第365話 ゴブリンの軍隊
ホブゴブリンの軍勢は偵察に向かった兵士の報告によって数は「1500体」その内の1000体がホブゴブリン、残りの500体が通常種、そして通常種の100体は「騎兵」のように狼型の魔獣であるファングを乗りこなし、更にボアを十数体、他にも檻に閉じ込めた赤毛熊を数体同行させていたという。
それだけの軍勢でも脅威なのだが、ホブゴブリンの指揮を執る「隊長」の役目を持つホブゴブリンが複数存在し、まるで本当に軍隊のように統率の取れた行進でイチノに向かっていた。魔物が別種族の魔物と力を合わせる事は自然界でも極稀の出来事にも関わらず、今回はホブゴブリンによって捕らえられた魔獣達は調教を受けたかの様にホブゴブリンに従い、歯向かう様子が一切なかった。
軍勢が接近しているという報告を受けてイチノの民衆の大半は避難を行い、何処か別の街へ逃げようとした。そんな彼等の行動を冒険者や警備兵が止める事は出来ず、結果的には街の住民の半数は逃げ去った。だが、残りの半数はイチノの街を見捨てることが出来ず、籠城の意思を示す。
しかし、籠城といってもイチノはヒトノ国の辺境地方に存在する小さな街に過ぎず、これまでに他国からの軍隊の侵攻さえ受けた事もない。つまり、籠城の経験は一度もない。だが、この街で生まれ育った冒険者や兵士は街を放棄する気は毛頭なく、最後まで抵抗するつもりだった。
『ゴイルよ、お主に頼みたいことがある。恐らく、我らが送った使者は全員が殺されているだろう。だからお主に新しい使者として他の街に状況の報告を行って欲しい』
『何だと!?どうして俺にそんな事を頼む!?』
『お前の腕はよく知っている、冒険者ではないがこの街の人間の中でも腕が立つ。この任務を任せられるのはお前しかいないのだ』
『馬鹿野郎!!俺までいなくなったら誰がこの街を助けるんだ!!壊れた武器を治す奴が必要だろう!?』
『分かっている!!しかし、他に方法はないのだ……幸い、お前の鍛冶師の腕ならば他の街でも十分に生きていける。もしも援軍が間に合わなかったとしても、我々に気にせずに生き延びるのだ』
『ふざけやがって……!!』
ゴイルはキデルに呼び出され、救援の使者を任せられる。彼は最初は断ろうとしたが、キデルにある事を言われて断る事が出来なかった。
『それと今回の事態をレナに知らせて欲しい……あの子はまだ若いが、優秀な冒険者だ。もしも今回の事態を知ればすぐにでも駆けつけようとするだろう。だが、彼が辿り着くまでにはこの街は滅びている可能性もある。そんな事態に陥ればあの子は悲しむだろう。だからお前だけでも生き延びてあの子を支えてくれ』
『ど、どういう意味だ?どうしてお前がそこまでレナの事を気に掛ける?』
『……話はここまでだ。いいか、レナにしっかりと伝えろ。我々の事はもう諦めろ、お前は王都にて新しい人生を生きろとな』
キデルはそれだけを告げるとゴイルの元を立ち去り、彼は表向きはゴイルに救援の使者を任せておきながらイチノがもう助からない事を予想している様子だった。
ゴイルとしては断りたかったが、もしも今回の事態がレナの耳に入れば間違いなく彼はイチノに駆けつけるだろう。しかし、到着する頃にはイチノが滅びている可能性が高い。
『くそ、なんて事を押し付けるんだあいつ……!!』
レナの親しい人間ならばバルやキニク、受付嬢のイリナもいる。だが、前者の二人は戦力という点を考えても街の防衛のために離れられず、イリナに関しては使者として向かっても途中で魔物に襲われれば彼女では対抗手段がない。その点では鍛冶師として腕前だけではなく、腕っぷしも優れているゴイルならば魔物を撃退し、他の街へ辿り着ける可能性が高い。
ゴイルはキデルの願いを断る事が出来ず、彼もイチノが救われる可能性が一縷の望みでもあるのならと使者の役目を引き受けた。出発の当日、ゴイルの元にキニク、バル、イリナが現れるとレナに言伝を頼む。
『レナ君にあったら伝えてください。絶対に毎日の鍛錬を欠かしてはならないよ、と』
『あいつに会ったらこう伝えて貰えるかい?あんたは自由に生きな、とね』
『あの……これからも頑張って一流の冒険者になって、と伝えて貰えますか?』
『ああっ……くそ、お前等絶対に死ぬんじゃないぞ!!最後まで諦めるな!!』
遺言のように告げてきた3人に対してゴイルは涙を流して別れを告げると、彼は馬を走らせてまずはイチノの近くに存在する街へ向かう。
――結果としてはゴイルは道中でホブゴブリンの集団に襲撃を受けたが、それらを全て返り討ちにして別の街へと辿り着く事には成功した。彼はこの地方を管理する領主の元に赴き、援軍を願う。
すぐに事態を察した領主はイチノへの救援のために兵士の派遣を行う事は約束してくれたが、既にホブゴブリンの軍勢はイチノへの攻撃を開始したのは間違いなかった。
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