第376話 牢獄
――次にレナが目を覚ましたとき、朦朧とする意識を何とか引き締め、いったい何が起きたのかを思い出す。
(くっ……そうだ、俺は確かサブ魔導士の砲撃魔法を受けて気絶して……それで、どうなったんだ?)
レナは身体を起き上げると、不意に手元に違和感を覚える。視線を向けると何故か自分の両手に手錠が施されている事に気付き、しかも鎖は壁に固定されていた。手錠も鎖もミスリル製で構成されているらしく、レナの腕力では到底破壊できないだろう。
更に現在のレナが存在する部屋は檻の中である事が判明し、日の光を差す窓も存在せず、小さな蝋燭だけが檻の外の通路の燭台に嵌め込まれていた。それを見てレナは自分が牢獄に閉じ込められた事に気付き、恐らくは王城内に存在する地下牢だと思われた。
(どうして俺はこんな場所に……くそ、まだ頭がはっきりしない)
頭を抑えながらもレナは自分の身体を見ると、あれほど強烈な魔法を受けたのに傷跡が一つもない事に気付く。服だけが焦げてしまったようだが、それでも傷跡がない事を考えると誰かに治療を施された後に地下牢に閉じ込められたらしい。
いったいどうしてサブが攻撃を仕掛けてきたのかは分からないが、レナは身体を起き上げてどうにか脱出しようとした。幸い、魔法の力を封じられたわけではなく、普通に発動させる事が出来た。
「よし、これなら……せぇのっ!!」
付与魔法を発動させたレナは両手に張り付いた鎖を握り締め、力の限り引っ張る。その結果、重力の力によって壁に埋め込まれていた鎖を強制的に引き剥がし、一先ずは拘束を解除する事に成功した。
「やった……後はここから抜け出すだけだな」
幸いにも牢の外には見張りの兵士の姿は見えず、鎖を引きずりながらレナは牢の扉を手を伸ばす。こちらも運が良い事に鋼鉄製の鉄格子であり、付与魔法を利用すれば簡単に鉄格子を捻じ曲げて脱出できそうだった。
レナはサブが自分を気絶させたのはイチノへ向かわせないためかと推察し、恐らくは死にに行くレナを無理やりにでも引き留めようとしたのだろう。だが、覚悟を決めたレナはこの程度では止まらず、鉄格子を破壊するために力を籠めようとしたが、異様な脱力感に襲われて膝を付く。
「うっ……何だ?」
「大丈夫?これを飲んだ方が良い」
「うん、ありがとう……えっ?」
力が抜けたレナに対して鉄格子越しに誰かが話しかけ、青色の液体が入った硝子瓶を手渡す。反射的に受け取ってしまったレナだが、すぐに違和感に気付いて顔を上げると、そこには鍵束を握り締めるシノが存在した。
「し、シノ!?」
「いぇいっ」
レナが驚きの声を上げると彼女は両手でピースを行い、即座にレナの檻の鍵を開く。彼女の手を借りながらどうにか立ち上がったレナは驚いた表情を浮かべる。
「どうしてシノがここに……!?」
「落ち着いて、まずはその薬を飲む。アイリから貰った魔力を回復させる薬」
「アイリさんの……ああ、もしかして「
回復薬の中には傷を癒す物だけではなく、魔力を回復させる回復薬も存在する。但し、市販の回復薬も一般人にとっては高額で売買されているが、魔力を回復させる魔力回復薬は魔術師から人気が高く、通常の回復薬よりも高値で取り扱われている。そんな希少品をシノがアイリから受け取っていた事に驚くが、レナは有難く飲み干す。
魔力回復薬は回復薬とは異なり、効果は即効性ではなく遅効性なので飲んですぐに魔力が回復するわけではない。それでも薬のお陰で大分身体が楽になったレナは立ち上がると、シノに事情を問う。
「シノ、俺が倒れた後に何が起きた?」
「話すと長くなるから、歩きながら説明する」
「分かった……でも、聞きたい事がある。ここは何処?」
「王城の地下牢」
シノの返答を聞いて予想通りというべきかレナは自分が地下牢に閉じ込められていた事を知り、まるで犯罪者のように檻の中に放り込まれていた事にため息を吐き出す。そんな彼の肩を担ぎながらシノはレナに何が起きたのかを説明する。
――天井に張り付いて様子を伺っていたシノによると、レナはサブの魔法によって意識を失い、すぐに治癒魔導士のアイリが呼び出されて治療を受けたという。サブの行為にマドウとジオは激怒したが、彼はここまでしなければレナを止められない事を告げると二人は否定する事が出来なかった。
『この坊主は間違いなく一流の魔術師になる……これほどの人材を失うのは惜しい、だからこそわざわざ死にに行かせるのは止めなければならん』
『しかし、それでも他に方法があったのでは……』
『何を言うか?この小僧の覚悟は大魔導士も将軍も伝わっただろう。儂の経験上、この手の人間は力尽くで止めねばならん。可哀想だが、事が終わるまでは閉じ込めておいた方が良い』
『ぬうっ……』
サブの言葉にマドウもジオも言い返す事は出来ず、結局はレナは治療を受けた後は地下牢に運び込まれ、今回の事態が収まるまで閉じ込める事が決定したという。
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