第401話 成長した弟子

「ふうっ……」

「あ、あんた……まさか、レナかい!?」



唐突に自分の前に現れた少年を見て、意識を失いかけていたバルは驚愕の表情を浮かべた。そんな彼女に対して少年は振り返ると、その顔は間違いなく数か月前まではこのイチノで冒険者としてすごしていた自分の「弟子」だと知る。しかし、一瞬にして数十体のホブゴブリンを吹き飛ばした彼を見てバルは最初は別人かと思った。


バルの知っているレナは並の冒険者とは比較にならない優れた冒険者ではあった。だが、それでも彼女からみればまだまだ半人前の弟子だった。少なくともイチノを出ていく前のレナにホブゴブリンを数十体も一度に蹴散らせるだけの実力はなかった。


しかし、現実に戻って来たレナはあれほどバルたちを手こずらせたホブゴブリンの大群を一撃で吹き飛ばした。その事実にバルは信じられず、レナによく似た別の誰かではと錯覚してしまう。だが、顔を見てすぐにバルは彼が本物のレナだと悟る。



「師匠……久しぶりです」

「レナ、なのか?本当に……」

「はい、戻ってきました」

「ば、馬鹿野郎……なんで戻って来たんだい!!」



戻って来たレナに対してバルは一瞬だけ喜色を浮かべるが、すぐに冷静になって怒鳴りつける。ゴイルにここへ来ないように伝言を頼んだにも関わらず、戻って来たレナに対してバルは怒鳴りつけた。


だが、正直に言えばバル自身もレナがこの地に戻ってくる事は薄々と予想していた。家族を殺したゴブリン達から村を取り返すために冒険者を目指し、そして家族を襲ったゴブリンが今度はイチノに攻め寄せたと聞いたらレナが戻ってくる事は分かり切っていた。それでもまさかこんな早くに辿り着くとは思いもしなかったのだ。



「あんた、いったいどうやって……いや、それよりもなんて時に戻って来たんだい。こんな状況で来るなんて……」

「……見捨てる事なんて出来ませんから」

「ああ、そうだろうね……あんたならそういうと思ったよ。だけど、周りを見て見な」

『グギィイイッ……!!』



仲間を吹き飛ばされたホブゴブリンの大群が血走った目でレナ達を睨みつけ、先ほどの攻撃で数十体は吹き飛ばしたと言っても、相手は1000を超える軍勢である。レナが成長して強くなった事はバルも認めざるを得ないが、彼一人だけで戦況が覆るはずがない。



「レナ、あんたどうして戻って来たんだい……今、この状況であんたが加わったとしても皆に死ぬことに変わりはないんだよ」

「そうですね、俺一人だけならどうしようもなかったかもしれない……だけど、今の俺には仲間が居ます」

「仲間だって?そんなの何処に……まさか!?」



レナの言葉を聞いてバルは先ほどの上空の光景を思い出し、驚いて上空を見上げると、そこには数台の馬車が浮上していた。正確に言えば3体の天馬と1体の飛竜に繋がった馬車が存在し、その内の3体の馬車は北、西、東の方向へと向かう。


最後の飛竜が繋がった馬車は城壁の方角へ移動を行うと、そのまま降り立つ。唐突に現れた飛竜と馬車に城壁の兵士と冒険者は驚くが、その間にもレナはバルの元へ近づく。



「師匠、失礼します」

「はっ?あんた何を……うわっ!?」



傷だらけのバルの身体をレナは両手で持ち上げると、そのまま彼女をお姫様抱っこの体勢で抱えて城壁の方向へ駆け出す。闘拳や防具を合わせると体重が80キロ近い自分を軽々と抱えたレナにバルは驚くが、更にレナは勢いよく駆け出すと城壁へ目掛けて飛び上がる。


ブーツに付与させた魔力を開放してレナは衝撃波を発生させて飛び上がると、そのままバルを抱えた状態で跳躍し、城壁の上に移動を行う。着地の際は付与魔法を瞬時にブーツに再び発動させ、重力を操作して着地の衝撃を抑える。



「おっとと……大丈夫ですか?」

「あ、あんた……こんな事も出来るようになったのかい!?」

「はい、あれから俺も成長しましたから」



バルはイチノに滞在していた時よりも巧みに付与魔法を扱いこなせるようになったレナに戸惑い、先ほども金属板に乗り込んで空を飛んでいた事を思い出す。


自分の弟子の成長ぶりに驚かされる一方、飛竜が運んできた馬車から続々と少年と少女達が姿を現す。



「ふぅ~っ……やっと着いたのか!!」

「ここがレナ君とダリルさんの故郷なんだ……」

「くうっ……流石に4日近くも馬車の中で座りっぱなしなのはきつかったな」

「暑苦しかった」

「ですが、まだ街は陥落していませんわ!!どうやら間に合ったようですわね!!」

「うん、本当に良かった……」

「な、何なんだあんたらはっ!?」



唐突に空から現れた飛竜、その飛竜が運んできた馬車から現れた子供達に対して兵士と冒険者は警戒するが、そんな彼の前にバルを下ろしたレナが前に出て説明を行う。



「皆さん、落ち着いて聞いてください!!俺達は王都から派遣された援軍です!!王都に所属する黄金級冒険者3名も同行しています!!」

「援軍だと!?」

「黄金級冒険者だって!?」

「おい、待て……思い出した!!お前、レナか!?戻ってきてくれたんだな!!」



レナの言葉を聞いて兵士達は遂に待ちわびていた援軍が到着し、しかもそれを証明したのがこの街の冒険者であったレナだと知って冒険者達は沸き返った。

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