第357話 対抗戦最終試合〈レナVSヘンリー〉

「……悪いけど、こっちも引けないよ。なし崩し的に大将戦に出る事になったけど、大将が棄権なんてすれば面目が立たないからね」

「はあっ……そうですよね、無理を言ってすいません」

「えっと……では、試合の準備は大丈夫ですか?では東側と西側の陣地を決めて下さい」



レナの言葉を聞いてヘンリーは諦めたかの様にため息を吐き出し、二人はじゃんけんを行うと、勝利したレナが東側を選択する。ヘンリーは先に闘技台に移動すると西側の陣地へと移動する。



「あの……危ないと思ったらすぐに棄権してくださいね。取り返しのつかなくなるまえに……」

「たくっ……分かったよ」

「約束、ですよ……」



最後の最後まで自分が勝利する事を確信したようなヘンリーの態度にレナは呆れ果てるが、一方でここまでの自信を見せつけるヘンリーに警戒心を抱く。サブや他の弟子達の反応を見る限りでは彼が強い事は間違いなく、万全の装備を整えて挑む。


対抗戦の勝敗自体は既に騎士科の生徒側の勝ち越しだが、大将戦である以上はレナは他の皆のために全力で挑む。ここで負ければ騎士科の生徒の印象も悪くなるため、何としても勝たなければならなかった。



「兄ちゃん、負けるなよ!!」

「絶対に勝てっ!!」

「応援してるからね!!」

「……頑張ってください」

「ふぁいとっ」

「うん、ありがとう皆」

「……ぬうっ?今、誰か一人声が混じっていたような気がするが」



仲間達の声援を受けてレナは闘技台に上がると、既にヘンリーは西側に設置されている石壁の何処かに身を潜めたらしく、姿が見えない。一方でレナの方は闘拳、籠手、鎖帷子、ブーツを身に着ける。二人が闘技台に移動した事を監視水晶で確認したイルミナは頷き、最終試合の試合開始の合図を行う。



「それでは対抗戦最終試合……開始!!」



イルミナの声が響き渡ると、最初にレナは自分の陣地の石壁に身を隠し、まずはヘンリーの様子を伺う。迂闊に動いて攻撃を仕掛けられるのを避け、レナはどのような手段でヘンリーが攻撃を仕掛けてくるのかを待つ。


ヘンリーの称号が「砲撃魔導士」だとすれば今回の闘技台は相性が良く、身を隠す場所が多ければ迂闊に魔法は撃てない。しかし、仮にヘンリーが砲撃魔法以外の攻撃が使える場合も考慮してレナは身を隠しながらも移動を行う。



(様子見もほどほどにしておかないとな……近付く事が出来れば俺の方が早く攻撃できるはず)



左手の籠手に付与魔法を発動させたレナは何時でも「反発」を発動出来る状態に陥り、石壁を乗り越えて闘技台の中央部付近まで近付く。今の所はヘンリーからの攻撃の気配はなく、このまま問題なく近づけると思われた時、上空にて異変が生じた。




「――広域魔法……サンダーレイン!!」




闘技台にヘンリーの言葉が響き渡り、直後に闘技台の上空に大きさが10メートルを超える巨大な魔法陣が出現した。それを確認したレナは目を見開き、反射的に傍に存在する石壁に手を伸ばす。


本能で魔法陣の危険性を感じ取ったレナは石壁の一つに右手を押し付け、間接付与を利用して石壁に付与魔法を施す。そして魔法陣が発行した瞬間、石壁を浮上させて自分の頭上へと移動させた瞬間、魔法陣から複数の「雷」が降り注ぐ。



「うわぁっ!?」

「な、何だっ!?」

「雷!?」

「そんなまさか……!?」

「馬鹿なっ……あの年齢で広域魔法が扱えるというのか!?」



闘技台に無数の雷が降り注ぐ光景を見てミナ達も悲鳴を上げ、マドウに至っては信じられない表情を浮かべて覗き込む。イルミナも動揺を隠せず、ブラン達も冷や汗を流し、サブでさえも口を紡ぐ。


魔法陣から降り注ぐ雷撃に対してレナは石壁を利用して身を防ぐ事しか出来ず、周囲に東側の陣地に存在する他の石壁の殆どが破壊されてしまう。魔法が発動してから10秒ほど経過すると降り注ぐ雷撃も収まり、やがて魔法陣は完全に消失した。



「くっ……収まった?」

「な、何で無事なんですかぁっ……終わったと思ったのに」



レナは自分の頭上の石壁が雷撃に耐え切れた事に安堵しかけるが、西側の方からヘンリーの声が聞こえてきた。レナは顔を向けるとヘンリーは西側の端の通路から杖を構えた状態で泣きそうな表情を浮かべ、魔剣を構える。



「こ、これで終わってください!!ファイアボール!!」

「うわっ!?」



ヘンリーは火属性の砲撃魔法を発動させ、杖先に赤色の魔法陣が出現すると巨大な火球が誕生する。過去にレナが見た事があるムノーやシデの繰り出したファイアボールよりも倍近くの大きさの火球が放たれ、直撃はまずいと判断したレナは頭上を守護していた石壁を移動させて防ぐ。


イルミナの説明では下位の砲撃魔法程度ならば防ぐ事が出来るはずの石壁がヘンリーの放ったファイアボールに触れた瞬間、爆散してしまう。その様子を見たレナは直撃したら戦闘不能どころか命も危ういと判断し、咄嗟に身を隠そうとした。


しかし、既に先ほどの「広域魔法」によって東側に設置されていた石壁は全て破壊されていた。その事実を知ったレナはこのままでは身を防ぐ事が出来ない事に気付き、試合が開始して30秒も経過しない内に追い詰められてしまう。

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