第351話 ヒリンの正体

「ふうっ……少々暑いですね、ちょっと脱いでもよろしいでしょうか?」

「え?あ、うん……どうぞ」

「ありがとうございます。では……」

『……えっ!?』



ヒリンは全身を包み込むローブを脱ぎ去ると、やがて無駄な肉が一切ない、凝縮された筋肉質な肉体が露わになった。彼女は、否、彼はローブを脱ぎ去ると短パンに上着一枚という恰好になり、身体の骨を鳴らす。


顔立ちも声音も女性にしか思えず、全身をローブで覆い隠した状態ならば何処からどう見ても大人びた少女にしか見えなかった。しかし、実際のヒリンは男性でしかもレナの師匠の一人であるキニクのような筋肉質の男性と知って全員が動揺を示す。



「ふうっ……やっぱりこの恰好が一番ですね~」

「え、えっ……えええっ!?お、男の子!?」

「あら~?私、女の子だと思われてましたか~?」

「……マジかよ!!」

「そ、そんな……好みのタイプだったのに」

「嘘でしょうっ!?」



ヒリンが男性と知ってレナ達は動揺を隠せず、デブリに至ってはその場に膝を付いて落ち込む。一方でブラン達の方は冷や汗を流し、サブでさえも頭を抑える。マドウとイルミナに至っては大口を開いて呆然と見詰める事しか出来なかった。


大きめのローブで露出を控えていた時のヒリンは何処から見ても少女にしか見えなかったが、実際の彼女はレナに戦闘技術を教えた剣闘士のキニクのような筋肉質の肉体をしており、全く女らしさを感じさせなかった。そのあまりの変貌ぶりにレナ達は信じられない表情を浮かべるが、すぐにサブが説明を行う。



「……事前に注意しておくが、別にヒリン自体は女装癖はない。そいつの顔も声も性格も女ようにしか見えないだろうが、本人は別に意識してあんな話し方や姿を隠しているわけじゃないぞ」

「ええ、その通りです~このローブも老師が人前に出る時は着るようにと言われて身に着けています~」

「そ、そうなんだ……」



ブランがヒリンの外見に関して説明を行うと、ミナは最初の内は動揺していたが気を取り直して槍を握り締める。ちなみに今回の彼女は実家に伝わる槍を持ち込んでおり、万全に戦える状態で向き合う。



「ほ、ほれ……気持ちは分かるが、早う試合の合図を行わんか」

「え、あ、はい。そ、それでは……試合開始!!」



イルミナは混乱しながらも試合開始の合図をサブに促され、慌てて合図を出す。ちなみにミナもヒリンも最初から闘技台の中央部に存在し、どちらも身を隠さずに向き合った状態で試合が開始された。



「い、行くよヒリンさん!!」

「ええ、どうぞお構いなく~」



まだ完全には混乱は抜けきっていないが、試合が始まるとミナはヒリンに接近し、手始めに彼女の注意を反らすために攻撃を仕掛けずに素早い動作でヒリンの周囲を移動する。ヒリンの身体つきを見た限り、魔法職の人間とは思えない程に鍛え上げられた肉体だと見抜いたミナは警戒を怠らない。


戦闘職の人間は魔法職の人間よりも必然的に身体能力が高いと一般的には言われている。しかし、先のツルギの件のように「魔法剣士」などの一部の魔法職の人間は戦闘職の人間の戦技も扱える程に高い身体能力を持つ場合もあり、実際に付与魔術師であるレナは幼少期から身体を鍛えていたので魔法の力無しでも肉体は強い。


ミナの見立てではヒリンの筋肉は決して見せかけではなく、彼が厳しい鍛錬を経て入手した武人の筋肉だと判断した。そのためにミナは決して油断せず、最初から本気で挑む。



「乱れ突き!!」

「おっとと」



ミナが繰り出した複数の突きをヒリンは細目を僅かに開いて身体を揺らすように回避を行い、距離を取ろうとする。そんなヒリンに対してミナは逃さず、立て続けに攻撃を行う。



「刺突!!」

「きゃっ!?」



悲鳴まで女性のような声を上げるヒリンはミナが突き出した槍を状態を反らして回避するが、その際に頬に僅かに刃が掠って血が滲む。予想以上に素早いヒリンにミナは体勢を整えるために距離を置くと、ヒリンは自分の頬に手を向け、出血している事に気付く。



「まだまだ、行くよ!!」

「……てぇなっ」

「えっ」

「いってぇなっ!!畜生がぁああああっ!!」

「ひうっ!?」



自分が傷ついた事を知った瞬間、ヒリンは目を見開き、髪の毛を逆立たせてミナを睨みつける。先ほどまでの優し気な表情が一変し、まるで修羅の如く恐ろしい表情になった彼は声音まで変化させてミナを睨みつけた。


唐突なヒリンの態度の変化にミナは戸惑うが、そんな彼女に対してヒリンは傷口に手を伸ばすと、掌から光を灯す。その直後、彼女の頬の傷口が消え去り、全身から白い魔力を溢れさせる。



「よくも俺様の顔に傷をつけたな、ガキがぁあああっ!!」

「俺様!?ガキって……うわぁっ!?」

「てめえは死刑決定だぁっ!!」



ヒリンはミナに対して突っ込むと、右腕を振り翳す。攻撃を受けるのはまずいと思ったミナは咄嗟に回避するが、そのままヒリンが突き出された拳は東側の石壁に衝突した瞬間、下位の砲撃魔法ならば堪え切れる程の耐久力と防御力を誇る石壁が「粉砕」した。





※ヒリンが男だったなんて……原案では年上のおっとり系お姉さんヒロインだったのに(; ゚Д゚)ド、ドウシテコンナコトニ……

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