第346話 力士と魔法剣士

「……サンダーブレード!!」

「うおおっ!?」



ツルギが魔剣を振り下ろした瞬間、刀身に纏っていた電流が放出され、雷の如く放たれた。幸いにもデブリは剣が振り下ろされる前に回避行動を取っていたので避けられたが、放たれた電撃は東側の石壁に直撃し、並んでいた二つの石壁を破壊する。


その威力を見てデブリは驚愕の表情を浮かべるが、彼が驚いたのは魔法だけではなく、ツルギの発した「声」であった。攻撃を行う際には詠唱が必要らしく、ツルギはすぐに口元を覆うと距離を取る。そんな彼に対してデブリは冷や汗を流しながらも向き合う。



「お前、その声……」

「……黙れ」



動揺を隠せないデブリにツルギの方は忌々しそうな表情を浮かべ、彼は魔剣を構えた。その様子を見てデブリが彼がどうしてずっと言葉を発しなかった理由を知る。



(こいつ、どう見ても男なのに……まるで女の子のような可愛らしい声だったぞ!?)




――ツルギが常に言葉を口にせず、常日頃からノートを持ち歩いて筆談で会話をする理由、それは彼の「声」があまりにも可愛らしい少女のような声である事が原因だった。ツルギは正真正銘の男であり、外見は強面で身長も体格も大人並である。それにも関わらずに声だけはまるで可憐な少女の声のように幼く、可愛らしさを思わせる声音であった。




本人はこの外見からは考えられぬ可愛らしい声の事をコンプレックスに想い、滅多に言葉を発する事はない。だが、魔法を発動させる際はどうしても言葉を口にしなければならず、それ故に彼が戦闘以外の場面では常に筆談で会話を行う。


秘密を知られたツルギは怒りに頬を紅潮させ、デブリへと魔剣を構えた。先ほどはどうにか回避したデブリだが、ツルギは師であるサブと同じく「魔法剣士」という特殊な称号を持ち、驚くべき事に彼は剣士の戦技もいくつか使用できた。



「旋風!!」

「うおっ!?」



横薙ぎに剣を振り払う戦技を発動させ、ツルギはデブリの大きな腹を切り裂こうとした。しかし、見かけによらず俊敏な動作でデブリは攻撃を回避すると、ツルギは続けて戦技を発動させる。



「回転!!」

「おっとっ!!」



下から刃を回転させる要領で切り上げるが、それさえもデブリは横に動いて躱し、苛立ちを抑えきれないツルギは今度は上段から振り下ろす。



「兜割りっ!!」

「この、いい加減にしろ!!」



しかし、上段から刃を振り下ろしたツルギに大してデブリは掌底を繰り出すと、刃を交わしてツルギの額に叩きつける。単純な腕力はデブリが遥かに上回り、最初の攻撃の時のようにツルギは吹き飛ばされ、彼は西側の石壁に叩きつけられた。


回避行動をとりながらの反撃だったためにデブリも力を加えられなかったが、戦闘職の中でも「力」に秀でた力士の称号のデブリの攻撃は重く、威力も高い。ツルギの方は頭を抑えてどうにか立ち上がるが、危うく意識を失いかける。



「くっ……!?」

「お前、馬鹿にしているのか!!僕は毎日のようにレナ達と訓練してるんだ!!そんなへっぴり腰の戦技なんか喰らうはずがないだろう!!」



デブリの言葉は正論であり、いくら魔法剣士が剣士の戦技を扱えるといっても、相手が本職の戦闘職の人間だった場合は効果的とは言えない。そもそもデブリは普段から訓練で剣士の称号を持つ人間とも組手を行い、剣士ではないが騎士科の中でもトップクラスの実力を持つレナ達とも対戦を行っている。


騎士科の生徒と比べればツルギの扱う剣士の戦技など未熟で軌道も読みやすく、攻撃を躱すのは容易い。相手が魔法職の人間ならば対応は難しいかもしれないが、戦闘職であるデブリに生半可な剣士の戦技で対抗しようとしたのは悪手であった。



「……どうやら、お前の事を舐めていたようだ」

「ふん、僕を舐めるなっ!!」

「だから、全力で潰す」



自分の失態を認め、身体をふらつかせながらもツルギは起き上がると、魔剣を上段に構えて再び刀身に電流を迸らせる。しかも今度は先ほどの比ではない電圧を誇り、それを見たデブリも冷や汗を流す。


しかし、初めての対抗戦の事を思い返し、今度こそ仲間のためにも自分のためにも勝利するためにデブリはその場で四股を行う。どうやらツルギの方も攻撃を集中するために刀身に電流を迸らせ、その様子を見たデブリは構えをとる。



(正面から挑む……僕にはそれだけしか出来ない)



刀身に電流を迸らせるツルギに大してデブリは両足の血管を浮かばせ、狙いを定めて向かい合う。攻撃を行うのは自分からではなく、相手が動いた時であり、全神経を集中させてデブリはツルギと向き合う。


やがて刀身に十分な魔力を纏わせたと判断したツルギは口を開いた瞬間、デブリは反射的に前へと踏み出す。下手に回避や防御をしたところで勝機はないと判断したデブリは本能で身体が動いていた。



「サンダーブレッ……!?」

「ここだぁっ!!」



先ほどの攻撃でデブリはツルギが攻撃を行う時は必ずや「詠唱」を行う事を見抜き、そうでなければあれほど自分の声を他人に聞かせるのが嫌いなツルギが口を開くはずがない。


ツルギが剣を振り下ろして魔法を発動させる前にデブリは全力の「ぶちかまし」を放ち、闘技台に轟音が鳴り響いた――

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