第384話 イルミナとの交渉その2

「お願いします、イチノは俺とこの子の故郷でもあるんです!!どうか、金色の隼の御力をお貸しください!!」

「……仕事の内容を確認させていただきます。まず第一に我々が保有する天馬を利用し、イチノ地方まで移動を行う。その後にイチノを襲撃するホブゴブリンの軍勢の撃退、それが今回の依頼内容で間違いありませんか?」

「はい、そういう事になります」

「正直に申し上げますと……今回の依頼はお受けいたしかねます。現在の我々だけでは対処が難しいのです」

「ど、どういう事ですか?」



イルミナの言葉にダリルは顔を上げると、彼女は難しそうな表情を浮かべて腕を組み、まずは現在の金色の隼の状況を語る。



「現在、ヒトノ国に滞在する全ての冒険者には待機命令が冒険者ギルドから下されています。火竜の件はまだ一部の人間にしか伝わっていませんが、仮に火竜が王都を襲撃した際に戦力になり得るのは軍隊ではなく冒険者であるからです。我々は魔物の討伐に関してはヒトノ国の軍隊よりも功績を上げていますので、ヒトノ国側としても火竜襲来のための対抗戦力を避けたくはないのでしょう」

「そ、そんな……」

「他にも理由があります。それは天馬を利用すれば確かに短期間でイチノ地方まで辿り着けるでしょう。しかし、その後にホブゴブリンの軍勢と交戦するには我々も相応の戦力を用意しなければなりません。千を超える魔物の軍勢を相手にするとなると、黄金級冒険者だとしても相当数用意する必要があります。そうなった場合、王都の戦力が激減します。それをヒトノ国側が承知するかどうか……」

「うっ……」

「最後に報酬の問題です。先ほど、ダリル様は金貨500枚と土地の権利書を用意してくれましたが、今回の規模の依頼となるとやはりその倍の額は用意して貰えないと納得できません。単体の魔物ならばともかく、相手が軍勢と称する程の数の魔物を対応するとなれば黄金級冒険者といえども命懸けになります。それを考慮すれば最低でも金貨1000枚、それが依頼を引き受けるための最低条件です」

「き、金貨1000枚!?」



イルミナの言葉にダリルは愕然とした表情を浮かべ、レナも悔し気な表情を抱く。だが、イルミナの方も最大限に譲歩しており、彼女はこの3つの条件を解決しない限りは引き受けない事を告げた。


無論、イチノの危機はイルミナも理解したが、現在の王都も火竜という脅威に晒されている事も事実のため、ヒトノ国としても冒険者の中では最大戦力を誇る金色の隼が離れる事を簡単には認めないだろう。



「申し訳ありませんが今回の依頼は私の判断としては引き受ける事は出来ません。ですが、火竜の一件が解決すればヒトノ国側もすぐに動く事でしょう。それまでの間はお気持は分かりますが、耐えてくださいとしか言いようがありません」

「耐えろと言われたって……自分の故郷が危機に晒されているのに」

「……お気持ちは察します。ですが、黄金級冒険者といっても決して万能ではないのです」



レナの呟きにイルミナは視線を逸らして暗に仕事は引き受けられない事を告げると、今まで黙っていたコネコが小包みを取り出し、机の上に置く。


コネコの行為に驚いたのはイルミナだけではなく、レナとダリルも彼女が持ち出してきた小包を疑問を抱く。先ほどは中身を確かめる暇もなかったため、コネコが何を持ち出してきたのか分からない。



「ちょっと待てよ、姉ちゃん。さっき報酬が金貨1000枚なら引き受けるといったよな?」

「え?ええ、まあ……それだけの金額がご用意出来ればこちらも再考しますが」

「お、おいコネコ?」

「どうしたの急に……」

「へへへっ……それなら、こいつならどうだ!?」



イルミナの言葉を聞いてコネコは笑みを浮かべると、彼女は小包みの中身を開く。そして中から美しい赤色に光り輝く宝石が姿を現した。それを見たレナ達は目を見開き、イルミナに至っては信じられない表情を浮かべて立ち上がる。



「こ、これは!?」

「な、何でこれがここにあるんだ!?」

「コネコ!?どういう事!?」

「へへへっ……これがあたしの出せる報酬だ!!」




――机の上に出現したのは「ヒヒイロカネ」で構成されたネックレスであり、約一か月前に行われた競売で金貨数百枚の値が付けられ、世界でも一つしか存在しないネックレスを用意したコネコに全員が驚愕した。




ヒヒイロカネのネックレスは競売が中止された後に紛失し、更に競売の開催者であるはずのゴマン伯爵が盗賊ギルドと繋がっていた疑惑が発覚した。ヒトノ国側は彼が盗賊ギルドと手を組んで競売を開いたという確信を抱き、彼を捕縛しようとしたが競売の日に彼は姿を消してしまう。


消えてしまったヒヒイロカネのネックレスは盗賊ギルドの人間に奪われたと考えられていたが、実はこっそりとコネコが事件の後に回収していたのである。彼女は誇らしげな表情を浮かべ、イルミナにネックレスを見せつける。



「これ、確か凄い値打ち物だろ?なら、今回の報酬にこいつを加えたら金貨1000枚ぐらいの価値はあるんじゃないのか?」

「そ、それはそうかもしれませんが……しかし、これは貴女の物ではないでしょう?」

「そ、そうだぞコネコ!!お前、なんて事を……や、やばい!!すぐに王城へ出頭するぞ!!」

「大丈夫だって、こいつは正真正銘あたし達の物だからさ」



ヒヒイロカネのネックレスを盗み出したコネコにダリルは頭を抱えてしまうが、何故かコネコは自信あり気な表情を浮かべてネックレスを手に入れた経緯を話す。

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