第379話 金色の隼への依頼
「金色の隼はヒトノ国内でも有名な存在だ。だからこそ遠方の地の人間の依頼を引き受ける際、彼等は天馬を利用して移動を行う。それに彼等は空を飛ぶ馬車さえも所持しているんだ」
「空を飛ぶ馬車?そんな物があるの?」
「属性は判明していないが、彼等は「浮揚石」と呼ばれる希少な魔石を所有している。この魔石を装着した物体はどんな重量の大きい物でも浮き上がらせる事が出来るらしい。何となくだけど、レナ君の魔法と似たような性質を持っていると思わないかい?」
「浮揚石……」
アルトによると金色の隼は遠征する際、天馬を利用しているという。彼らは馬車に浮揚石と呼ばれる魔石を取りつける事で馬車を浮上させ、天馬に引かせて空を駆け抜ける事が出来るという。
この話が事実ならば彼等は空を移動する事が出来るため、竜騎士隊に頼らずともイチノの街へ向かう事が出来るかもしれない。だが、相手は黄金級冒険者にしてヒトノ国とも繋がりを持つ存在であり、戦力面を考えれば今回の火竜の襲来に備えて国側も防衛のために彼等を雇い入れる可能性は高い。
「でも、金色の隼が俺なんかの依頼を引き受けてくれるかな……それに俺が向かう場所はホブゴブリンの軍勢の攻撃を受けてるんだよ?」
「大丈夫だ。彼らはどんな依頼であろうと、それに見合う報酬さえ用意すれば引き受けると聞いている。それに金色の隼は一人一人が一騎当千の強者、彼らならホブゴブリンの軍勢だろうと戦えるだろう」
「どうしてアルト君はそこまで金色の隼を勧めてくれるの?」
「ああ、以前に彼等には世話になった事があるからね」
「世話に……?」
アルトの発言にレナとシノは気にかかったが、それを指摘する前にアルトは自分の懐からメダルを取り出す。隼の紋様が刻まれた黄金のメダルをアルトはレナに託す。
「今は時間がないから彼等と僕の関係を説明する事は出来ないけど、これを持って行ってくれ。それを見せれば必ず彼等に会えるはずだ。メダルの事を尋ねられたら僕から受け取ったと伝えてくれれば必ず話を聞いてくれるはずだよ」
「あ、ありがとうアルト君……でも、どうしてそこまでしてくれるの?」
レナはアルトの申し出はありがたいが、正直に言えば彼とはそれほど親交があったとは言えない。何度か顔を合わせた程度の関係にも関わらず、色々と親身になってくれるアルトにレナは不思議に思うと、彼は言いにくそうな表情を浮かべた。
「気にする事はないさ、君に協力する事は僕にも利がある……とだけ今は言っておくよ」
「利がある?俺に力を貸す事が……?」
「さあ、もう行った方が良い。あ、そうだ……金色の隼が拠点にしているのは中央街だよ」
メダルを渡して金色の隼が拠点としている建物の場所を伝えると、そのままアルトは早足で立ち去る。その様子を見送ったレナはシノと顔を見合わせ、受け取ったメダルを見つめた。
戦力という点では黄金級冒険者集団である金色の隼ならば心強く、それに移動手段も彼らの持つ天馬を利用させて貰えば解決するかもしれない。しかし、最大の問題は彼らを雇うための報酬をレナに用意出来るかだった――
――ダリルの屋敷に戻ったレナは皆に出迎えられ、どうやら全員がジオの屋敷から戻ってきていたらしく、いったい何が起きたのかを尋ねる。レナは王城での出来事を話すと、彼が牢屋に捕まった事を知って全員が驚く。
「あのエロ爺っ!!人の良い顔をしながら兄ちゃんになんて事をすんだ!!」
「いくらレナ君を行かせないために牢屋に閉じ込めるなんて……酷すぎるよ」
「け、けど大丈夫なのか?脱走した事を知られたらまずいんじゃ……」
「そこはマドウさんが何とかしてくれると思う……というより、信じたい」
「兵士の方々が来たとしても私達がレナさんを守りますわ!!だって、何も悪い事してませんもの!!」
「そうだね、レナ君は何も悪くないと思います」
「だが、実際問題これからどうするんだ?マドウさんの助けも……いや、この場合は竜騎士隊の力を借りる事が出来なければイチノに戻る事なんて出来ないぞ」
レナが捕まった事に関してはコネコ達は憤慨し、誰もがレナが悪くない事を信じた。この件に関してはマドウが何とかしてくれることを祈るしかなく、今は他の問題に集中する。
ちなみに父親の元へ向かったミナも戻っていたらしく、彼女は結局は父親と会う事は出来なかったという。父親と会う前に竜騎士隊が王都へ帰還した事で彼女も急いで戻って来たらしいが、結局は会えずじまいだという
「ごめんね、レナ君……僕がお父さんを説得出来ればこんな事にならなかったのに」
「ミナのせいじゃないよ。それに、こんな状況なら俺の願いは聞き届けられなかったと思うし……」
「そうですわね、ミナさんの責任ではありませんわ」
火竜の襲来という危機的状況によって竜騎士隊が動けず、それどころか王都内の戦力は全て防衛のために動かせない事態に陥った。
そのためにホブゴブリンの軍勢がイチノ地方を攻め寄せているにも関わらずに援軍が送り込めないという事実にダリルは頭を抱えた。
「ああ、くそっ……あの街には俺の故郷でもあるんだ!!ここで働いている奴等だって大半はイチノの人間なんだ……どうしようもできないのかよ!!」
「方法なら……あります」
「え?」
頭を抱えるダリルにレナはアルトから受け取ったメダルを取り出し、机の上に置く。
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