第337話 仕返し

「――畜生、あいつらのせいで結局校舎の掃除をやらされる羽目になった!!」

「コネコがあいつらと同じ部屋で反省文なんて書きたくない、なんてごねたせい」

「まあ、気持ちは分かるけどな。あいつらと一緒にいるだけでむかむかして反省文どころじゃなかったし……」

「少々、やりすぎましたね……」

「あはは……まあ、もう終わったんだからよしとしようよ」



レナ達は反省文を書かず、代わりに夕方まで校舎の掃除を行う事で許され、帰路につく。予想外に時間はかかってしまったが、あれほどの騒ぎを起こして掃除だけで許してもらえた考えれば学園側も寛大な処置を下したといえる。


だが、掃除が終わってもコネコを筆頭にデブリやナオはサブの弟子5人の事が許せず、ミナもシノも表面には出さないが内心は穏やかではない。しかし、一番心を乱しているのはレナである事は明白で彼は掃除の間もずっと喋っていない。


先ほどから黙り込んでいるレナに他の者達は不安を抱き、一番付き合いが長いコネコでさえも話しかけられなかった。しかし、校門を過ぎ去ろうとした時にレナは立ち止まり、ゆっくりと口を開く。



「ブラン……」

「えっ?どうかしたのか兄ちゃん?」

「さっきの奴がどうかしたのか?」

「違う、本人がそこにいる」

「ふんっ……やっとお出てきやがったか」



ブランの名前を口にしたレナにコネコとデブリは戸惑うと、シノが校門の陰に隠れていたブランを指差す。彼はレナ達を待ち構えていたのか鼻に絆創膏を張り付けた状態で睨みつける。



「あ、お前!!あたしに蹴っ飛ばされた奴!!」

「ブランだ!!さっきはよくもやってくれたな……この借りは必ず返すぞ」

「俺達に何の用?さっきの続きがしたいの?」



レナはブランの言葉を聞いてコネコを庇うように前に出ると、ブランはレナの言いようの知れない気迫に気圧されるが、冷や汗を流しながらも向き合う。



「そう殺気立つなよ……ここで俺がずっと待っていたのはお前達に言いたいことがあるからだ」

「どういう意味ですか?まだ僕達に用事があるんですか?」

「ああ、正直に言えば俺達はお前等の事を舐めすぎていた……魔法学園なんて言うからどんな優秀な魔術師がいるからと思えば、期待外ればっかりでがっかりしていた所だ」

「ドリスに負けた癖によくそんな口が利けるな」



普段は大人しいナオだが、ブランの言葉には聞き捨てならずにドリスの名前を口に出すと、彼は忌まわしそうにナオを睨みつける。だが、一番の親友を侮辱するような発言にはナオも黙ってはいられず、正面から睨み返す。


一触即発の雰囲気になりかけるが、レナがナオを制止てブランと向き直る。ここで騒動を起こすのはまずく、ブランが自分達に会いに来た理由を尋ねた。



「それで、俺達に会いに来た本当の理由は?」

「……結論から言わせると、俺達はお前等の事を侮っていた。それは認めてやる、まさか騎士科の生徒にここまで俺達を相手にやりあえる奴等がいるとは思いもしなかった」

「それはどうも」

「だが、このまま決着を付けないというのは納得がいかねえ。そこでお前等に提案だ、俺達は決闘を申し込む」

「決闘!?」

「それは……対抗戦をしたいという事か?」



ブランの発言に全員が驚き、ナオが意図を察して尋ねるとブランは頷く。魔法科の生徒を倒せば自分達こそが学園最強だと思いこんでいたブランだが、想っていた以上に魔法科の生徒には歯応えがなく、逆に眼中に入っていなかった騎士科の生徒達がここまで強いとは思わなかったという。


正直に言えばブランは本当に騎士科の生徒の強さには関心を抱き、魔法科の生徒よりもレナ達の方が優れていると思っていた。だが、それでも尚ブランは自分達こそが優れていると証明するため、レナ達に対抗戦を申し込む。



「俺達はお前等に対抗戦を申し込む!!試合形式は1対1の決闘方式だ、俺達5人に対してお前等も5人で来い。何だったらもっと大人数でもいいんだぞ?あのドリスとかいう女を含めて7人で来てもいいぞ?」

「何だと……僕達を舐めているのか!!」

「お前等なんてあたし一人で十分だ!!ば~か、ば~かっ!!」



挑発じみたブランの言葉にデブリとコネコは頭に血が上るが、そんな彼等にブランは高笑いを浮かべて背を向け、その場を立ち去る前に告げる。



「やる気があるのなら明日の朝に魔法科の教室に来い、ちなみに俺以外の奴等にも対抗戦の話は通してある。全員、お前らが承諾するなら戦ってやってもいいだとよ」

「……本気で言ってるの?」

「僕達を舐めているのか……」

「どうどう……」



上から目線の発言にミナとナオでさえも苛立ちを隠さず、シノだけは冷静に二人の肩を掴んで抑える。ブランは余裕の態度でそのまま歩き去ろうとするが、そんな彼を見てレナは黙って両手を地面に置くと、地属性の付与魔法を発動させて彼の足元の土砂を操作して転ばせた。



「ていっ」

「あいでぇっ!?」

『あっ……』



ささやかな仕返しを実行したレナによってブランは情けなく転倒し、その様子を見ていた他の者達は声を上げる。


ブランは顔を真っ赤にして慌てて立ち上がると、何もない場所で転んだことに混乱するが、恥ずかしさを誤魔化すように彼は走り出す――

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