第383話 イルミナとの交渉

「……あの、実は王城へ立ち寄った時にアルト王子からだいたいの事情は聞いてるんです。竜騎士隊が帰還した理由も、火竜がヒトノ国の領地内に侵入した痕跡が発見された事も知っています」

「それは……本当ですか?」



レナの言葉にイルミナは愕然とした表情を浮かべ、彼女はしばらくの間は黙り込むと、やがて意を決した表情を浮かべて頭を下げる。



「……申し訳ありません。事態が事態なので一般の方には情報を伏せておくべきかと思っていましたが、そこまで事情を知っているのならば隠し事は無意味のようですね。確かにその情報は事実です、先ほど団長から連絡が来て私達も大方の事情は把握しています」

「何だよ、やっぱり知ってたのか」

「不快に思われたのでしたら謝ります。本当にすいませんでした」

「そんな!!別に頭を下げるような事じゃないですよ!!状況が状況なんだから仕方ありませんって!!」



頭を下げようとするイルミナに対して慌ててダリルが取り繕うと、彼女はレナに視線を向けて改めてアルトとの関係を尋ねた。



「しかし、そこまで情報を知っているという事はレナ様はアルト王子とそれほど親密な関係なのでしょうか?今回の事態は情報規制が施され、一般の方への発表はまだ控えられているはずですが……」

「いえ、その……アルト君と特別に仲が良いというわけでもないんですけど、マドウさんやサブ魔導士から色々と話を聞きました」

「大魔導士とサブ魔導士から……なるほど、そういえば御二人はレナ様の事を気にかけていましたね」



マドウとサブの名前も出すとイルミナは納得した表情を浮かべ、この二人がレナという存在と接点を持っている事は彼女も知っていた。しかし、一般人には情報を規制されている内容までレナが知らされている事に、彼女は自分の予想以上にレナが二人と特別な関係を築いているのではないかと考える。


レナの「魔術師」としての実力は先日の競売の一件や対抗戦にて彼女も拝見しており、彼の年齢の若さを考慮しても将来的には黄金級冒険者へ昇格を果たしてもおかしくない人材だと考えていた。出来る事ならば金色の隼への加入を勧めたいところだが、本日は「客」として訪れたのならば勧誘は後回しにした。



「それでは本日はどのようなご用件で我が組織へお尋ねになったのでしょうか?」

「それは……」

「待て、レナ。ここは俺が話をする」



ダリルはレナを抑えると、彼は集めた金貨を詰めた木箱を机の上に乗せ、更に自分の屋敷の権利書を机の上に差し出す。それらを見てイルミナは驚いた表情を浮かべたが、ダリルはそんな彼女に対して訪れた目的を告げる。



「金色の隼さんに依頼を頼みたい。報酬は金貨500枚、それと俺の持つ屋敷の権利書も付けます」

「……先に仕事の内容を尋ねてもよろしいですか?」



大金と権利書を差しだされたにも関わらずにイルミナは取り乱す様子もなく、むしろ逆に冷静になったかのように眼鏡を整えて話を聞く。その反応を予測していたようにダリルは頷き、事の顛末から話し始めた――






――それから数分後、ヒトノ国の辺境地方のイチノと呼ばれる街が現在は「ホブゴブリン」の軍勢によって襲われている事、本来は対処するべきはずのヒトノ国が火竜の件で王都の軍勢を動かせない事を話す。


イチノ地方で魔物の軍勢が暴れているという話は金色の隼の方にも耳を届いており、彼らは冒険者ギルドを独自の情報網を持っていた。イルミナによると既に王都以外の街でも辺境地方で魔物の大群が出現したという噂が流れている事を知っていた。



「なるほど……つまり、我々にそのホブゴブリンの軍勢の撃退を依頼したいという事ですね?」

「より正確に言えば貴方達が所持しているという天馬を使って、イチノまで早急に移動して街を救ってほしい……その前に聞きたいんですが、本当に金色の隼さんの所ではあの天馬(ペガサス)を飼育してるんですか?」

「ええ、それは事実です。我々は遠征を行う時、この天馬を利用しています」

「凄い!!本当に空を飛ぶ馬なんているのか!?おとぎ話に出てくる翼が生えた白馬みたいな奴だろ!?」

「はい、その認識で間違っていません。天馬は魔獣種ではありますが、数少ない人間に友好的な魔獣です。それに力も強く、戦闘でも活躍してくれるので我々としても心強い騎獣として大切に育てています」

「あの……じゃあ、もしもその天馬を使って移動した場合はイチノまでどれほどの時間で辿り着く事が出来ますか?」

「そうですね……正確な日数は私も計りかねますが、天馬の移動速度は竜騎士隊の飛竜にも劣りません。それに夜間の間ならば月の光を浴びて彼らは力を増します。恐らくは4日以内には辿り着くでしょう」

「そんなに早いのか!?」



天馬の移動速度を聞いてコネコは驚愕の声を上げ、一方でレナは希望を見出す。それだけの期日ならば街が陥落する前にイチノへ辿り着ける可能性もあり、彼はダリルに振り向いて頷く。

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