第404話 韋駄天と槍将

デブリがホブゴブリンを蹴散らした直後、草原内に「疾風」の如き速さでコネコは駆け出すと、バトルブーツに装着された風属性の魔力を最大限に生かして加速する。


小柄で年齢も幼いコネコは他の人間と比べると腕力には劣るが、足の早さだけならば誰にも負けず、彼女は加速した状態で繰り出される足技によってホブゴブリンが次々と吹き飛ぶ。



「おらぁっ!!」

「グギャアッ!?」



大柄のホブゴブリンの顔面に強烈な衝撃が走り、顔面を凹ませた状態で倒れ込む。周囲に存在した他のホブゴブリンは何が起きたのか理解出来ず、唐突に大柄のホブゴブリンが倒れ込んだようにしか見えなかった。


しかし、実際には目にも止まらぬ速さで駆け抜けたコネコが蹴りを喰らわせて倒した。学園内でも1番足が速いコネコがさらに改良されたバトルブーツを装備した結果、彼女は空をも駆け抜ける足を手に入れる。



「旋風脚!!」

「グギィッ!?」

「ギャッ!?」

「アガァッ!?」



空中に跳躍するのと同時に身体を回転させながら蹴りを繰り出し、一度に3体のホブゴブリンの首をへし折ったコネコは地面に着地する。その瞬間、姿を現したコネコに狼型の魔獣である「ファング」に乗り込んだゴブリンの集団が駆けつけた。



『ギィイイイッ!!』

『ガアアアッ!!』

「うわ、何だこいつ等……!?」



ホブゴブリンではなく、ただのゴブリンがファングを従えて現れた事にコネコは戸惑うが、彼等は普通のゴブリンではなく「ゴブリンライダー」と呼ばれる種族だった。通常のゴブリンと体色が微妙に異なり、力は弱いが他の魔物を従える力を持つ。特に魔獣系を従える力に長けているため、ゴブリンライダーはヒトノ国の北に存在する獣人国のファングと呼ばれる魔獣を従えてコネコに襲いかかる。


ゴブリンライダーはヒトノ国には生息せず、本来は獣人国に生息する魔物だった。しかし、獣人国の軍隊によって住処を負われたゴブリンライダーの集団がヒトノ国に移住した際、圧倒的な縄張りを持つホブゴブリンの軍勢に服従する事で命を助けられた。



「ガアアアッ!!」

「ガウッ!!」

「へ、犬ころなんかにあたしに追いつけると思って……わあっ!?」

「グギィッ……!!」



コネコは近づいてくるゴブリンライダーに対して汗を流しながらも駆け抜けようとしたが、倒したと思っていたホブゴブリンの1体が彼女の足を掴む。


慌ててコネコは引き剥がそうとするが、単純な力はホブゴブリンの方が上であり、加速しない限りはコネコは強い力に対抗出来ない。



「ギィアアアッ!!」

「ちょ、待て……うわぁあああっ!?」



起き上がったホブゴブリンはコネコの足を掴んで持ち上げると、そのままゴブリンライダーの群れに目掛けて放り込む。コネコは慌ててバトルブーツを使用して空中転換を行おうとしたが、バトルブーツを発動するにはネジのように設置された風属性の魔石を回さなければならない。


放り投げられたコネコは体勢を乱してブーツに手が届かず、そのまま大口を開いたファングの1体に頭を噛みつかれそうになった。しかし、その様子を見ていたミナが飛竜を降下させ、寸前でコネコを救い出す。



「コネコちゃん!!」

「うわっ!?」

「シャアアアッ!!」

『ギィイイイッ!?』

『ギャインッ!?』



飛竜が巨体を生かして突っ込むと、ゴブリンライダーは蹴散らされ、コネコはミナの腕に抱きしめられる。ゴブリンライダーが魔獣を操るのを得意とすると言っても、ファングと飛竜では格が違い、ミナを乗せた飛竜は尻尾を振り払ってゴブリンライダーを簡単に吹き飛ばす。


さらに飛竜はゴブリンライダーに大口を開くと、それを目撃したファングは慌てて背中に乗せたゴブリンを振り落として逃走を開始する。慌てて背中に乗っていたゴブリンライダーはファングを引き留めようとするが、その前にミナが飛竜を操作して「馬上」ならぬ「竜上」で槍を繰り出す。



「乱れ突き!!」

「ギャウッ!?」

「ギィアッ!?」

「ギギィッ!?」

「す、すげぇっ……!?」



目にも止まらぬ速さで槍を繰り出してゴブリンライダーを倒していくミナにコネコは驚くが、彼女も負けていられないとバトルブーツに手を伸ばすと、再び風属性の魔石を発動させて飛び上がる。



「ミナの姉ちゃん!!どっちあいつらを多く倒せるか勝負だ!!」

「コネコちゃん!?もう、無理をしちゃ駄目だよ!!」

『ギャインッ!?』



逃げ惑うファングに向けてコネコは駆け出すと、一瞬で追い詰めて先ほどの仕返しとばかりに蹴り飛ばす。それを見てミナは注意しながらも飛竜の背中の上から槍を繰り出して次々とファングから落とされたゴブリンライダーを打ち倒す。


その様子を見ていた他のホブゴブリン達は危機感を抱き、重武装したホブゴブリンの集団が現れた。

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