第347話 禁句

――試合の結果はデブリの攻撃によって吹き飛んだツルギが意識を失い、審判役のイルミナが戦闘不能と判断してデブリの勝利に終わる。


ツルギはすぐに呼び寄せられた治癒魔導士のアイラが治療を施した事で大事には至らなかったが、処置が遅れれば大変な事になっていたという。



「全身の骨に罅が入ってましたね。一応は回復薬も飲ませましたし、回復魔法で怪我が酷い場所は治しましたけど、しばらくは安静にする必要があります」

「うむ、そうか……」

「デブリ君の方は怪我は酷くないので回復魔法だけで十分ですね」



ツルギとデブリの治療は終わると、二人の元に仲間達が集まり、ブラン達は意識を失ったツルギを見て信じられない表情を浮かべた。



「……まさか、ツルギが敗れるとはな」

「最初から本気を出さなかったこいつの落ち度だ。同情する余地はない」

「で、でも……ツルギさんも頑張ってましたよ?」

「う~ん、でもシュリちゃんの言う事が正しいわね~最初から本気を出せば良かったのに~」



デブリとの試合でツルギが最初から接近戦など挑まず、魔法を駆使していればツルギはデブリに勝利した可能性は十分にあった。相性的にはツルギの方がデブリよりも有利だったにも関わらず、自分の力を見せつけようとしたために敗北したような形になった。


しかし、どれだけ言い訳をしようとツルギがデブリに敗北したという結果は変わらず、これで騎士科の生徒は1勝を勝ち取る。遂に初勝利を飾ったデブリに大してレナ達は素直に褒め称える。



「はい、デブリ君。俺の弁当も食べていいよ」

「がつがつむしゃむしゃ……」

「あんちゃん、試合が終わってからずっと喰いっぱなしだな……」

「ですが、見事な試合でした。相性が悪い相手に勝つなんて凄い事ですよ」

「そうだね、これで僕達の1勝目だよ!!」

「はい、お茶」

「おう、ありがとう……あれ、今誰が用意したんだ!?」



試合中で失った血液を補充するかのようにデブリは食事に専念し、何処からともなく現れたシノから竹製の水筒を受け取って驚く。その様子をブラン達は悔し気な表情を浮かべ、まさか自分達が敗北するとは思いこんでいなかったのだろう。


圧倒的な力で全勝するつもりだったブランとしては今回の結果は気に入らないが、改めてレナ達の力を自分達が侮っていた事を認識する。先日の戦闘でレナ達が只者ではない事は見抜いていたが、それでも自分達に匹敵する力を持つなどあり得ないと思い込んでいた。


しかし、ツルギが敗れた事でブラン達も慢心を捨て、ここから戦闘は最初から本気で戦う事を決意する。何よりも敬愛する師匠の前でこれ以上に無様な敗北は認められず、次はシュリが名乗りだす。



「次は私が出る」

「おい、シュリ……」

「ツルギは私の親友だ、この借りは私が返す」



シュリが名乗りを上げると自分が出場しようとしたブランは眉を顰めるが、彼女が前に出るとコネコが真っ先に名乗りを上げる。



「よし、それならあたしが相手だ!!」

「……子供を痛めつける趣味はない、他の奴と交代しろ」

「何だと!?身長はあんまり変わりないだろうが!!」



コネコが名乗りを上げるとシュリはため息を吐き出し、他の人間に代わるように促すがコネコも負けじと言い返す。彼女がこの中で一番幼いのは事実だが、シュリの方もブラン達の方では明らかに一番の年下である事は間違いなく、コネコとはあまり年齢に差がないのは明らかだった。


恐らく同世代ぐらいだと思われるが、シュリはコネコに身長の事を指摘されて癪に障ったのか彼女は前にでると、コネコ負けずに至近距離で睨みつける。



「ふん、絶対にあたしが出るからな!!兄ちゃん達は邪魔すんなよ、この貧乳はあたしがぶっ飛ばす!!」

「ひっ……!?今のは聞き捨てならないぞ!!だいたい、貴様も大して変わりないだろう!!」

「へんっ!!あたしは大人になったボインボインになる予定なんだよ!!お前だって年上ぶってるくせにあたしより小さいじゃないか!!」

「殺す!!このガキ、殺すっ!!」

「お、おい……落ち着けよシュリ」

「あらあら~……相変わらず胸の事になると短気ね~」

「だ、大丈夫ですよシュリさん。シュリさんだってまだ成長期なんですから……」



コネコの安い挑発にシュリは怒りを露わにするが、それをブランが抑えつける。いくらなんでも試合の前に対戦相手と戦うのはまずく、彼はイルミナに早く試合を始めるように促す。



「こ、こっちの選手はこいつだ!!すぐに試合を初めてくれ!!」

「え、ええっ……では両選手、闘技台に上がる前に東側か西側を決めるじゃんけんをしてください」

「じゃんけんか……よし、いくぞつるぺた!!」

「殺すぞチビ!!」



シュリとコネコはじゃんけんを行った結果、コネコが勝利して闘技台の「東側」を選ぶ。シュリはじゃんけんに負けた事に悔しがるが、闘技台の西側に移動を行う。二人が闘技台に指定された位置に移動するのを確認すると、イルミナは試合開始の合図を行う。

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