第405話 シノの舞、ドリスの新技、ナオの防衛

『グギィイイイッ!!』

「重装歩兵……こんな奴等までいたの!?」

「私に任せて」



ミナの乗り込んだ飛竜に目掛けて全身を甲冑で覆いこんだ50匹のホブゴブリンが接近すると、それを見たミナは迎撃を行おうとした。しかし、その前に重武装したホブゴブリンの元にシノが駆け込む。


両手に短刀を握り締めたシノが重装歩兵に接近すると、彼女は両手に掴む「氷華」と「炎華」の力を解放させた。この二つの短刀は元々は七影のイゾウが所持していた妖刀を加工した代物であり、刀身は短くなったがその力は衰えておらず、シノは両手の短刀を重装歩兵に切りつける。



「せいっ」

『グギャアッ!?』

『ギィイイッ!?』

『グゲェッ!?』



あまりの力がこもっているいない掛け声ではあったが、シノが重装歩兵に両手の短刀を切りつけた瞬間、甲冑で守られているはずのホブゴブリンの悲鳴が上がる。


氷華に切り裂かれた箇所は凍り付き、炎華に切りつけられた箇所は発火する。この特性を生かした攻撃は全身を鋼鉄製の甲冑で覆われたホブゴブリン達に苦痛を与えた。魔法耐性たが高い魔法金属で構成された防具ならばともかく、ただの鋼鉄で構成された鎧ではシノの所有する妖刀に耐え切れるはずがない。


鉄は熱しやすく冷めやすい性質を持つため、氷華で切り付けられた場合は斬られた箇所から凍結化が始まり、炎華で切り付けられた場合は炎の高温が一気に全身に広がっていく。その結果、重装したホブゴブリン達は身を守るはずの鎧によって苦しめられる事になった。



「剣舞、流の舞」

『グギャアアアッ!?』



シノが舞うように次々と重装歩兵を斬りつけると、身体を熱しられ、あるいは冷やされたホブゴブリン達は倒れ込む。イゾウ程に妖刀を完璧に使いこなせるわけではないが、自分が最も得意とする短刀に作り替えられた事でシノは巧みに二つの妖刀を扱う。



「流石はシノさんですわ!!私達も負けていられませんわねナオ!?」

「うん、そうだね」

『ギギィッ……!!』



ドリスとナオは背中合わせの状態で自分達を取り囲む槍を構えたホブゴブリンと向き直り、二人はお互いの背中を守りながら反撃に転じる。完全に囲まれた状態でありながらも二人に不安は一切感じられず、一番の親友同士なので安心して背中を任せられた。



「ドリス、君は僕が守る。だから遠慮せずに魔法を使って!!」

「ええ、私の背中を任せられるのはナオだけですわ……では、行きますわよ!!」

『グギィッ!!』



周囲を取り囲んでいたホブゴブリンの集団が動き出し、一斉に槍を突き出す。周囲から迫りくる槍に対してナオはドリスを抱えると、上空へと跳躍を行う。



「ドリス!!」

「分かってますわ!!氷塊!!」

『ギギィッ!?』



上空へ飛びあがるのと同時にナオは声を掛けると、瞬時にドリスは掌を伸ばしてナオの移動方向に氷塊の魔法で作り出した「氷の足場」を産み出す。空中に次々と出現する氷の塊を足場にしてナオは空中を移動すると、安全な場所まで避難した。


ドリスはナオから降ろされると自分達を取り逃がした槍を構えるホブゴブリンに視線を向け、新たに開発した自分の魔法を発動させる。



「行きますわよ、私の新必殺技!!名付けて火炎流槍!!」

「えっ、それって……!?」



ホブゴブリンに視線を向けたドリスは初級魔法を発動させ、複数の火球を同時に発動させる。そして自分の目の前に火球を移動させると、彼女は斜めから「風圧」の初級魔法を発動させ、最得意とする「火炎槍」を連続して打ち込む。


風属性と火属性の初級魔法を組み合わせた「火炎槍」はドリスが最も得意とする合成魔術ではあるが、今回の場合は正面から打ち込むのではなく、斜め下から打ち込む事で槍を投擲するかのように弧を描きながら炎の槍が放たれていく。先日、ナオが戦ったブランが放った「黒炎流槍」と瓜二つの攻撃法だが、その威力は絶大だった。



『グギャアアアッ!?』



上空から落ちてきた火炎槍は地面に衝突するのと同時に爆散し、一度に数匹のホブゴブリンを巻き込む。しかもそれが連続で放たれるのだから堪ったものではなく、槍を構えていたホブゴブリン達はその場に槍を放り捨てて逃げ惑うが、ドリスは容赦せずに打ち込む。



「逃がしませんわよ!!私が一晩も費やして考え付いた新魔法の餌食になって貰いますわ!!」

「あの、ドリス……」

「どうですかナオ!?私の新魔法は凄いでしょう!!こんな攻撃方法、きっと誰も思いつきませんわ!!」

「……う、うん、凄いねドリス!!」



自慢気に自分の編み出した合成魔術を自慢するドリスに対し、ナオは何とも言えない表情を浮かべる。現在のドリスの扱う「火炎流槍」はブランが使用した「黒炎流槍」と同じ使い方であるのは間違いない。だが、ドリス本人はそれに気付かずに自分で編み出した魔法だと思いこんでいた。



(ドリスも僕の試合を見ていたはずなのに……いや、もしかして気付いていないだけ?本当に自分が考えたのかと思っているのかな……)



間違いなく、ドリスの「火炎流槍」はブランの「黒炎流槍」を参考にして作られたとしか考えられないのだが、ドリス本人は本気で自分で考案した技だと思いこんでる様子なのでナオは敢えて黙っておく事にした。

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