第391話 行ってきます

「もっと時間があればお前の装備の完全な強化も出来たんだがな……」

「だが、今ある物の中から用意した俺達の最高傑作だ!!そいつなら赤毛熊だろうと破る事は出来ねえはずだ!!」

「ありがとうございます……うん、サイズもぴったりです」



レナは退魔のローブを身に着けると非情に軽く、見かけ以上に動きやすかった。ホルスターを装着していつものミスリル製の弾丸と魔石弾と魔銃を装着する。


闘拳と籠手を両腕に身に着けると、ブーツの紐をしっかりと締めた後に最後にスケボを背中に抱える。準備を完全に整えると、レナはムクチとゴイルに頭を下げた。



「じゃあ、行ってきます」

「おう!!必ず戻って来いよ!!」

「……生きて帰って来い」

「はい!!」



ムクチとゴイルの言葉にレナは頷き、工房を後にすると既に玄関の前には使用人や傭兵が集まっていた。彼等の多くもイチノの街の出身者のため、出発する前にレナの見送りに訪れたのだろう。



「レナ、頑張れよ……力になれない俺達を許してくれ」

「頼む、街を救ってくれ!!」

「必ず戻って来いよ!!ダリルさんも一緒にな!!」

「これはお弁当です、どうか道中で食べてください!!」

「うん、必ずイチノを救ってくるよ」



レナの言葉に使用人や傭兵は安心した表情を浮かべ、普通ならばこんな年端も行かない少年の言葉だけでは落ち着くはずがないだろう。しかし、今のレナは力の無い子供ではなく、王都の人々から噂にされるほどの立派な冒険者として成長していた。そんな彼の言葉ならば使用人も傭兵たちも信用する事が出来る。


全員に見送られてレナは玄関を出ると、そこには既にダリルが待ち構え、コネコ達も存在した。彼女達は不安そうな表情を浮かべ、共に馬車の前で待機していた。



「兄ちゃん……もう行くのか?」

「うん……後の事は頼んだよ、コネコ」

「そんな寂しい事言うなよ……どうしてもあたしも一緒に行くのは駄目なのか?」

「我儘を言うなコネコ……レナだってお前等を置いていきたいわけじゃないんだ。だが、移動する人数が限られている以上は仕方ないだろう」

「くっ……せめて私の魔法が完成していたら御同行出来たのかも知れませんのに」



一応は交渉の際、レナは他の仲間達を共に連れてイチノの街へ向かう事は出来ないのかをルイに相談した。だが、結果としては彼の提案は断られ、ホブゴブリンの軍勢と戦う以上は連れて行く戦力は厳選しなければならない。


現在の金色の隼が出せる天馬の数は「3匹」そして馬車に浮揚石を装着して移動するとしても、馬車1台に乗れる人数は荷物を考慮しても「5名」が限界だった。つまり、今回の遠征で動かせる人数はせいぜい「15名」だけである。


その15名の内にレナとダリルが入り、更に今回の遠征に赴く黄金級冒険者は「イルミナ」「カツ」そして「ダンゾウ」である。ダンゾウは巨人族の大男のため、彼等が同じ馬車に乗り込むとしたら馬車1台分は占拠してしまう。つまり、実質的にイチノに向かうのは「13名」だけである。



「一応はマドウ大魔導士の取り計らいで、王城の方からも腕利きの魔術師が8人も同行する手筈になってるんだ。大群を相手にするときは戦闘職の人間よりも高火力の魔法が扱える魔術師が重宝するからな。王都が大変な時に貴重な魔術師を8人も寄越してくれたマドウ大魔導士には感謝しないとな……」

「それならどうしてドリス姉ちゃんは駄目なんだよ!?ドリス姉ちゃんだって凄い魔術師だろ!!」

「私も抗議したい所ですが、生憎と年齢が若すぎるという理由でハブられましたわ……それに実戦経験が少ないというのも理由の一つでしょうね」

「くそうっ……友達の故郷が大変な時に僕達は王都で待つ事しか出来ないのか!!」



デブリはレナの助けにならない自分に対して怒りを抱き、地面にめり込む程に強烈な足踏みを行う。他の者達もレナと共に同行できない事に歯痒い思いを抱き、他に方法はないのかと考えるが既に時刻は迫っていた。



「よし、そろそろ時間だな……行くぞ、レナ」

「うん……皆、見送りはここまででいいよ。じゃあ、行ってくるね」

「あ、兄ちゃん……」

「大丈夫だよ。コネコ、留守は任せたよ」

「っ……ああ、分かったよ。絶対に戻って来いよ、絶対に……待ってるからな!!」



コネコはレナの一言に目元を潤ませるが、最後にレナが行く前に力強く抱き付いてきた。そんなコネコの行動にレナは驚くが、すぐに彼女を抱き返してやると、やがて二人離れる。


レナから離れるとコネコは顔を隠すようにデブリの後ろに隠れてしまう。他の者達もレナとコネコのやり取りを見つめ、力になれない自分達の無力さを嫌というほど痛感させられる。そんな仲間達に対してレナはこれで最後の別れになるかもしれないと思いながらも告げた。



「じゃあ、行ってくるよ。またね、皆」

「レナ……!!」

「ええ、また必ず会いましょう」

「絶対ですわ……約束ですわよ!!必ず生きて戻ってくださいましっ!!」

「……ご武運を」

「…………」



馬車にレナが乗り込む姿をコネコ達は見送り、そのまま後を追いかける事が出来ず、馬車が消え去るまで立ち尽くす事しか出来なかった。

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