第378話 かすかな希望

「待ってくれ!!そこにいるのはレナ君か!?」

「っ……!?」

「……まずい」



レナ達は振り返ると、そこにはアルトが城門を潜り抜けて近寄ってくる姿を発見した。この状況で彼が現れた事にレナは戸惑い、どのように反応するべきか迷う。



(落ち着け、まだアルト君が俺が捕まった事を知っているとは限らない。ここは平静を装うんだ)



アルトがレナが地下牢に送り込まれた事を知らなければ、レナが焦りを抱く必要はない。普通にこれから帰宅する事を伝えれば怪しまれる心配はなかった。だが、近づいてくるアルトは険しい表情を浮かべており、どう見ても世間話をする様子には見えなかった。


普段の彼らしからぬ表情を浮かべるアルトにレナは警戒すると、彼はレナの前に立ち止まって腕を伸ばす。その動作を自分が捕まえるためかとレナは咄嗟に反応したが、予想に反してアルトが伸ばした手はレナの両手を掴む。



「すまない……」

「えっ?」

「君の力になれなくてすまない……イチノに援軍を送れない事が先ほど、会議で決定してしまったんだ」

「っ……!?」



アルトはどうやらレナが拘束された件は知らないらしく、地下牢でレナが意識を失っている間に行われた会議にてヒトノ国はイチノ地方へに現れたホブゴブリンの軍勢の件は現状では放置することを決めたという。


レナがイチノ地方の出身であると知っていたアルトは申し訳なそうな表情を浮かべ、故郷が危機に晒されているレナの事を不憫に思い、ヒトノ国の王子でありながら力になれない事を謝罪した。



「謝って済む問題じゃない事は分かっている。だけど、どうしても君に直接会って言いたかったんだ……故郷の危機なのに力になれなくて本当に申し訳ない」

「アルト君……」



レナはアルトの言葉を聞いて自分の事が気付かれていない事を安堵する一方、アルトが謝罪する必要はないと思われた。確かにアルトはヒトノ国の王子ではあるが、今回のヒトノ国の判断は決してアルト一人の責任ではない。とはいえ、それを口にした所でアルトの気が紛れるとは思えず、レナは敢えて彼の謝罪を受け入れた。


アルトは手を離すと、レナに対してどのように声を掛ければいいのか分からない表情を浮かべ、そんな彼にレナは肩に手を置いて感謝の言葉を告げる。



「ありがとうアルト君、俺の事を心配してくれて……でも、大丈夫だよ」

「レナ君……君はこれからどうするんだい?」

「……戻るよ、故郷に」

「っ……」



レナの言葉に傍に控えていたシノが反応し、彼女は意味ありげな表情を浮かべるがアルトはそれに気付かず、やがて彼は意を決したようにレナに助言を行う。



「僕は君を止める事は出来ない。いや、ヒトノ国がイチノ地方の問題を後回しにした以上は僕が君を止める権利は持っていない……だが、これだけは言わせてくれ。もしかしたらだけど、君の故郷を救い出す方法が残っているかもしれない」

「えっ……!?」

「それは……本当?」



予想外の言葉にレナは驚き、シノさえも演技を止めて尋ねてしまう。アルトは二人の反応を見て驚くのも当然だと思い、彼はかすかな希望を伝える。



「黄金級冒険者の冒険者組織クランの「金色の隼」……彼等に依頼という形で協力を求めれば君の街を救い出せるかもしれない」

「金色の隼に……!?」

「ああ、彼等は冒険者の最高位の黄金級冒険者で構成されている。その一人一人が一騎当千の強者だ……そんな彼等の力を借りればホブゴブリンの軍勢だろうと撃退できる可能性は高い。いや、間違いなく撃退できるだろう」

「それは……そうかもしれないけど、でも問題はイチノまでどうやって行けば……」



金色の隼の実力はレナもよく知っており、かつてカーネの屋敷の護衛を勤めていた黄金級冒険者の「カツ」と対峙したとき、彼の実力は嫌という程思い知らされた。そんな彼と同じ黄金級冒険者が揃った金色の隼ならば戦力としては申し分ない。


しかし、重要なのは戦力が揃ったとしてもイチノまでの移動手段である。この王都からイチノまで馬で移動しても一か月はかかり、竜騎士隊の飛竜ですらも5日はかかる距離が存在する。既にイチノの街はホブゴブリンの軍勢に攻撃を受けている状態であり、あまりに時間をかけすぎると到着する前に街が滅ぼされている可能性もある。



「君が言いたい事はよく分かる。だけど、僕も考え無しに金色の隼に頼るように逝ったんじゃない。僕の調べた情報によると、彼等は天馬を従えているらしいんだ」

「天馬?」

「世間で知られている名前なら分かりやすいかな?彼等はペガサスを従えている。そのペガサスならもしかしたらイチノまでそれほど時間を掛けずに辿り着けるかもしれないんだ」



アルトの言葉にレナは驚き、シノも動揺を隠せない。それほどまでに彼が告げた言葉は衝撃的な内容だった。

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