第385話 コネコがネックレスを手に入れた経緯

「実はさ、これ手に入れた後に兄ちゃんに絡んできた「シデ」とかいう奴の所にいったんだよ」

「シデ?それってゴマン伯爵の息子のシデ君の事?」

「そうそう、前に兄ちゃんがゴマン伯爵に連れ去られた事があっただろ?それで競売が終わった次の日にネックレスを返しに行ったんだよ」

「あ、そうだったんだ」



コネコによるとヒヒイロカネのネックレスを回収した後、彼女はゴマン伯爵の元へ訪れてネックレスを返そうとしたらしい。しかし、既に屋敷の方にはゴマン伯爵は存在せず、引きこもっていた息子の方が対応したという。


彼女が訪れた時にはゴマン伯爵が失踪した事もあり、競売が失敗に終わったせいで屋敷には鉄貨1枚も入ってこず、使用人を雇う金もなかったのでシデが一人だけだった。ちなみに例の私兵達は先日のレナ達の件で解雇を言い渡されていた。



「いくら声を掛けても屋敷の奴等が現れないからさ、面倒に思ったあたしは屋敷の中に入ろうとした時、扉から出てくるシデとかいう奴を見つけたんだよ」



彼女がネックレスを返しに赴いた日、最初はコネコを見てシデは訝しげな表情を浮かべるが、彼女が事情を説明してヒヒイロカネのネックレスを返しに来た事を伝えると、彼は血相を変えて怒鳴りつけたという。



「あたしがネックレスを返しに来た事を言ったら、急にシデの奴が怒りだしてさ。そんなネックレスなんかいらない、欲しければくれてやるといって聞かなかったんだよ」

「えっ!?どうしてだよ!?」

「なんか、あたしもよく覚えてはいないけど……シデの奴がそんなネックレスがあるから父上がおかしくなったんだ、とか言ってた気がする」

「ああ、なるほど……そういう事か」



シデからすれば自分の家の家宝ではあるが、状況的に考えればヒヒイロカネのネックレスを父親が所持していたせいで競売を開催する切っ掛けとなり、最終的には父親が犯罪者として指名手配されてしまった事になる。いくら家宝とはいえ、このネックレスのせいでゴマン伯爵は盗賊ギルドに目を付けられ、無理やりに競売を開催者に仕立て上げられたと言える。


正確に問題があるとはいえ、シデも父親の事は慕っていたのは事実らしく、大切な父親が姿を消した要因となったネックレスなど彼にとっては忌々しい代物だった。ゴマンが消えた以上はネックレスの所有権は彼の息子であるシデに移行するのだが、そのシデがネックレスの所有権を放棄すればもうネックレスは誰の物でもない。



「結局、ネックレスはいらないと言い張るからあたしが貰ってもいいのかと聞いたら、そんな物くれてやるよ!!と言ったから貰ったんだよ。ほら、ちゃんとネックレスの所有者の権利書もあるぞ?」

「み、見せてください!!」



コネコがネックレスの所有者のみが所持する権利書を差し出すと、イルミナは動揺した様子で権利書を確認し、確かに所有者の項目がコネコに書き換えられている事を知る。いくら父親の件で気が動転していたとはいえ、シデがネックレスを見知らぬ少女に渡していた事に誰もがどのように反応すればいいのか分からずに戸惑う。



「な?だからこのネックレスは正真正銘あたしの物だよ。嘘だと思うなら今からシデの奴の所に行って確認して来いよ」

「い、いえ……権利書がある以上、疑いの余地はありません」

「コネコ……お前、本当は凄い奴だったんだな」

「よくやったコネコ!!偉いぞ!!」

「うわっ!?こ、こんな所で抱きつくなよ兄ちゃん……えへへっ」



あまりの嬉しさにレナはコネコを抱きしめて頭を撫でまわし、少し恥ずかしがりながらも彼女はくすぐったそうな表情を浮かべた。だが、イルミナの方は難しい表情を浮かべ、何度も机の上に置かれたヒヒイロカネのネックレスに視線を向ける。


競売の際に金色の隼は「オリハルコン」と「ヒヒイロカネ」を入手するために金貨を1000枚以上も用意していた事はレナ達も知っており、彼らがこの二つを喉から手が出る程に欲していた事は知っていた。これで交渉の優位性はレナ達に移り、イルミナにわざとらしくコネコはネックレスを見せつけた。



「あ~あ、どうしようかなこれ?あたしがこんなの持ってても使いみちないしな……そうだ、ムクチのおっちゃんに頼んで何か別の物に改造してもらおうかな!!あたし、丁度髪飾りとか欲しかったんだよな~」

「うっ……」

「でも、そこの姉ちゃんがどうしても欲しいというのならやってもいいんだけどな~……どうしようかな?」



指先でネックレスをくるくると振り回すコネコにイルミナは咄嗟に腕を伸ばすが、彼女がネックレスに触れる寸前でコネコは回転させるのを止める。そんな彼女の態度にイルミナはご馳走を前にした子犬のような表情を浮かべ、搾り出すように言葉を告げる。



「……だ、団長のルイと相談させて下さい。私の方から、出来る限り今回の依頼の件はお引き受けなさるように勧めて見ます」

「よっしゃあっ!!」



イルミナの言葉にコネコは歓喜の声を上げ、レナとダリルも今回ばかりはコネコの行動を誉めざるを得ず、二人はコネコとハイタッチを行う――

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