第377話 脱走

「そんな事があったのか……けど、こんな場所に閉じ込めるなんて酷いな……」

「少なくとも牢獄に送り込んだのはマドウ学園長の仕業じゃない。多分、サブ魔導士の独断だと思う」

「そっか……でも、どっちにしてもこんな場所に居られない」



罪を犯して捕まったのならばともかく、今回の件に関してはレナも黙って牢屋に閉じ込められるつもりはない。シノのお陰で無事に檻から抜け出すと、彼女についでに両手に嵌め込まれた鎖もどうにか出来ないのか尋ねる。



「シノ、悪いけどこっちの手錠も外してくれる?」

「見せて」



手錠の鍵穴を確認したシノは鍵束から開錠するための鍵を探し出し、無事に取り外す事に成功する。やっと両手が自由になれた事にレナは安心する一方、ミスリル製の鎖で構成された手錠を見て何かの役に立ちそうだと考えた。


このまま捨てるのは勿体ないと思ったレナは鎖を巻き取って抱えると、シノの案内の元で地下牢の脱出を行う。彼女もここへ来るまでに道順はしっかりと覚えているらしく、見つからないように気を配りながらレナを案内した。



「私にしっかり付いてきて……多分、問題ないと思うけど兵士に見つからないように気を付ける」

「分かった」



勝手に抜け出せば問題があるかもしれないが、今のレナには一刻の猶予はなく、すぐに城内を脱出する必要があった。もうマドウの力を借りる事が出来ない以上、レナに残された手段は自力でイチノへ帰還するしかない。


地下牢を抜け出して城内の1階に続く階段まで移動すると、扉の前でシノは聞き耳を立てて様子を伺い、廊下の様子を観察する。特に足音が聞こえない事を確認すると二人は地下牢を抜け出して城内1階の廊下へと辿り着いた。



「大丈夫、見張りの兵士も見当たらない」

「良かった……でも、地下牢なのに兵士を配備していないなんて大丈夫なのかな?」

「今の状況なら、誰もいないはずの牢屋にわざわざ兵士を配備する必要はない」

「あ、なるほど……という事は俺が捕まっている事は他の人に知られていないわけか」

「そういう事」



シノによるとレナが地下牢に放り込んだのはサブであるため、彼以外の人物はレナが地下牢に閉じ込められている事を知らないという。普段ならば地下牢にも兵士は配備されているだろうが、この状況下では地下牢の兵士達も呼び出されているらしく、誰もレナ達が脱出しても存在に気付くことはない。


レナを閉じ込めたサブだけは地下牢に戻れば彼が抜け出した事を知るだろうが、罪を犯して捕まったのならばともかく、今回は彼の独断の行動なので咎められる謂れはない。仮にサブがレナを抜け出した事を進言してもレナが惚ければ問題はない。そもそもレナは何も罪を犯してはいないのも事実のため、むしろ無実のレナに容赦なく魔法を撃ち込んだ彼が本来ならば咎められる立場である。



「急いで城から抜け出した方が良い、見つかったら厄介な事になる」

「よし、それなら適当な乗物を見つけ出して俺の付与魔法で脱出すれば……」

「駄目、城壁の方には兵士が配備されているからその方法だと目立つ。それよりも変装して抜け出したほうがいい」

「変装?」

「大丈夫、もう用意はしている」



シノは廊下を移動すると地下牢から最も近い部屋の中に入り込み、事前に隠していた兵士の衣装を取り出す。用意周到な彼女にレナは感心するが、兵士の衣装は一人分だけだった。



「あれ?これ、一人分だけじゃない?」

「レナは変装する必要はない。最初の時のように私が案内役の兵士のふりをして、城から抜け出せばいい」

「ああ、なるほど……でも、それだと俺達が抜け出した事はすぐにばれそうだね」

「それは仕方ない、どっちにしろレナがいなくなったことはいずれ気付かれる。なら今の内に堂々と抜け出せばいい」



レナはシノの言葉に頷き、どうせこっそり逃げたとしても後で気付かれるぐらいなら今の内に逃げ出しても結果は同じである。シノはすぐに兵士に着替えると、彼女は女性兵として振舞い、廊下を移動する。


途中で何度か兵士とすれ違ったが、誰もが慌てふためいており、レナを案内するシノの姿を見ても特に反応は示さない。やがて城門の近くまで辿り着くと、レナは城門の見張り役の兵士が変わっていない事に気付き、この兵士はマドウの関係者なので少し警戒しながらも話しかけた。



「あ、どうも……」

「ん?君は……いや、失礼しました!!もうお帰りになられるのですか?」

「……大魔導士から彼の見送りを任されている。ここを通ってもいい?」

「見送り?ああ、そういう事なら構わないが……」



どうやら兵士はレナが捕まった件は知られていないらしく、シノが適当な言葉を告げてレナを外へ連れ出す事を伝えると、訝し気な表情を浮かべながらも城門を通す。


上手く城門から抜け出す事に成功したレナとシノは安心する一方、早急に王城から立ち去るために早足で抜け出そうとした時、城門の方角から声を掛けられた。

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