第382話 歓迎

「そのメダル……どうしてお前の様な子供が、持っている?」

「あ、これは……」

「そのメダルは、金色の隼の関係者しか渡されない物だ。いったい、何処で手に入れた?」

「何だこのおっさん……ちょっと変な話し方してるな」

「馬鹿!!そういう事は心の中でも思っても口にしちゃいけないんだよ……!!」

「聞こえているぞ」



レナが金色の隼のメダルを所有している事に巨人族の男は疑問を抱き、見覚えのない子供がメダルを持ち込んできた事に不思議に思う。


その一方で巨人族の男の話し方にコネコが違和感を抱き、その反応を見た男は頭を掻きながら謝罪する。



「俺の話し方が、変なのが気になるか。すまない。人間の言葉はどうも不慣れでな」

「話せない?どういう意味だよ、巨人族も人間も同じ言語だろ?前に授業でそう習ったぞ」

「色々と事情があって、俺は小さい頃は魔物に育てられていた。だから、人間の言葉は上手く話せない」

「魔物に育てられた!?それってどういう意味なんだよ?なあなあ、教えてくれよ!!」

「あ、こら!!コネコ、落ち着け!!」



巨人族の男性の言葉にコネコは強い興味を抱き、彼の足元に駆けつけて輝いた目を向けてくる。そんなコネコをレナが後ろから抱えて抑えつけると、巨人族の男は特に気分を害した風もなく腕を組む。


どうやら外見とは裏腹に穏やかな性格をしているのか、コネコの態度に巨人族の男性は特に怒る様子もなく、むしろ気に入ったかの様に扉を開いて中に3人を中に通す。



「変わった、子供だ。俺が怖くないのか?」

「怖い?何でだよ、別に巨人族なんてそんな珍しくもないからな。うちの孤児院にも3人ぐらいいたぞ」

「そうなのか……ふふ、面白い子供だ。まずは、中に入れ。立ち話もなんだ、中で話を聞こう――」









――その後、レナ達は巨人族の男性に案内されるままに中に通されると、すぐに建物中に居た他の人間が駆けつける。その中にはレナの見知った顔も存在し、昼間の決闘でも世話になったイルミナが現れた。



「ゴンゾウ、これは何の騒ぎ……そこにいるのはレナ様ですか?」

「あ、どうも……」

「よう、姉ちゃん」

「ははっ……ど、どうも。俺の事なんて覚えてませんよね」

「いえ、大丈夫ですよ。コネコ様にダリル様ですね」

「副団長、彼らは知り合いか?」



イルミナが出迎えると彼女から「ゴンゾウ」と呼ばれた巨人族の男性は振り返り、不思議そうな表情を浮かべる。イルミナは彼を見て特に怯えもせずに頷き、後は自分に任せるように伝えた。



「この人達は私の知人です、貴方は待機していなさい」

「分かった」

「じゃあな、おっさん。次に会ったらあんたの話を聞かせてくれよ~」

「ふっ……おっさんというな、これでも俺は18だぞ」

『えっ!?』



最後に驚愕の言葉を残して立ち去ったゴンゾウにレナ達は唖然とするが、どう見ても18才には見えない。だが、イルミナの方は特に驚いた様子もなく用件を尋ねる。



「それで本日はどのようなご用件でしょうか?」

「え!?あ、えっとですね……その、ちょっと話があるんですが」

「……その前に場所を移動しましょうか」



ダリルはイルミナに話しかけられて慌てふためき、そんな彼を見てイルミナは客室まで案内を行う――






――金色の隼が拠点としている建物は元々はとある貴族の屋敷だったらしく、現在は大幅な改装を施されたが貴族が暮らしていた時の装飾品などは残っていた。レナ達が案内された客室にも壁には絵画が飾られ、その中には巨大な竜と挑む剣士の絵も存在した。



「この絵は……」

「ああ、それは冒険者という職業の礎を築いたと言われる剣神の絵です。かつて全人類が魔物に苦しめられていた時代、異界から訪れた一人の剣士がたった一人で国を亡ぼす竜に挑んだ姿です」

「へえ、それってもしかして勇者の事か?」

「ええ、この絵の人物は初めてこの世界に召喚された勇者様の一人です。彼が後に冒険者と呼ばれる職業を作り出し、冒険者ギルドを生み出したと言われています」

「剣神か……あの、重力の勇者の絵はありますか?」

「重力、ですか?いえ、残念ながら私の知る限りではありませんね」

「あ、そうですか……」



自分が一番好きだった勇者の絵がない事にレナは落胆するが、今はそんな事よりも話を進める方が先であり、まずはアルトから受け取ったメダルをイルミナに手渡す。



「これをアルト君……いや、アルト王子から受け取っています。これを見せれば話を聞いてくれると伺っていますが」

「これは……!?確かに我が組織(クラン)で発行しているメダルです。このメダルを所持する人間は組織に所属する黄金級冒険者か、お得意様にしか渡していません。なるほど、話を伺いましょう」



メダルが本物である事を確かめるとイルミナの表情が一変し、真剣な顔でレナ達に椅子に座るように促す。机を挟んで彼女と対面する事になったレナとコネコはダリルに視線を向けると、交渉は彼に任せる。


ダリルは緊張しながらも頭の中で立てていた交渉の段取りを思い返し、まずは交渉を切り出す前に尋ねておきたいことがあった。



「ま、まずは今回訪れた目的を話す前に……一つ聞きたい事があるんですが、団長のルイさんはいますか?」

「申し訳ありませんが団長のルイは現在は王城にて呼び出しされています。先ほど、竜騎士隊が帰還した件に関わるようですが、詳細は私達も知りません」



イルミナの言葉にレナは直感で彼女が嘘を吐いていると思い、火竜がヒトノ国の領地内に侵入した痕跡が発見された件は数時間前に城内の人間に知られているはずである。


ルイが王城へ呼び出しを受けているとすればこれほどの重大な内容を副団長の彼女に伝えないはずがない。仮にルイが王城から戻っていない事が事実だとしてもこれほどの重要な情報を副団長の彼女に知らせないはずがなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る