第369話 ゴイルとムクチ

――家にレナが戻ると彼を心配していた者達が駆け寄り、何処へ行っていたのかを問い質す。レナは正直にマドウに助けを求めた事を伝えると、ダリルは安心した表情を浮かべた。



「全く……急に一人で飛び出すから心配したんだぞ。まさか一人でイチノに向かうつもりかと思って皆で探しに行こうかとしたんだぞ」

「すいません、心配かけて……」

「ですけど、マドウ学園長に助けを求めたのは悪い事ではないと思います。正直、あの方以外に今回の件を解決することが出来る方がいるとは思えませんし……」

「竜騎士隊か……うん、それなら僕もお父さんの所に言ってレナ君の街を助けてもらうように頼んでみるよ!!」

「え?いいのミナ?」



ミナの言葉はレナにとっては非情に有難く、大将軍であるカインに会うとしたら娘であるミナの方が色々と都合がいい。レナ達が大将軍の元に赴いても追い返される可能性もあるが、カインの娘であるミナならば追い返される可能性は低い。


カインの立場上、娘の頼みだとしても無暗に軍勢を動かす事は出来ないだろう。しかし、マドウが頼む前に先に話を通しておく事は悪い事ではなく、レナはミナに頼む。



「じゃあ、悪いけどミナの方からカイン大将軍に伝えておいてくれないかな……それと、ジオ将軍にもこの話は伝えておいてほしい」

「うん、分かったよ!!すぐに叔父さんの家に戻って話を伝えておくね!!」

「けど、カイン大将軍は帝国の北の鉱山にいるんだろ?そんな気軽に会えるのか?」

「会うのはそんなに難しくないと思うよ?合図を送ればすぐに竜騎士隊の人が気付いて迎えの飛竜を送ってくれるから、すぐに会えるよ?」

「ああ、なるほど……確かにそれはすぐに会えそうだな」



鉱山の麓でミナが合図の狼煙を送れば竜騎士が迎えに来てくれるらしく、飛竜を利用すればすぐに彼女は父親と会えるという。なのでカインの件はミナに頼み、その間にレナは自分も出発する準備を整える事にした。



(竜騎士隊がどれほどの早いのかは分からないけど……空を移動する手段はこっちもあるんだ)



レナはスケボを持ち上げると、埋め込まれた地属性の魔石に視線を向け、この魔石がある限りは付与魔法の効果が切れることはなく、レナも空を飛び続けることが出来た。これを利用すればレナも空路を移動してイチノへ向かう事も出来る。


しかし、レナが一人でイチノに向かったとしてもホブゴブリンの軍勢を相手に街を救う自信があるなど言えなかった。これまでにボア、赤毛熊、ロックゴーレム、ミノタウロス、ミスリルゴーレムを討伐したレナだが、今回の敵は規模があまりにも違う。


こうしている間にもイチノがホブゴブリンの軍勢に蹂躙されているのではないかと不安を抱くが、今はマドウの言葉を信じてレナは待つ事にした。但し、万が一の場合を考えて何時でも出発できる準備は整えるため、レナはスケボを取ろうとした時、先にゴイルがスケボを取り上げた。



「そういえばさっきから気になってたんだが、これは何なんだ?さっき、こいつを使って、お前さん空を飛んでいただろ?いったい何なんだこれ?」

「あ、そっか……ゴイルさんに見せるのは初めてだったっけ」



スケボはゴイルが立ち去った後にレイナがムクチに頼んで作り出して貰った道具であり、簡単に説明を行う。地属性の付与魔法を施せば空を飛び、更には盾の代わりにも扱える道具である事を説明すると、ゴイルは感心した表情を浮かべる。


ただの乗り物として利用するだけではなく、普段の状態でも盾に使用すれば敵の攻撃なども防ぐことができる。元々、スケボの原型は大盾であるため、防御用の性能も加えられていた。それを確認したゴイルは面白そうに呟く。



「ほう、随分と面白い物を作ってもらったな。見たところ、ミスリル製のようだが……よく貴重なミスリルを集めてこんなでかい金属板を作り上げたな、おい!!」

「それは俺が作り上げた物だ」

「ムクチさん?」



ゴイルの声が聞こえていたのか地下の階段からムクチが現れると、彼は自分の作り上げたスケボをまじまじと見つめるゴイルと向き合う。



「ん?誰だお前さんは?」

「この商会の専属鍛冶師のムクチだ」

「ほう、専属鍛冶師か。俺がいなくなった後にちゃんと鍛冶師を雇ったのか」

「こちらもお前の事は聞いている。この小僧が身に着けていた防具も全てお前さんが作り出した事もな。中々に良い腕をしているようだな」

「ほほう……中々だと?なら、お前さんは俺よりも良い代物が作れるのか?」

「ちょ、ちょっと二人とも……!?」



ムクチの台詞を聞いてゴイルは目つきを鋭くさせると、不穏な気配を感じ取った他の者達が二人の間に割って入ろうとしたが、すぐにゴイルは笑みを浮かべてムクチの肩に手を伸ばす。



「気に入った!!そこまで言うのならお前さんの腕を見せて貰おうか!!」

「いいだろう、なら工房にくるか?こっちも今は人手が不足しているんだ、手伝いが欲しかった所だ」

「ほほう、いいだろう!!どんな仕事でも持ってきやがれ!!」

『あれ……?』



何故かゴイルはムクチと共に工房へと向かい、意外と気が合ったのか二人は雑談を躱しながら階段を降りて姿を消した――

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