第368話 大将軍カインと竜騎士隊
「坊主よ、焦る気持ちは分からんでもないが、いくら大魔導士といえども一瞬でイチノに辿り着く方法を知っているわけではない。転移魔法で移動するとしても手間がかかるし大人数は連れて行く事は出来ない。そもそもあの魔法は一度訪れた場所にしか使う事が出来ないからのう……」
「本当に方法はないんですか!?馬よりも早く移動する手段は!?」
「無理じゃな。馬よりも早い騎獣を用意するにしても時間が掛かる。第一にホブゴブリンの軍勢となると討伐を行うためにそれ相応の準備を整えなければならん。しかし……」
「うむ、現在の王都の状況では表立って大軍を送り込むのは難しいのう」
先日の競売で七影が現れた一件により、王都は警備体制を強化されている。しかし、この状況下でホブゴブリンの軍勢の討伐のため、王都の守備軍を派遣する事になれば七影が何かを仕出かす機会を与えかねない。
仮に討伐のための軍を用意したしても、イチノに移動させるだけでも一か月近くはかかる。それまでの間にイチノが陥落を免れずとは思えず、どうしようも出来ない。レナもそれを理解した上でこの帝国の最高の魔術師に知恵を求めた。
「本当にどうしようも出来ないんですか……!!」
「……我が国の大将軍であるカインが率いる竜騎士隊ならば5日も掛からずにイチノへ辿り着く可能性はある」
「竜騎士隊?」
「大魔導士、それは……」
大将軍と竜騎士隊という言葉を聞いてレナの脳裏に思い浮かんだのはミナの顔であり、彼女の父親は帝国の将軍だと告げていた。彼女の父親も「騎士職」であると聞いていたレナはカインがミナの父親ではないかと気づく。
「大将軍のカインは王都ではなく、この王都の北に存在する鉱山で部隊を指揮している。彼を含め、彼の配下は騎士職の中でも最も希少な「竜騎士」と呼ばれる称号の持ち主なのだ」
「竜騎士……普通の槍騎士や盾騎士とは違うんですか?」
「大きく異なるな。竜騎士の場合、彼等は竜種と心を通じ合わせる事が出来る。自分の力量に見合った竜種ならば従えさせることも出来るのだ」
「あの……竜種を!?」
竜種とは魔物の生態系の中でも間違いなく頂点に位置する存在であるため、人々は竜種の事を災害の象徴という程に恐れていた。竜種は魔物の中でも数は少ないが稀少は非情に獰猛で戦闘力が高く、生態系を乱す程の驚異的な力を誇る。
過去にヒトノ帝国に「火竜」と呼ばれる竜種が出現し、3つの街を壊滅状態に追い詰めた事があった。ヒトノ帝国は軍隊を派遣したが、1万の兵士で挑んでも火竜を討伐するどころか逆に返り討ちにあい、結局は火竜は帝国の火山に住み着き、その周辺地方に存在する集落を全て放棄する事態に陥った。
最も竜種といっても火竜のように軍隊を返り討ちにするほどの力を持つ種もいれば、逆に力の弱い竜種も存在する。その竜種の名前は「飛竜」と呼ばれ、こちらの竜種は比較的に他の竜種の中でも力が弱く、人間でも捕縛する事が可能な竜種である。それでも戦闘力は赤毛熊を上回り、数を集めれば街を滅ぼす程の戦力は誇るが。
「カイン大将軍と会った事はあるか?君の友人であるミナ君の父親のはずだが……」
「いえ、顔を合わせた事はありません。ミナから時々話を聞くぐらいで……」
「ふむ、大将軍は滅多に人前には現れないからのう……だが、彼が管理する竜騎士隊は間違いなくヒトノ国の誇る最大戦力じゃ」
「あの、どうしてその竜騎士隊なら普通の馬なら一か月もかかる距離を5日で移動できるんですか?」
「簡単な話じゃ、竜騎士隊が操るの飛竜は名前の通りに空を飛ぶことが出来る。しかも普通の馬よりも早く、地上と違って障害物が存在しない空を移動するのだ。移動速度が速くて当然であろう?」
サブの説明にレナは納得し、王都からイチノへたどり着くまでに時間が掛かるのは距離が遠すぎるせいでもあるが、他にも理由があるとすれば行路が険しく、何度か山を超えたり、魔物が出没するような森などを迂回しなければならなかった。
しかし、竜騎士隊の駆使する飛竜はどれほどに険しい行路であろうと関係なく、空を飛んで移動すれば目的地まで直線距離で移動が行える。
鳥型の魔物と接触する可能性もあるが、仮にも竜種である飛竜に襲いかかる魔物など滅多にいない。直線距離ならば王都からイチノまで5日もあれば辿り着けるというのがマドウの予測だった。
「なら、竜騎士隊にイチノの街の救援を頼んでください!!お願いします、無茶なことを言っているのは分かってます!!でも、他に方法がないのなら……!!」
「……分かった。儂の方で連絡を取ってみよう」
「大魔導士!?本気ですか?竜騎士隊はこの王都の最大戦力、そう易々とこの地を離れさせるわけには……」
「しかし、ホブゴブリンの軍勢の件も見逃す事は出来ん!!こうして話している間にも大勢の民衆が危険に晒されておるのだ。儂の方で国王様に事態を報告し、竜騎士隊の派遣を頼もう。それで良いだろう?」
「あ、ありがとうございます!!」
マドウの言葉を聞いてレナは大粒の涙を流し、そんな彼の肩をマドウは掴んで立ち上がらせると、レナを安心させるために微笑む。
「お主は今すぐに家に戻り、他の者と一緒に待機しておれ。くれぐれも一人で飛び出そうとしてはならんぞ?」
「は、はい……分かりました」
「やれやれ、大魔導士も弟子には甘いのう……嫉妬してしまいそうじゃ」
「サブよ、茶化すな。それよりもお主の所の弟子にも力を借りる事態に陥るかもしれん。王都に滞在している弟子を全員呼び集めてくれんか?」
「承知した。坊主、良かったのう」
「あ、はい……サブ魔導士もありがとうございます」
「何、お主に礼を言われる筋合いはないわ。儂は大魔導士に命じられただけだからのう」
レナはサブにも礼を告げると彼は朗らかな笑みを浮かべ、そのままマドウはサブはレナを家に帰らせた――
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