第366話 そして王都へ……

ゴイルが領主に救援を頼んだ日の翌朝、彼は今度は王都へ向けて出発した。目的はレナに会うためであり、彼の親しい人間達からt飲まれた「最後」の言葉を伝えるために王都へ向かう。道中、色々とあったが彼は一か月近くの旅路を経て再び王都へと辿り着いた。


旅の道中でもイチノの街の噂は耳にしており、ゴイルが救援を頼んだ領主が兵隊を派遣し、大量の冒険者を送り込んだという話も聞いた。だが、街からホブゴブリンの軍勢が撤退したという話は耳にせず、ゴイルは街がどのような状況なのか気になったが、王都へ向かう。


そして彼は約四カ月ぶりに王都へと辿り着き、レナとの再会を果たした。以前に増して成長したレナを見てゴイルは喜ぶ一方、彼に伝えなければならない話の事を思うと自然と口が重くなる。



「これがイチノの現状だ。正直に言えば、今あの街がどうなっているのか俺にも分からない……」

「そ、そんな……イチノにそんな事が起きているなんて聞いてないぞ!?」

「それはそうだろう、イチノは辺境に存在する街だ。この王都にまで情報が届くまで時間が掛かりすぎる。馬で移動しても一か月は掛かる距離だぞ?」

「…………」



全ての話を聞き終えたレナは黙り込み、イチノの出身でもあるダリルも衝撃を隠せない。ゴイルはそんな二人を見て深々とため息を吐き出し、彼としても街を逃れて自分だけが助かった事に負い目を感じ、非常に辛い立場だった。


それでもゴイルの場合は目的を果たし、救援の使者とレナの言伝を行うという役目を全うした。後はもう彼にはどうする事も出来ず、キデルの言葉通りにレナを見守るしかない。



「レナ、お前の事だから今からでもイチノに向かってあいつらを助けたいと考えているんだろう。だが、それはもう無理だ……俺が出発した直後にホブゴブリンの軍勢が押し寄せてきた。もしかしたらまだイチノは耐え切っているかもしれないが、今から出発したとしても、もう間に合わないだろう……」

「そ、そんな……」

「ここへたどり着くまでに一か月、今から出発したとしても更に一か月だ……あいつらがそう簡単に死ぬとは思えないが、あまり希望的観測はしない方が良い」



ゴイルも既にイチノの街の事は半ば諦めているのか表情は暗く、それほどホブゴブリンの軍勢は恐ろしい存在だという。レナ以外の者は心配した表情を浮かべ、彼が次にどのような行動を取るのかを見守ると、レナはゆっくりと口を開く。



「ゴイルさん、さっき……ホブゴブリンの軍勢は山間部に存在する集落を拠点にしてるといいましたよね」

「あ?ああ、それがどうかしたか?」

「その集落、イチノからかなり離れた場所に存在するとも言いましたよね?」

「そうだな、確かにそう聞いた……」

「……あの地域に存在する山間部の村は一つしかない」

「レナ、君?」



レナの言葉に他の者達は戸惑いの表情を浮かべるが、ダリルだけは何かを察したように顔を上げる。彼も何度も訪れた場所のため、すぐにホブゴブリンの軍勢が拠点にした村の正体に気づく。


イチノから比較的に一番近い山間部に存在する村はレナが暮らしていた場所しかなく、その事実を知ったレナは怒りを抑えきれずに手元に紅色の魔力を宿らせる。



「レナ、まさかその村ってお前の……!?」

「そういう事だったのか……あいつら、俺の村を……!!」

「兄ちゃん!?」



感情を抑えきれないレナは無意識に全身に紅色の魔力を滲ませ、拳を振り翳すと目の前に存在する机を叩き割る。そのレナの行動に誰もが唖然とするが、激しい怒りを抑えきれないレナは机が木片と化すまで殴り続ける。



「あいつら、よくも、よくもっ!!」

「おい、どうしたんだレナ!?」

「落ち着いてください!!」

「待てっ!!あいつの好きにさせてくれ……」

「ど、どういう意味だよおっちゃん!?」



レナの行為をデブリ達は止めようとしたが、ダリルだけはレナの心中を察して他の者達を引き留めた。やがて机を粉々にまで破壊したレナは息を荒げながら天井を見つめると、ゆっくりと笑みを浮かべる。しかし、その表情を見た者達の背筋が凍り付く。



(今度は……絶対に奪わせない)



数年前、自分から家族と親しい人間を奪ったゴブリンの集団が自分の故郷である村に住み着き、軍勢を作り上げていたという事実にレナは激しい怒りを抱く。それは穏やかな日常を過ごす事で忘れかけていた「憎悪」を呼び覚ました。


レナの変貌に他の者達は戸惑うが、もう誰も彼を止める事は出来なかった。レナは壁に立てかけてあったスケボを拾い上げると、他の人間の制止を振り切って外へ向かう。



「あ、おいレナ!?何処へ行く気だ!?」

「おい、待て!!」

「急にどうしたんだよ兄ちゃん!?」

「っ……!!」



コネコ達の言葉を耳にしても怒りで頭に血が上がったレナは止まらず、スケボに乗り込むと付与魔法を発動させ、全速力で走らせる。


外へ出向くと真っ先にレナは魔法学園へ向けてスケボを走らせ、マドウに「約束」を果たしてもらうために校舎へと向かう。

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