第343話 結界

「この石壁は必ずしも魔術師以外の方が有利になるとは限りません。確かにこちらの石壁は物理攻撃には強いですが、先ほども言ったように下級の砲撃魔法でも破壊する事は出来ます。つまり、石壁に身を隠していようと下級以上の砲撃魔法を受けた場合は被害は免れません」

「なるほど……つまり、過信してはならないという事ですか」

「そういう事です。続けて闘技台の石畳に関してですが、こちらの方は物理攻撃も魔法攻撃に対しても強い素材で構成されています。また、四方に設置されている石柱から試合を撮影していますので注意してください」



イルミナは闘技台の四方に設置された石柱を指差すと、石柱の上には水晶玉のような物が設置されており、それを通して試合の選手の様子を観察しているという。この水晶玉を通して各教室には対抗戦の映像が流れ、恐らくは撮影された映像は王城の方でも流されるだろう。


先の対抗戦の時もレナ達の試合に関しては王城の将軍や兵士にも放映されており、ジオもそれを見てレナの事を高く評価していた。だが、逆に言えば大勢の人間がこの対抗戦に注目している事を示し、無様な敗北をすれば悪い評判の的になってしまう。



(そういえばシノは何処で見てるんだろう……応援してくれるとは言ってたけど)



ここでレナは密かに応援に駆け付けると言っていたシノの事を思い出し、間違っても彼女が闘技台の監視水晶に映らない事を祈る。


シノの事だから上手く隠れていると思うが、もしも気付かれた場合は面倒な事態に陥るだろう。説明を終えたイルミナは闘技台から降りると、最後に試合の勝敗に関して確認を行う。



「試合の勝敗に関しては対戦相手を戦闘不能に追い込む、降伏させる事が勝利条件です。また、試合中に他の人間の協力も禁じられています。この場合は声援と称して細かい指示を与える事も禁止とします。一応は忠告しておきますが、マドウ大魔導士とサブ魔導士もお気を付けください」

「うむ、承知した」

「分かっとるわ!!こんな事で贔屓はせん!!」



試合中に声援は送る事は禁止されないが、選手の試合中に対抗戦に参加する生徒の師であるマドウやサブは「助言」と捉えられるような言葉を生徒に告げるのは認められない。


また、他の生徒も仮に試合中に相手を見失った選手に対し、敵の選手の居場所を知らせるなどの情報伝達は認められない。あくまでも仲間の選手を励ます言葉ならば問題はないが、試合の内容に影響を及ぼすような具体的な助言は禁じられた。



「それと前々回の反省を生かし、今回の対抗戦では乱入者が現れないように校舎内には魔術兵を待機させています。試合の妨害を行うような輩がいれば即刻我々が阻止しますのでご安心ください」

「あの……もしも闘技台から落ちた場合はどうなるんですか?場外負けですか?」



今回の闘技台は屋上に設置されているが、闘技台の周囲には金網や鉄柵などは存在せず、闘技台から降りた場合はペナルティがあるのかとレナは質問すると、イルミナはその心配をする必要はない事を告げる。



「マドウ大魔導士、準備はよろしいですか?」

「うむ、既に作動させている」

「あの……?」



イルミナはマドウの言葉を聞いて頷くと、彼女は闘技台の下に存在するレナ達に手を向け、人差し指に装着している「指輪」を光り輝かせる。それを見たレナ達は驚き、慌てて身構えるとイルミナは魔法を発動させた。



「ファイアボール!!」

「うわっ!?」

「安心せい、ちゃんと瞼を開いて見よ!!」



サブの言葉にレナ達は目を見開くと、イルミナの放ったファイアボールに対して闘技台の四方に設置されている水晶玉が光り輝き、緑色の障壁を生み出す。闘技台を取り囲むように出現した「結界」によって彼女の魔法は阻まれ、消散してしまう。


仮にも一流の魔術師であるイルミナの砲撃魔法を防ぐ程の強度を誇り、それを見たレナ達は驚く一方、ブランは小馬鹿にする態度を取る。



「何だ?魔法学園の生徒は結界石の事も知らねえのか?」

「う、うるさい!!」

「……なるほど、結界が張られている以上は外に出る事は出来ない、と」



闘技台を観察すると石柱には頂点の部分以外に柱に緑色の魔石が埋め込まれ、それを見たレナは「結界石」と呼ばれる魔石が埋め込まれている事に気付く。この結界石を発動させれば物理攻撃も魔法攻撃も防ぐ障壁を生み出せるため、試合中の選手が闘技台の外へ逃れる事は出来ないらしい。


結界石の発動はマドウが行っているらしく、イルミナが闘技台から降りる時は彼の手で結界が解除された。それを見たコネコは何かを考え込む素振りを行い、面白い事を思いついたとばかりに笑みを浮かべた。



「結界か……へへ、これは利用できそうだ」

「え?どうしたのコネコちゃん?」

「何でもないよ、それより早く試合始めようぜ!!いったい誰が出てくるんだ!?」

「待ってください、最後の説明が残っています」

「って、何だよ……まだあるのか」



コネコの言葉にイルミナが制止すると、調子を狂わされたコネコは仕方なく立ち止まると、イルミナは今回の対抗戦の試合方式を説明する。



「今回の試合方式は1対1の団体戦となります。勝敗に関係なく、試合に出れるのは選手1人につき1度限りとさせていただきます。また、何らかの理由で試合に出場が出来ない選手がいた場合、自動的に相手選手の不戦勝となりますので注意ください。以上が対抗戦の規則となります、何か質問はありますか?」



イルミナの言葉に誰も手を上げず、彼女は準備が整ったと判断すると最初の対抗試合の選手を尋ねる。

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