第360話 雷属性と地属性の相性

「はああああっ!!」

「えっ!?」



レナは咆哮のように大声を上げながら闘技台を構成する石畳に掌を押し付け、その行為にヘンリーは呆気に取られるが、すぐに床の異変を見抜く。レナが存在する場所を中心に紅色の魔力が床に広がり、周囲に存在する石壁の破片が次々と魔力を帯びる。


床に押し付けた掌を通して「間接付与」を発動させたレナは、周囲に散らばっている無数の破片に付与魔法を発動させ、自分の近くに存在する破片を浮かばせる。その光景を確認したヘンリーは恐怖心を抱き、慌てて魔剣を構えて防御態勢に入った。



「一斉、掃射!!」

「わああっ!?」



大量の破片がヘンリーの元に向けて放たれ、咄嗟に彼は身を守るために結界魔法を発動させる。ヘンリーの前方に2メートルを超える魔法陣が誕生すると、次々と紅色の魔力を帯びた破片が衝突する。



「うおおおっ!!」

「ひいいっ!?」



魔法陣に次々と破片が衝突しては砕け散り、その光景を確認していた者達も圧倒される。ヘンリーは魔法陣の前で身体を伏せて頭を抑えて怯え、一方でレナの方は破片を放つのと同時に自分も動く。


痛む身体に鞭を打ってレナは走り抜けると、まだヘンリーが怯えて動けない間に距離を詰めるため、ブーツに付与魔法を発動させて「瞬間加速」を発動させる。



「おおおおっ!!」

「ひっ!?ち、近寄るなぁっ!!」



闘技台の中央部まで接近してきたレナに気付き、慌てて立ち上がったヘンリーは魔剣を構えるが、結界魔法を発動している間は魔法を生み出せないのか彼の動きが止まる。その様子を見て好機と判断したレナは足に力を込めて跳躍を行う。



「これで最後だ!!」

「う、うわぁあああっ!?」



情けない悲鳴を上げながらもヘンリーは上空から近づいてくるレナに魔剣を構え、魔法を発動させようとした。しかし、それを見たレナは地上に視線を向け、試合の最初で手放した「黒硬拳」を引き寄せる。



「さ、サンダーランス!!」

「喰らうかっ!!」



ヘンリーは速攻性の高い雷属性の砲撃魔法を発動させたが、レナの身体に的中する前に黒硬拳が間に割って入り、雷撃の身代わりとなった。並の金属ならば電撃を防ぐ事も出来なかっただろうが、黒硬拳を構成するのは世界最強の魔法金属であるアダマンタイトで合った事が幸いした。


自分の攻撃を防がれた事にヘンリーは目を見開き、その間にレナは右手に付与魔法を発動させ、ヘンリーに拳を振り下ろす。しかし、先にヘンリーの方が結界魔法を発動させて身を防ぐ。



「ま、マジック・シールド!!」

「くっ!?」



あと少しでヘンリーの身体に触れる寸前、レナの拳は魔法陣によって防がれてしまう。拳に付与魔法を発動させたとはいえ、威力が足りなかったのか弾かれてしまった。



「うわっ……!?」

「や、やったっ!!」



魔法陣によって弾かれたレナの姿を見てヘンリーは歓喜の声を上げるが、レナはここで逃せばヘンリーには勝てないと思い、地上に着地すると拳を振りぬく。



「まだだぁっ!!」

「えっ!?」



諦めずに攻撃を仕掛けてくるレナに対して慌ててヘンリーは結界魔法を維持させると、再びレナの右拳が魔法陣に衝突する。しかし、闘拳を身に着けていない状態では威力が大きく異なり、先ほどと同じく弾かれてしまう。


二度も攻撃を弾かれた事でレナは苦痛の表情を浮かべるが、ここで退けばヘンリーに勝てないと判断すると、空中に浮かんでいる「黒硬拳」の存在に気付く。先ほど、ヘンリーの雷属性の砲撃魔法を受けた影響で未だに電流が迸り、この状態で装備すれば感電は免れないだろう。だが、ここでレナはある事を思い出す。




――最初にヘンリーが広域魔法の「サンダーレイン」を繰り出したとき、東側の殆どの石壁は破壊されてしまう。しかし、レナが身を守るために盾代わりに利用した石壁だけは何故か雷撃を受けても破壊を免れた。




この事から考えられるのは「地属性」の付与魔法を施した石壁は、雷属性の攻撃に対して「耐性」を得た可能性がある。レナを守った石壁だけが雷撃を防ぐ事に成功した事が偶然でないとすれば、地属性の魔力を宿した状態ならば雷属性の「電撃」も耐え切れるかもしれない。


ヘンリーが魔法陣を解除する前にレナは手を伸ばすと、黒硬拳を引き寄せて右腕に装着させる。レナの予想が的中したのか、右腕に地属性の魔力を宿した状態ならば電撃の影響を受けないらしく、闘拳に電流を帯びた状態でレナは拳を突き出す。



「はああっ!!」

「くっ……うわぁあああっ!?」



雷属性の「電撃」と地属性の「重力」を宿した闘拳が魔法陣に衝突した瞬間、あまりの威力に魔法陣に亀裂が走り、やがて粉々に砕け散ってしまう。ヘンリーは魔法陣を破壊された影響で尻もちをつくと、そんな彼にレナは闘拳を顔面に構え、デコピンを行う。



「ていっ」

「あうちっ!?」



奇怪な悲鳴を上げながらも額にデコピンされたヘンリーは倒れ込み、気絶してしまったのか白目を剥いて動かなくなった。その様子を見てレナは黙って腕を上げると、すぐに結界が解除されてイルミナの声が響く。



「そ、そこまで!!勝者はレナさんです!!」

「「やったぁあああっ!!」」



闘技台の傍から仲間達の歓声が上がると、レナは未だに電流を迸る闘拳を身に着けたまま拳を空へ向けて突き出す――

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