第390話 三度目の勧誘

「我々の最後の条件は……金色の隼にレナ君を加入させたい」

「えっ!?」

「イルミナが君の事を大層に気に入ったようでね。対抗戦で見せた君の魔法は非情に興味深い、だからうちとしてはどうしても君が欲しいんだ。君じゃないと」

「団長、その言い方は少々誤解を招きます……」



ルイの言葉にイルミナは頬を若干赤く染めるが、彼女も反対はしない。イルミナとしては対抗戦で目撃したレナの付与魔法を見て色々と思うところがあるらしく、ルイとしてもレナの事は前々から気になっていたので勧誘を行う。


これまでにも何度かレナは勧誘されていたが、イチノの件があったので勧誘は断っていた。しかし、今回の一件でレナの村を襲ったゴブリン達を一掃した場合、もうレナが故郷にこだわる必要はなくなる。



「最も、今回の条件は別に無理に引き受けてもらうつもりはないよ。こちらとしても無理強いは不本意だからね、故郷を救う代わりに組織に加入しろとは言わない。だが、こちらとしてもレナ君に加入して欲しいのは本当の話だ」

『優秀な魔術師はいくらいても損はないからな。というか、うちの組織は団長と副団長しか魔術師がいないからな』

「勿論、今すぐに加入してほしいというわけではありません。魔法学園の卒業後でも構いませんし、当然ながら在学中に加入して貰っても問題ありません」

「お、おい……レナ、お前どうするんだ?この際、引き受けたらどうだ?あの金色の隼に入れるんだぞ!?」

「う~ん……」



レナは最後の条件に対して思い悩み、今回の勧誘はルイとイルミナも本気らしく、状況的にも断りにくい雰囲気ではあった。



(金色の隼か……冒険者の最高階級の黄金級冒険者で構成された組織、確かに普通の冒険者なら憧れの存在だろうな)



レナが冒険者になった理由は魔物に奪われた村を取り返すため、強くなるために冒険者を目指し、実際に冒険者になったお陰で強くなれたという自覚はあった。しかし、レナが冒険者を志したのはあくまでも強くなるためであり、階級に拘ったり他の人間に一目置かれたいという気持ちで冒険者になったわけではない。


それでも一度でも黄金級冒険者になりたいとは思わなかったわけではなく、階級が昇格する事にレナは自分の強さが周囲に認められていると実感していた。あくまでもレナの目的は強くなるためである事は事実だが、その過程で他の人間に認めらていくのは気分が良かった。


自分が付与魔術師だからといって見下してきた人間達に対し、功績を立てる事で徐々に認められ、やがて称賛される立場になった時は素直に嬉しかった。魔法学園の生徒達でさえも対抗戦が行われる前はレナの事を見下す人間もいたが、今ではレナの事を馬鹿にする人間はおらず、逆に他の生徒から羨まわれる立場になっていた。


人から認められる度にレナは今までの強くなる努力が報われるような気分に陥り、自分が決して出来損ないではない事を証明しているようで気分が良かった。そして黄金級冒険者で構成された組織に勧誘されるまでに至った事に嬉しく思わないわけがない。



(金色の隼に入れば冒険者として大成するかもしれない。それに王都に残る事が出来る……そうなったら皆と別れなくて済むかもしれない)



レナ以外の仲間達も金色の隼から直々に勧誘を受け取えり、中には卒業後に加入する事を承諾した物もいる。


金色の隼にレナも入ればこれからも仲間と共に行動する事が出来るかもしれない。しかし、それでもレナが金色の隼への加入に踏み込めないのはイチノの件だった。



(でも、今はイチノを救い出す事に集中しよう……まずは奴等から皆を救い出す。そして……じーじとばーばの村を取り返すんだ)



これまでレナが強くなる事を求めてきた理由は魔物から奪われた自分の故郷を取り戻すためだった。そしてもうすぐ、自分の悲願が果たされるかもしれないという現実にレナは告げる。



「……最後の条件に関しては依頼が終ったあとに返事してもいいですか?」

「ふむ……今は答えられないと?」

「はい、だけど全てが終れば答えられると思います」

「そうか……分かった。ならこれで交渉は成立だね」



ルイはレナの言葉に重みを感じ取り、ここで無理に返事を聞くのは得策ではないと判断すると、あっさりと交渉を終える。そしてダリルとレナと握手を交わすと、今回の依頼の細かな点を話し合う――






――交渉の結果、出発は本日の夕方だと決定するとルイ達は引き返し、レナ達は準備を整える。数日分の着替えと食料を用意した後、レナは装備を整える。持っていくのは闘拳、籠手、ブーツ、魔銃(魔石弾数発)、最後にスケボを用意した。


防具に関しては残念ながら鎖帷子の修復は間に合わず、今回は防具無しで出発する事になるかと思われたが、ムクチとゴイルに工房に呼び出されたレナは二人から新しい防具と道具を受け取った。



「ほら、これを持っていけ!!」

「これは……」

「退魔のローブという様々な魔獣の毛皮で構成されたローブだ。布よりも軽いが衝撃には強くて頑丈に出来ている。こいつさえ身に着けていれば鎖帷子の代わりに身を守る事が出来るだろう」

「へへへっ……手土産無しで訪れるのも何だと思ってな、途中で行きつく街で素材を買って今日作り上げたんだ。遠慮なく受取りやがれ!!」



レナは二人から渡された退魔のローブを見て驚く一方、二人が自分のために時間がない中で必死に作り上げた代物だと知って感謝する。

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