鋭くさせると、スカーは勝利を確信して引き金を引く。だが、どういう事なのか魔銃からは弾丸は発射されず、スカーは何度も引き金を引くが魔銃は反応しない。



「ナッ……ソンナバカナッ!?ドウシテ……」

「それ、弾丸を装填しないと意味ないよ」



いくら引き金を引こうと魔銃に弾丸が装填されていなければ発砲できるはずがなく、レナは呆れた表情を浮かべながらスカーの元に向かう。スカーはレナの言葉を聞いても意味が理解出来ず、何度も引き金を引くが弾丸が発砲される事はない。

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