第338話 装備完成

――その日の晩、レナは自分の部屋の中でベッドの上で横になっていると、荒々しく扉がノックされた。何事かとレナは扉を開くと、そこには全身が汗だくの状態のムクチが立ち尽くしていた。


彼が訪れて来た事にレナは驚くが、ムクチの傍にはパジャマ姿のコネコと猫の抱き枕を抱えるシノの姿も存在し、どちらも眠っていた所を起こされたのか眠そうに瞼を擦っていた。いったい何の用なのかとレナが尋ねる。



「ムクチさん!?どうしたんですか!?」

「……いいから、工房に来い」

「えっ?」

「何だよもう……こっちは眠ってたのに」

「ZZZ……」

「いいから来い!!」



ムクチは珍しく大声をあげて怒鳴りつけると、3人は戸惑いながらも後に続く。ムクチに連れられて地下の工房に辿り着くと、作業台の机の上に完成した装備品が並べられていた。




――机の上に置かれていたのは漆黒の闘拳と籠手、そして新しいブーツが「二足」も用意されていた。それを見たレナは驚き、ムクチは鼻息を鳴らして満足げに頷く。




「お前達の装備品だ。遂に完成したぞ」

「え、お前達……?」

「このブーツは小娘の分だ。遠慮なく受取れ」

「マジで!?」



自分の分の装備も用意していたというムクチにコネコは眠気を吹き飛ばして机の上のブーツを回収すると、本当に自分の足のサイズに合わせてある事に気付く。しかもブーツには鳥の翼を想像させる装飾品も装着しており、更に風属性の魔石まで装着されていた。



「こいつは獣人族が扱う「バトルブーツ」と呼ばれる道具を参考に作り出したブーツだ。素材はミノタウロスの皮で作っているから、鋼鉄よりも軽いのに頑丈さは鋼鉄以上を誇る。靴底の方には薄い金属板を仕込んである」

「おおおおっ……遂にあたしの時代が来た!!」

「じゃあ、こっちのブーツは……」

「お前のは靴の先端と靴底の方は金属だ。他の部分はミノタウロスの皮で作ってある。足のサイズは合わせたはずだが、一応は履いてみろ」



レナとコネコは言われるがままにブーツを履くと、二人ともサイズが合わせてあるので特に問題はなかった。これまで金属製のブーツを履いていただけに皮製のブーツを履いたレナは慣れるのに少し時間は掛かったが、コネコは興奮が収まり切れないように蹴りを繰り出す。


しっかりとサイズが合っているので動く分には申し分はなく、それどころか不思議と履いた瞬間に身体が軽くなったような感覚に陥り、コネコはその場で跳躍すると空中で回転しながら飛び回る。



「うわ、これ凄い!!かなりいい感じだ、このまま空でも走れそうな気がする!!」

「それは少し大げさ」

「大げさじぇねえよ、おい小娘。足に取り付けてある魔石があるだろう?そいつを回してみろ?」

「え?これの事か……?」



コネコは踵の付近に嵌め込まれている風属性の魔石に触れると、まるでネジのように回る事が判明する。しかも回した瞬間に魔石に蓄積された風属性の魔力が溢れ出す。


次の瞬間、レナの「反発」を想像させる衝撃波がブーツから放たれ、そのままコネコの身体が勢いよく浮き上がると天井に頭にぶつけてしまう。



「ぎゃんっ!?」

「コネコ!?」

「……今のは痛そう」

「おっと……回し過ぎないように注意するのを忘れていたな」



床に落ちたコネコは痛そうに頭を抑えてその場を転げまわるが、すぐに頭にたんこぶを作りながらも起き上がり、興奮した様にブーツを褒め称える。



「す、すげぇっ……何だ今の!?あたし、空を飛んだぞ!?」

「そいつは風属性の魔石の力で空を飛ぶことが出来る。本当に空を駆け抜けるように飛ぶことも出来るだろう」

「マジかよ!!流石はドワーフのおっちゃんだぜ!!じゃあ、兄ちゃんのも飛べるのか?」

「レナのブーツの方は特に特別な仕掛けはない。だが、前に使っていたミスリルのブーツよりは軽く、扱いやすいだろう。あくまでもお前の装備は全て機能の強化に勤めた」

「はい。凄く足が動かしやすいです」



コネコがムクチに抱き着くと、彼も自分の作品が褒め称えられて悪い気分はしないのか、珍しく上機嫌な表情を浮かべる。その一方でレナの方は自分のブーツに視線を向け、こちらの方は動きやすさを重視して皮製のブーツにしたらしい。


全体が金属製のブーツであったときと比べ、ミノタウロスの皮で作り上げられたブーツは動きやすく、これならば移動の時も問題はない。踵とつま先の部分には金属が取り付けられているので足で攻撃するという点も特に問題はなく、最後にレナは机の上に置かれている闘拳と籠手に視線を向けた。



「そしてこいつが……お待ちかねの闘拳だ」

「黒硬拳、でしたっけ?」

「無理にその名前で呼ぶ必要はないがな……受け取れ」



レナは漆黒の闘拳と籠手を受け取り、そのあまりの重量に身体が倒れそうになるが、咄嗟に付与魔法を施す。闘拳と籠手に紅色の魔力が宿った事で自由に持ち上げられるようになり、両腕に装着を行う。


先代のミスリル製の闘拳よりも頑丈さと耐久力を遥かに上昇したと思われる闘拳と籠手にレナは興奮を抑えきれず、試しに拳を突き出す。世界最高の魔法金属で構成されているだけはあり、この闘拳ならばいくらレナが付与魔法を施そうと耐え切れるという確信が芽生えた。

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