第344話 先鋒は誰か……
「では、これより第一試合を開始したいと思います。両陣営の選手は闘技台に移動してください、また選手の選別に関しては各陣営の判断で自由に行ってください」
「ん?どういう意味だ?」
「自分達で誰が出場するのかを勝手に決めていいという事」
「ああ、なるほど……あれ!?今、耳元でシノの姉ちゃんの声が聞こえたような……」
イルミナの説明にコネコが疑問を抱くと、何処からかシノが説明を分かりやすく解説を行う。気配は感じられないが、レナ達の傍で隠れているらしく、既に屋上内に忍び込んでいるらしい。
レナ達は向かい合い、誰が出場するのかを悩む。ブラン達の方も誰が出るのかを話し合っており、出場する選手を決めかねていた。今回の試合は事前に誰が出場するのかは分からないため、誰が出場するのかを決めるためにレナは全員に尋ねる。
「どうしようか……最初の試合に出たい人はいる?」
「はいはい!!それならあたしが出る!!」
「いや、ここは僕に任せろ……というか、僕に任せてくれ」
「え?どうしたのデブリ君?」
「少し、考えがある。最初は僕が出るぞ」
「あ、あんちゃん!?」
先方戦を希望するコネコを押し退け、覚悟を決めた表情を浮かべたデブリはレナ達の元を離れて前に出ると、まだ話し合いを行うブラン達に大声で話しかけた。
「おい!!最初に試合に出るのはこの僕だ!!」
「ええっ!?きゅ、急に何ですか!?」
「いちいち誰が出るのか探り合いするのは面倒だ!!僕と戦いたい奴がいるのなら相手にしてやる!!」
「で、デブリ君!?」
「なるほど、いちいち隠し立てせずに堂々と出てこいという事か……いいだろう、そこまでいうならこれからの試合は全部、お前らが戦いたい奴を用意してやる!!」
「寝ぼけるな!!それはこっちの台詞だ!!僕と戦いたい奴がいるのか聞いてるんだ!!」
「ちょ、ちょっと皆さん……」
「ふむ、これは面白い事になったのう」
「確かに規則では戦う相手を両陣営が相談して決めてはならないという決まり事はない……好きにさせよう」
胸元を力強く叩いて挑発するように話しかけたデブリに対し、ブラン達は彼の意図を察して互いの顔を確認してどうするべきかを話し合う。
その様子を見ていたイルミナは戸惑うが、サブもマドウはデブリの行動を特に止めるような真似はせず、誰が誰と戦うのかは生徒に自由にさせた。そしてデブリに対戦を挑みたい人間が1人だけ存在し、大きなノートを抱えたツルギが前に出る。
『貴様の相手は俺だ、オーク狩りは得意だからな』
「ふん、僕をオークと一緒にするとはいい度胸だな!!」
『オークは塩焼きで食うのが一番だからな』
「いや、僕を塩焼きにして食べる気かお前!?」
何処からともなく塩の入った小瓶を取り出したツルギにデブリは警戒するが、その様子を見てイルミナはため息を吐き出し、一応は規則上は問題はないので二人の対戦を認めた。
「……では、二人とも闘技台の上に上がる前にじゃんけんをしてください」
「じゃ、じゃんけん?」
「勝った選手に先に闘技台の「東側」か「西側」を選んでもらいます。今回の試合は両選手は闘技台の両端に待機してもらう決まりとなっています」
「な、なるほど……よし、それならじゃんけんだ」
『後出しするなよ』
イルミナの言葉にデブリはツルギとじゃんけんを行い、勝ったのはデブリだった。彼は闘技台の東側か西側の選択肢に対し、深くは考えずに東側を選択した。理由としては西側を選択すると現在の位置的に反対側に回り込まなければならず、面倒なので東側を選択した。
西側にツルギは移動を行い、デブリが東側に立つとイルミナが監視水晶越しに両選手の位置の確認を行い、試合を開始させる。
「それでは第一試合、開始!!」
「行くぞ、腐れ魔法使いめっ!!」
『…………』
デブリとツルギは同時に動くと真っ先に石壁を潜り抜けて闘技台の中央部へ向かい、互いに向き合うと足を止める。デブリはツルギの行動に注意を行い、何度も魔術師には痛い目に遭わされているので油断はしない。
実際の所、デブリは魔術師との戦闘で勝利した事は少ない。魔法学園の授業で合同訓練の際に魔法科の生徒と戦う事はあるが、勝率はそれほど高くはない。大抵の魔術師はデブリが突っ込んでくる前に魔法を浴びせて怯ませ、その隙に止めを刺す。
タンク役として優れている盾騎士の場合は魔法の種類にはよるが、身に着けている大盾や盾で魔法を防いだり、あるいは受け流して相手に接近する事も出来る。
だが、デブリの場合は身を守るどころか攻撃に利用できる装備すら身に着けない。しかも生身の状態で魔法を受ければ命に危機に瀕する。それでもデブリは自分を守る装備を身に着けないのは彼の「力士」として信念があった。
――真の力士は攻防を統一化させ、あらゆる攻撃を跳ね返しながら相手を倒す。それがデブリが亡き父親から教わった言葉だった。デブリは毎回敗北したときは自分が不甲斐ないばかりに「力士」としての力を引き出せなかったと思いこみ、決して力士という称号が他の職業に劣るとは考えない。敗北したのはあくまでも力士の本当の力を自分が引き出せないからだとデブリは信じていた。
どんなに相性が悪いと言われようとデブリは自分の戦闘スタイルは覆す事はせず、あくまでも力士として彼は戦い続ける。だが、今回の相手は只の魔術師ではなく、より彼にとっては最悪の相性の相手である事を思い知らされる。
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