第354話 黒炎流槍
「おい、聞こえているか!?試合終了の合図がされない所を見ると、まだ生きてるんだろう!?」
「……当然です!!」
「よし、まだ元気そうだな!!だが、さっさと降参しないと大怪我を負うぞ!!」
闘技台に余裕がある大声で話しかけてきたブランにナオは言い返すと、今度は3つの黒炎が同時に射出され、ナオが隠れている東側の石壁の通路に落下する。
(まずい!!このままでは逃げ場が……!!)
黒炎が落下する前に石壁を乗り越えてナオは東側の端に移動を行うと、両端を除いた全ての石壁に遮断された通路が黒炎によって飲み込まれてしまう。それを確認したナオは汗を流し、この汗は冷や汗などではなく闘技台の内部が熱気で覆われている事に気付く。
黒炎が城外に流れ込めないように既に闘技台の結界は作動しており、そのせいで結界で隔離された闘技台の内部は熱気が逃げ場を失い、温度が上昇した。ナオは全身から汗を流しながらも西側に存在するブランの姿を捉える。もう姿を隠す必要もないと判断したのか、身を屈めるのを止めて立ち上がったブランはナオに怒鳴りつけた。
「降参しろ!!もうお前に勝ち目はないぞ!!」
「……この程度の事で僕が負けるとでも?」
「はんっ!!虚勢を張るな、言っておくが俺は魔術師だ。魔法に対する耐性があるからこの熱気の中でも何とか耐えられる。だが、お前はもう限界だろうが!!」
魔法職の人間は誰もが魔法に対する「耐性」を持つため、隔離された空間内で自分の生み出した黒炎の「熱」に対してもブランは耐えることが出来た。しかし、ナオの方はまるで砂漠に放り込まれたかのような以上な温度の上昇に汗が止まらず、体力を消耗していく。
炎に身を晒さずとも追い詰められていくナオの姿を見てブランは勝利を確信する。しかし、ここで彼はドリスとの試合を思い返し、自分の勝利を確信したときこそ油断してはならないと判断したブランは、手元に黒炎を生み出して最後の警告を行う。
「……お前はよくやった!!あの女も馬鹿にした事は謝ってやる……だからさっさと降参しろ!!本当に死にたいのかっ!!」
「断る……僕は負けない!!」
「馬鹿野郎がっ……なら、くたばりやがれっ!!」
ナオの言葉にブランは怒りを抱き、上空へ向けて黒炎を放つ。その光景を見てナオは自分の元へ迫る黒炎を確認し、このままでは焼き尽くされるのは間違いない。しかし、親友であるドリスのため、そしてレナ達のためにもナオは敗北を受け入れるわけにはいかなかった。
迫りくる炎に対してナオは拳を握り締め、体内の「気」を込めて反撃に集中する。魔術師を倒す為に生み出した戦技であり、彼女は上空へ向けて拳を突き出す。
「はあっ!!」
「何っ!?」
ナオが拳を繰り出した瞬間、その凄まじい拳圧によって上空から接近してきた黒炎が掻き消されてしまう。その光景を目撃したブランは目を見開き、何が起きたのか理解出来なかった。
――ナオが使用したのは「遠当て」と呼ばれる戦技であり、これは拳闘家しか習得する事が出来ない戦技である。この世界における「遠当て」とは凄まじい拳圧から繰り出される衝撃波といっても過言ではなく、達人が繰り出した遠当てならば魔術師の砲撃魔法にも匹敵する威力を誇る。
しかし、遠当てを覚えたばかりのナオでは威力も精度も低く、せいぜい自分の拳を直接叩きつける程度の威力しか引き出せない。しかし、ブランの生み出す黒炎に対しては十分な効果を生み出し、上空から放たれた「黒炎流槍」を弾き飛ばす。
「そ、そんな馬鹿なっ……ふざけるな!!いったい何をした!?」
「動揺し過ぎですよ……それと貴方の魔法の弱点も分かりました」
「何だと!?出鱈目を言うな!!」
「嘘だと思うなら闘技台を確認したらどうですか?」
ナオの言葉にブランは辺りを見渡すと、何時の間にか自分が生み出した黒炎が消えて居る事に気付く。どうやら魔法の効果が切れた事によって闘技台を覆いこんでいた黒炎が消え去り、結界も解除された。そのお陰で黒炎の生み出した熱も外部に放出され、ナオは自由に動けるようになる。
「貴方の黒炎はドリスの炎よりも応用性は高いのは認めます。しかし、一度手元を離れた炎に関しては長時間の維持は出来ない!!違いますか!?」
「ぐっ……!?」
「勝負はこれからだ!!行くぞ、ブラン!!」
黒炎が消えた事で自由に動けるようになったナオは駆け出すと、石壁を飛び越えてブランの元へ向かう。そんな彼女に対してブランは怒りを抱き、両手を構えて合成魔術を発動させた。
「調子に乗りやがって……黒炎!!」
小細工を止めてブランは両手から火炎放射の如く黒炎を放出させ、広範囲に拡散した炎はナオの進路方向を塞ぐ。仮に上空へ逃げたとしても避けきれる事は出来ず、石壁を盾にして身を防ぐ事しか出来ないだろう。だが、ナオはこれまでの戦闘とドリスとの試合で黒炎の性質を見抜いていた。
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