第342話 規則説明

――ブラン達に誤算があるとすれば魔法科の生徒の中ではドリスの存在と騎士科の生徒達だった。ブランがドリスとの試合で敗北した事は彼等も予想外だったが、試合内容を見れば魔術師として実力が上回っているのはブランである事に違いはない。


しかし、敗北したという事実は覆せず、自分だけが負けたという事をサブに報告出来るはずがなかった。そこで前々からサブが自分達に話をしていた「付与魔術師」のレナの事を思い出す。ブラン達はてっきり彼も魔法科の生徒だと思いこんでいたが、まさか騎士科の生徒として入学している等思いもせず、魔法科との対抗戦で彼が出場していない事に疑問を抱いていた。


サブでさえも一目置いていた魔術師を倒す事が出来ればブランの面目が立ち、更にシデの失態を打ち消せると彼等は考えた。シデの敗北は予想以上に噂となっており、巷ではサブの弟子がマドウの弟子に敗れたとさえ言われている。これまでにサブは弟子の教育面においてはマドウよりも高い評価を受けていたはずだが、その評価も過大評価ではないかと噂されている。


大魔導士であるマドウが偉大な人間である事は悔しいがブラン達も認めており、実際に魔術師としての腕はマドウがサブを上回るだろう。しかし、弟子の教育に関してまでマドウがサブを上回っているなどという噂までは認められず、彼等が魔法学園に入学した真の理由はレナを打倒し、サブの名声を取り戻すためだった。




――あくまでも師の恩に報いるため、マドウの教え子などよりも自分達こそが優秀である事を示すために彼等は学園へ訪れた。ブラン達の自分達を拾ってくれた目的はサブの恩を返すため、今回は全力で勝負を挑むつもりで来た。




「ふむ、お主らが何を考えているのかは手に取るようにわかる。お主らの気持ちは嬉しい、ならば師として儂から言える事は全力で挑め……それだけじゃ」

『はい!!』

「ふむ、では儂からも教え子に助言を送ろう……気負う必要はない、悔いのないように戦え、分かったな?」

『おうっ!!』



サブの言葉に弟子達は頷き、一方でレナ達もマドウの言葉に力強く頷く。そして全員が向かい合うと、審判役をマドウが呼び出す。



「今回の対抗戦の審判役は公平を期すため、黄金級冒険者のイルミナ殿に来てもらった」

「お久しぶりです。マドウ大魔導士、サブ魔導士」

「おお、イルミナではないか!!相変わらず良い尻をしとるのう」

「ろ、老師……こんな場所でセクハラは止めてください!!」



イルミナが現れると先ほどまでの威厳たっぷりだった態度はどうしたのか、サブがだらしない表情を浮かべてイルミナへ近づこうとしたところを弟子達が引き留める。


サブのセクハラ発言にイルミナの方は聞きなれているのか特に反応も示さず、レナに視線を向けると彼女は軽く会釈を行う。知らない仲ではなく、勧誘も受けた事もある相手だが、勝負事になると彼女は私情を挟まずに審判役に勤める。



「ではこれより対抗戦を開始するまえに規則の説明を行います。質問があれば遠慮なくしてください」



対抗戦に関してはここにいる全員が1度は経験しているので知ってはいるが、今回は闘技台が異なるために彼女はまずは闘技台に設置されている石壁を指差す。



「この石壁は特殊な大理石で構成され、下級の砲撃魔法ならば1発程度は耐え切れます。これを上手く使い、相手の攻撃を防ぎ、身を隠す事も出来るので上手く活用してください」

「へっ……良かったなお前等」



石壁に関しては遠距離攻撃の術を持たない騎士科の生徒達のために設置されたようであり、障害物が存在しない場所で戦うよりも有利な点が多い。魔術師の場合は砲撃魔法で遠距離攻撃を行えるため、障害物がなければ恰好の的になってしまう。


しかし、逆に利点だけがあるわけでもなく、石壁のせいで闘技台の全体図が把握できず、障害物が多すぎる事で相手の位置を掴めずに鉢合わせする可能性もある。但し、闘技台の中央部には石壁は設置されておらず、石壁は端のほうに密集していた。



「この石壁に関しては試合中に破壊されても撤去も修復も行われません。仮に試合の前半で全ての石壁を破壊されていたとしても新しい石壁の設置や瓦礫の処理は行わないので注意してください」

「なるほど……つまり、試合の経過にはよるけど後半の試合の出場者は前半の出場者よりも身を隠す石壁が紛失している可能性もあるのか」



前半の試合で石壁を破壊されればされるほどに後半に出場する選手は身を隠す障害物が少なる事を意味しており、下手をしたら全ての石壁を破壊されて身を隠す手段を失う可能性もある。


今回の対抗戦はこの石壁をどのように上手く利用するのかが鍵になるかもしれず、レナは石壁を見て不意にある事に気付いた。だが、その疑問を口にする前にイルミナは説明を続けた。

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