第374話 援軍不可
『坊主よ、入ってもいいか?』
「え、あ、はい!!シノ、早く隠れて……!!」
「分かった」
シノは音も立てずに跳躍すると天井に張り付き、その直後にサブが中に入って来た。後ろからはマドウとジオも存在し、彼等は厳しい表情を浮かべながら中に入る。
彼等の表情を見たレナはシノの存在が気づかれたのかと焦ったが、特に二人は天井に隠れた彼女に気づいている様子はなく、このままシノの存在を隠し通す事にした。
「マドウさん!!それにサブ魔導士とジオ将軍も……」
「うむ、待っていてくれたか。すまない、会議が長引いてな……」
「やれやれ、火竜が現れただけで王都中が大変な騒ぎになっておる。ヘンリーに至っては気絶してしまったわ」
「レナ君、久しぶりだね。元気そうで何よりだが……ん?他に誰もいないのか?誰かと話していたように思ったが……」
「え、いや……ひ、独り言です」
3人は中に入り込むとソファに座り込み、ジオはレナ以外に人の気配を感じたので不思議そうな表情を浮かべるが、天井に張り付いているシノには気づかない。他の人間に気づかれないようにレナは天井に視線を向けると、そこにはシノが親指を立てていた。
どうやら誰もシノの存在には気づいていない様子であり、レナはいつバレるのか冷や冷やとしながらもマドウとサブと向かい合う。ジオはレナの隣に移動を行い、まずはマドウが口を開く。
「すまん……君の願いを聞き遂げる事が難しくなった」
「えっ……」
「現在、この王都は危機に陥っている。その理由が火竜なのじゃ」
マドウの言葉にレナは顔を上げると、サブが代わりに説明を続けた。そこから先は事前にアルトから教えてもらった内容の通り、ヒトノ国の領地内に火竜が侵入した痕跡が発見されたという。
「王国北部を守護するカイン大将軍から今日、竜騎士隊の半数が王都へ送って来た。彼の報告書によると火竜が国境を越え、ヒトノ国の領地内に侵入した可能性が高いという」
「その前に念のために聞くが、レナ君は火竜の存在を知っているか?」
「はい……おとぎ話程度ですけど……」
「それで十分じゃ。奴が恐ろしい存在だと知っていれば問題はなかろう」
辺境の地に暮らしていたレナでさえも火竜の存在は知っており、彼が愛用していた「重力の勇者」という絵本にも登場していた。その絵本では勇者が他の仲間と共に協力し、深手を負いながらも火竜を撃退したという話が乗っていた。
マドウもサブもジオでさえも「火竜」という存在は目にした事はなく、この3人も火竜がどのような生物なのかは書物や伝承でしか知らない。しかし、いかなる時代でも火竜が人里に現れると甚大な被害を生み出したという話は残されているため、決して油断ならない相手だとは誰もが理解している。
「火竜の痕跡が発見されたのはこの王都から遠方の地だが、空を飛べることが出来る火竜は1日で千里を移動する事が出来るという。つまり、今すぐにでも火竜が王都へ襲来する可能性はあるのだ」
「大魔導士よ、これはもう盗賊ギルドなど構っている暇はないですぞ?すぐに王都の警戒態勢を発令し、地方に派遣した魔術兵を呼び出さねばならん」
「カイン大将軍はどうされているのですか?火竜が襲来した場合、彼の竜騎士隊が最も戦力になると思われますが……」
「その火竜の捜索のために動いておる。だが、万が一の場合に備えて捜索範囲は王都周辺に留めている。このまま何事もなければ明日の夜、いや本日の夜中に王都へ一旦戻り、先に帰還した竜騎士達と交代して王都の防衛に当たるはずじゃ」
「つまり、1日おきに王都を守護する部隊と、王都周辺の捜索を行う部隊に分けたという事ですか……」
「うむ、本来ならばゆっくりと身体を休ませてやりたいが、状況が状況だからのう……最悪の場合、まだ訓練が完全に終わっていない「称号」を所有する人間達も参加させねばならない」
「それってもしかして……」
マドウの言葉にレナは魔法学園の生徒達も王都の防衛のために働く事になるだと気付き、マドウとしても苦渋の決断なのか彼は唇を噛みしめる。
「まだ実戦経験も受けていない子供たちを実戦の場に立たせるなどあってはならん事だ!!だが……!!」
「今は国家存亡の危機。陛下が命じられた以上は逆らう事は出来ませぬ」
「うむ、儂の弟子達もきっと駆り出されるだろう……やれやれ」
サブの弟子達も魔法学園の生徒同様に王都の防衛のために呼び出されるらしく、彼も表情は苦々しい。だが、レナが気になる事は火竜の件ではなく、本来予定されていた「イチノ」の街の援軍の件はどうなるのかを震える声で問う。
「マドウ学園長……イチノは、イチノはどうなるですか?」
「…………」
「坊主よ……いや、レナよ。お主の気持ちは分かるが今はこの王都が滅びるかどうかの一大事じゃ。援軍を派遣する余裕はない」
「そんなっ!!」
「落ち着くんだレナ君!!」
レナはサブの言葉に立ち上がり、黙り込むマドウに近付こうとしたが、ジオが彼の腕を掴んで抑えつける。その様子を見てもマドウは黙ったまま動かず、サブも困った風に頭を掻く。
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