第352話 ヒリンの暴走
「行くぞアマァッ!!」
「アマッ!?」
豹変したヒリンは破壊した石壁の瓦礫を拾い上げると、ミナに向けて投擲を行う。反射的にミナは回避する事に成功したが、それを見越してヒリンは右足で蹴り込む。
槍の柄を利用してミナは迫りくるヒリンの蹴りを防ごうとしたが、まるでミノタウロスの攻撃を想像させる程の衝撃が走り、彼女の身体は吹き飛ばされてしまう。そのままミナの身体は西側に存在する石壁を飛び越え、床に倒れる寸前でどうにか受身を取る。
「あいててっ……な、なにこの力……!?」
「逃げんじゃねえっ!!」
「わああっ!?」
石壁越しにヒリンの怒声が響くと、彼女は壁に腕を貫通させてミナの身体を掴もうとしたが、咄嗟にミナは後退して腕を回避する。常識外れのヒリンの攻撃にミナは慌てて逃げようとするが、ヒリンは壁を破壊して追いかけてきた。
「待てや小娘っ!!」
「小娘!?ちょっ、落ち着いて!?」
「うおらぁっ!!」
正気を失ったかのようにヒリンは石壁に向けて拳を突き出し、腕を貫通させた状態で振り払う。その結果、破壊された石壁の破片がミナの元に向かい、彼女に襲いかかって来た。
普通の人間ならば破片の餌食になっていただろうが、ミナは飛んでくる破片に対して槍を構えると手元で高速回転させて振り払う。
「大車輪!!」
「ちぃっ!?」
防御用の戦技を発動させたミナは全ての破片を弾き返すと、逆にヒリンの方へ破片を放つ。これまでの鍛錬でミナも腕を上げており、相手の攻撃を防御するだけではなく、反撃に転用する事も出来るようになっていた。
自分が放った破片が逆に襲いかかって来た事にヒリンは苛立ちの表情を浮かべ、破片を受けて傷付いた箇所を確認すると手元を伸ばす。すると最初の時のように傷口が光り輝き、怪我を治す。その光景を見てミナはヒリンの称号を改めて思い出す。
(回復魔法が使えるという事は……やっぱり治癒魔導士なの!?でも、治癒魔導士は回復専門の魔法しか使えないはずなのに……!!)
回復魔法を扱える魔法職は「治癒魔導士」と「修道女」だけであり、瞬時に怪我を回復させた事からミナはヒリンの称号が回復特化の治癒魔導士であると見抜く。
だが、治癒魔導士であるはずの彼女が戦闘職の人間顔負けの膂力を誇る事は理解できず、どうして魔法職の人間がここまで異常なまでの身体能力を所有しているのか理解出来なかった。
ヒリンは身体の傷を全て癒すと笑みを浮かべ、ミナと向き合う。一方でミナの方は後方に下がろうとしたが、何時の間にか自分が闘技台の端まで追い詰められている事に気付く。場外へ逃げる事は出来ず、左右には1メートルの大きさの石壁に囲まれたミナは逃げ場を失う。
「ここまでだガキ!!これで終わらせてやるっ!!」
「くっ……まだまだ!!」
ミナは槍を構えると自分が得意とする「螺旋槍」と呼ばれる戦技を発動させ、一か八か反撃を試みようとした。
しかし、ヒリンは予想に反して近付くような真似はせず、彼女はあろうことか自分の傍に存在する石壁に手を伸ばすと、そのまま石壁を持ち上げた。
「うおおおっ!!」
「嘘ぉっ!?」
石壁を両手で持ち上げたヒリンに対してミナは目を見開き、慌てて槍を構えるがヒリンは石壁を振り翳すとミナの元へ投擲を行う。投げつけられた石壁を見てミナは躱す事が不可能だと判断した。ならば彼女に残された手段は「破壊」だけだった。
逃げても無駄だと悟ったミナは槍を構えると、神経を集中させて手元で槍を回転させながら突き出す。ミナが最も得意とする戦技にして最大の威力を誇る突きが石壁に衝突する。
「螺旋槍!!」
「うおっ!?」
石壁に衝突した槍は見事に石壁を粉々に砕くと、そのまま勢いを止めずにヒリンの元へ突進したミナは槍を繰り出す。迫りくる槍に対してヒリンは咄嗟に両手で受け止めようとするが、螺旋の如く回転した槍を掴んだ瞬間に弾かれ、彼女の右肩を抉りこむ。
ヒリンは右肩に走った激痛に悲鳴を上げ、そのまま地面に倒れようとした。しかし、寸前で彼女は立ち直すと、ミナに向けて頭突きを喰らわせる。
「この……くそがぁっ!!」
「あぐぅっ!?」
二人の頭部が衝突するとミナは額から血を流して倒れ込み、一方でヒリンの方も右肩を抑えて倒れ込む。そのまま二人は動く事が出来ず、どうやら気絶してしまったらしい。その様子を監視水晶越しに確認したイルミナは慌てて声を上げる。
「し、試合終了!!この勝負、両者戦闘不能と判断して引き分けとします!!」
「すぐに結界を解いてください!!早く治療しないと手遅れになります!!」
「う、うむ!!頼んだぞ!!」
闘技台を覆っていた結界が解除されると、アイラが即座に二人の元へ駆けつけて傷の具合の確認を行う。ミナの方は脳震盪を起こして気絶したらしく、ヒリンの方は右肩を抉られた部分をすぐにアイラが回復魔法を施して治療を行う。
治療後は意識を失った二人は闘技台から運び出され、当面の間はベンチの上に横にさせておく。アイラの見立てではすぐにどちらも目を覚ますと思われ、その間に対抗戦は第四試合を行う事になった。
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