第359話 舐めるな

「シャイン!!」

「なっ……!?」



ヘンリーの魔剣から光の球体が出現すると、一瞬の間の後に球体から強烈な閃光が発生し、周囲を覆いこむ。その光景は闘技台の外にいた者達にも及び、悲鳴が上がった。



「うわっ!?」

「ま、眩しいっ!?」

「くそ、あの馬鹿っ……!!」

「ぬうっ!?まさか、聖属性の魔法まで覚えていたというのか……!!」



閃光は闘技台だけではなく、校舎の屋上にまで広がる。光をまともに見てしまった者達は視界を奪われ、闘技台に立っていたレナも思考が停止してしまう。


両目が封じられた事でレナは動く事が出来ず、その場に留まってしまう。そのレナの様子をただ一人だけ事前に目元を塞いで光から逃れていたヘンリーは魔剣を向けると、自分の勝利を確信して彼は魔法を放つ。



「スラッシュ」



魔剣を振り翳しながらヘンリーは魔法を発動させた瞬間、刀身の部分から風属性の魔力が迸り、三日月を想像させる風の刃が放たれた。


目が見えた状態ならばレナも対処出来ただろうが、視界を封じられた状態では反応が出来ず、レナはまともに攻撃を受けてしまう。



「ぐあっ!?」

「……やっと、終わった」



レナが吹き飛ばされた光景を見たヘンリーは勝利を確信した様に杖を下ろす。レナの身体は闘技台の端まで吹き飛ばされ、結界が発動して場外に落ちる事はなかったが、そのまま倒れて動かない。


しばらくした後にやっと他の人間達も視界が戻ると、闘技台の上に倒れているレナを見てコネコ達は悲鳴を上げた。自分たちの視界が封じられている間に倒れたレナの姿を見て信じられない表情を浮かべて声をかける。



「そ、そんなっ……嘘だろ兄ちゃん!?」

「馬鹿なっ!?おい、起きろレナ!!」

「そんなっ……!?」

「れ、レナ君!?大丈夫!?生きてるよね!?」

「っ……!!」



闘技台の元にレナの仲間達は駆けつけ、レナに声を掛けるが反応はなく、その様子を見た彼等は口元を抑える。ブラン達でさえも冷や汗を流し、敵であるはずのレナの身を案じた。



「お、おい……ヘンリーの奴、まさかやっちまってないよな」

「それはない……と思う」

『奴は生きているのか?』

「審判!!すぐに結界を解いてください!!治療しないと……」

「え、あっ……は、はい!!」



アイリは倒れているレナを見て危険な状態だと判断すると、すぐに審判役のイルミナに闘技台を覆いこむ結界を解除するように促す。彼女の言葉にイルミナは試合の勝敗は決したと判断すると、彼女は試合終了の合図を出そうとした。



「こ、この試合の勝者は……!!」

「待てっ!!」



イルミナが試合を終わらせようとした時、マドウが叫び声を上げる。彼の行動に誰もが驚くが、マドウは闘技台を指差す。


その彼の行動に全員が闘技台に視線を向けると、そこには倒れているはずのレナが右手を上空に伸ばし、握り拳を作る光景が映し出される。



「ぐぅっ……あああっ!!」

「ひいっ!?」



闘技台に振動が走る程の衝撃が広がり、素手の状態で頑丈な石畳に拳をめり込ませたレナが起き上がる。その全身には紅色の魔力が迸り、まだ戦意は衰えていない様子で立ち上がった。


服は切り裂かれ、身に着けていた鎖帷子も大きな切れ目が生まれていた。それでもレナの肉体には大きな傷はなく、吹き飛ばされた際の衝撃で身体は痛めているが、どうにか起き上がったレナは表情を歪ませながらも宣言する。



「まだ、戦えます……試合を終わらせないでください」

「に、兄ちゃん……!!」

「レナ、もう止めろ!!それ以上は無理だ!!」

「そうです!!これ以上やれば……」

「もう十分だよレナ君!!」



レナの言葉に仲間達は引き止め、明らかに誰が見てもレナはやせ我慢をしていた。しかし、本人は諦めるつもりはなく、切り裂かれた鎖帷子を脱ぎ捨てるとレナは拳を握り締めて向き合う。



「さあ、続きだ……!!」

「そ、そんな……も、もう諦めてください!!これ以上は無理です、死んじゃいますよ!?」

「舐めるなっ!!この程度の事で俺に勝てると思うなっ!!」

「ひうっ!?」



ヘンリーはレナの気迫に身体を震わせ、もう試合を諦めるように告げる。だが、そんな彼の言葉に対してレナは堂々と怒鳴りつけるが、肉体の方は明らかに無事ではない。


身体をふらつかせ、顔色を青くして今にも倒れそうな状態でありながら、レナは最後まで試合を諦めない。そんな彼の姿に試合を止めようとした者達も動く事が出来ず、ヘンリーは信じられない表情を浮かべながらレナを見つめる。



(な、何なのこの人……どうしてこんな状況で諦めないの?)



自分の魔法を直撃して立ち上がった人間などいなかったヘンリーは狼狽し、その一方でレナの方はゆっくりとヘンリーに近寄る。鎖帷子が破壊された以上は次のヘンリーの攻撃を受ければ無事では済まない事は承知しているが、それでも最後までレナは戦いを貫く気概だった。


胸元を抑えながらもレナは周囲に視線を向け、破壊された石壁の破片が散らばっている事に気付く。この状況を見てレナはヘンリーに勝つ手段を思いつき、右手に付与魔法を発動させたレナは最後の賭けに出た。

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