第381話 コネコのとっておき

「ぬぐぐっ……よし、決めた!!こうなったら俺も覚悟を決めるぞ!!金貨400枚だ!!」

「400……枚?」

「おっちゃん、そんなに払えるのかよ!?」

「ああ、問題ない!!こうなったら俺も破産覚悟だ!!こうなったら何もかも売り払ってでも金を作ってやる!!へそくりでも土地の権利書でも全部売る!!あの街は俺の故郷でもあるんだ!!」



覚悟を決めたダリルは急ぎ足で駆け出すと、自室の金庫から大量の金貨のこの屋敷の権利書も用意すると、机の上に置く。これで金貨は合計で500枚近くは集まり、日本円で換算にすると5億円の価値はあった。


これだけの値段があれば金色の隼を雇う事は出来るかもしれないが、それでも不安は残る。何しろ今回の作戦は完全に金色の隼の戦力に依存しており、もしも彼らが断ればレナ達に打つ手はなくなってしまう。だからこそ彼らが仕事を断れないような手を用意する必要があった。



「これだけの金額を用意すれば大丈夫だとは思うが……」

「ですけど、相手は超一流の冒険者ですわ。もしもあの方たちが仕事の報酬よりも、危険性を重視して断られる場合も有り得ますわ」

「え!?金貨500枚でも足りないのか!?」

「いえ、この場合は金額の問題ではなく、わざわざ危険を犯して仕事を行うのを拒否する可能性もあるという事です。そもそも金色の隼は黄金級冒険者が作り上げた組織、彼ら一人一人がこれまでの仕事で莫大な資産を築いているはずですわ。だから大金を用意したとしても別に彼らはお金に困っているわけではないので断られるかもしれません」

「でも、頼まない事にはどうしようもないよ。それにこっちはアルト君の渡したメダルもある。一か八か、頼んでみよう」

「そうですわね……それしかありませんか」



レナの言葉に全員が頷き、すぐに馬車を用意してアルトが教えてくれた金色の隼の拠点としている「中央街」へと向かう――






――全ての準備を整え、途中でアリス商会の店にも立ち寄った後、馬車に乗って中央街に辿り着いたレナ達は金色の隼が拠点としている建物に辿り着くと、その大きさに驚かされる。なにしろ王都の冒険者ギルドと遜色ない程の立派な建物であり、看板には金色に光り輝く隼が刻まれていた。


時間帯は間もなく夜を明けようとしており、竜騎士隊の一件で目を覚ました街の住民達も流石に家に戻って寝静まっていた。だが、金色の隼の建物には灯りが点いている事を確認したレナ達は緊張した面持ちで馬車を停車させる。



「よ、よし……交渉事なら俺の出番だ。お前らはここにいろよ、後は俺とレナが行く」

「分かりましたわ。お気を付けて行ってくださいまし」

「レナ君、気を付けてね……それと、お父さんを説得できなくてごめんね」

「気にしなくていいってば……ミナは悪くないよ」

「兄ちゃん、あたしも行くぞ」



馬車を降りたダリルとレナは建物の中に入ろうとした時、コネコが引き留める。彼女の言葉にレナ達は驚き、ダリルが慌てて叱りつけた。



「ば、馬鹿!!お前が付いてきてどうするんだ?これから真面目な話をするんだから馬車の中に大人しく戻ってろ!!」

「あたしだってふざけてるわけじゃないって!!いいから一緒に連れて行けよ!!」

「コネコ、急にどうしたの?」

「へへへっ……実はあいつらが欲しがりそうな凄い代物を用意してきたんだ。使い道がなくて今までは隠してたんだけど、これを出せばきっとあいつらも仕事を断れないと思うぞ?」

「欲しがりそうな凄い代物って……何を持ってきたの?」

「いいから早く行こうって、ほらノックしてもしも~し!!」

「ちょ、おい!!何してんだバカコネコ!?」



頑なに同行を求めてくる彼女にレナは戸惑うと、彼女はにやけた顔で背中に抱えていた小包みを取り出す。いったい何を持ち込んできたのかをレナ達が確認する前にコネコは動く。


コネコは堂々と扉の前に立つと激しく叩きつけ、それを見たダリルは慌てて引き留めようとしたが、彼がコネコを止める前に扉が内側から開かれる。そして出迎えたのは身長が4メートルを超える大男だった。



「……何用だ?」

「うおっ!?な、なんだお前!?」



扉から現れたのは「巨人族」と呼ばれる種族の男性であり、筋骨隆々の大男だった。顔面は強面で皮の鎧を身に着け、背中には棍棒を抱えていた。文字通りの「巨漢」の登場にコネコは圧倒されかけるが、すぐに気を取り直したように怒鳴りつける。



「きょ、巨人族か……やい、うちの兄ちゃんがあんたの所の親玉に用があるんだ!!さっさと会わせろよ!!」

「ちょっと!?なんで喧嘩腰なのコネコ!!」

「ああ、すいません!!うちの子が迷惑をかけて……ほら、行くぞ!!」

「待て」



慌ててダリルとレナが駆けつけてコネコを抑えつけると、彼女を馬車へと戻す前に巨人族の男が引き留めた。彼はレナが片手で握り締めるメダルに気付き、どうしてレナがそのメダルを所有しているのかを尋ねた。

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