第372話 ジオからの言伝

「そこの馬車、お待ちください!!」

「うおっと!?」

「アリアさん!!」



ジオの屋敷の前にはアリアが立ち尽くし、彼女はレナ達の乗っている馬車を引き留める。すぐにレナ達は馬車を降りてアリアの元へ駆けつけると、状況を尋ねた。



「アリアさん、ジオ将軍は……」

「あの人は既に王城へ向かいました。どうやら王都内に滞在する将軍、大臣は全員収集されているようです」

「いったい何が起きたんですか!?あの竜騎士隊が急に戻ってくるなんて……」

「私も把握しかねています。ですが、夫からレナ様が来た場合は言伝を預かっております」

「俺に?」



アリアの言葉にレナは戸惑い、ジオが彼女にどのような伝言を頼んだのかと緊張すると、アリアは言われた言葉通りに話す。



「ジオ将軍はこう言っておられました。至急、王城へ向かうように……と」

「お、王城だと!?レナに王城へ向かえと言ったのか!?」

「はい。恐らく、今頃はダリル様の屋敷の方にも迎えの馬車が来ているはずです。ですが、もしもここへ訪れた時は私達の方で連絡をしているようにと頼まれました」

「ど、どうしてレナが王城に呼び出されるんだ!?」



ジオの伝言にレナ以外の者達は戸惑い、何故この状況下でレナだけが王城へ呼び出される理由が分からなかった。しかし、レナはすぐに自分を呼び出した理由がマドウに関りがあると判断した。


即座にレナは馬車の中からスケボを取り出すと乗り込み、急いで王城へ向かう事にした。唐突に馬車から抜け出したレナに他の者は慌てるが、そんな彼等にレナは一言だけ告げる。





「皆、屋敷に戻ってて!!」

「ま、待てレナ!!急にどうしたんだ!?」

「兄ちゃん!?」

「説明は後でするから!!」



レナはスケボに付与魔法を発動させると、限界まで速度を上昇させて浮上し、王城へ向けて移動を行う。その様子を全員が唖然とした表情で見送るが、シノだけは何か気になったのかすぐにレナの後を追うように駆け出す――






――王城の前までレナはスケボを利用して辿り着くと、既に門番の兵士にも話は通っていたのか、彼等はレナを目にすると慌てて扉を開く。



「どうぞ、お通り下さい!!」

「案内は私達が勤めます!!」

「……マドウさんからの指示ですか?」

「はい!!大魔導士から丁重に案内するように言付かっています!!」



過去に王城の兵士に騙されて盗賊ギルドの罠に嵌められた事があるレナは兵士達に警戒心を抱くが、今は王城に入る事が重要のため、中に通してもらう。その後は案内役の兵士の先導の元、廊下を移動していると途中で見知った顔と遭遇した。



「まさか……そこにいるのはレナ君か!?」

「お、王子様!?」

「アルト……君?」



廊下を移動中、レナは兵士を引き連れたアルトと遭遇した。彼はレナが王城内に存在する事に驚いたが、すぐに表情を引き締めてレナの元へ向かう。


そこには学園内では常に穏やかな表情を浮かべ、余裕の態度を保っていた彼の姿ではなく、まるで苦虫を嚙み潰したような表情でレナの腕を引く。



「こっちへ来てくれ、少し話をしたい」

「王子様、ですが陛下が……」

「すぐに話は終わる!!そこで待機していろ!!」

「はっ!!」



アルトに付き添っていた兵士が引き留めようとするが、彼が一喝すると兵士はその場立ち止まる。そして彼は兵士の傍から離れると、レナを連れて誰にも聞かれないように小声で話しかけてきた。



「レナ君、君はどうしてここに?」

「ジオ将軍に俺も王城へ来るようにと呼び出しを受けて……多分、マドウ大魔導士が呼び出したと思うんだけど」

「大魔導士が……そうか、なら今の状況はまだ知らされていないのかい?」

「状況?」

「……本当は極秘機密なんだが、大魔導士が君を呼び出したという事はきっとこの件も伝えるだろう。いいかいレナ君、落ち着いて聞いてくれ。これから僕の話す事は他の人に知らせないと約束してくれるかい?」

「……約束する」

「王都の北部の鉱山を守護する竜騎士隊が帰還したのは知っているね?彼等は鉱山の管理だけではなく、北部一帯の守備を任されているんだ。今日、彼等が戻って来たの北部で起きた異変を国王陛下に報告するためなんだ」

「異変?」

「……まだ確定したわけではないが、竜種である火竜が北の方角から訪れた痕跡が発見された。本来、火竜は火山地帯に生息しないはずだが……もしもこれが事実だとした場合、王都は壊滅の危機に晒される」

「火竜……!?」



アルトの言葉にレナは反射的に大きな声を上げそうになったが、すぐに口元を抑えられる。アルトはこの情報を知っているのは帝国の上層部だけであり、城内の兵士さえも知らない機密情報だという。

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